第6話 水戸城とコスプレ衣装

 兄が朝食を食べてから後を追うと言うので、玄関の鍵を任せることにした。


私はすぐさま母を追いかけて、商店街の方へ走った。

(何か、生け垣長くない?道路も土だし、連休とはいえ車が走ってないなんてありえないんだけど・・)

長い生け垣を抜けたら、絶句 商店街が無い!


「な・・・・?」

見渡す限りの日本家屋。しかも、

(人が歩いてないなんて・・)

漆喰壁しっくいかべの塀を、ピョンピョンはねながら中をのぞき込もうとしている母をみつけた。


「ママやめて!覗きは犯罪だから」

「だってぇ、おさむらいさんがこの中に入って行くのが見えたんだもの」

「だからって覗いちゃダメでしょう」

じぶんの好きなことに全力で行動するのは良い事だけどね、限度ってものがある。


「とにかく、兄貴が来るまで待っていよう・・」

今にも走り出そうとする母の腕をつかんで、『待て』をさせた。


 令和の女子高生は腕時計を持っていない。

スマホを家に置いてきたことを思い出して、帰ろうと来た道を振り向くと兄の姿が見えた。

「!!!」


 コスプレ衣装を着ている。

徐々に近づく、兄妹愛を描いたアニメキャラ

(これか!未希が撮った写真というのは)

「待たせたな。その格好だと目立つから、これを着て」


桃色の羽織はおりを渡された。

(うん、そうなるよね)

「母さんは、これ」

(黄色い羽織・・・むしろ目立つのでは?)


「いいの?ひかるの大事なものじゃなかった?」

「この時代なら、逆に目立たないよ」

そう言うと、兄はコスプレ用の刀を帯刀たいとうした。


「どういうこと?この時代って?」

渡された羽織に、腕を通しながら聞いてみる。

「おそらく江戸時代かな」

「「江戸時代?」」

母とハモってしまった。


「そう。江戸時代、元号はわからないけどね。」

「ちょ・・ちょっと待って!今、江戸時代にいるの?私たち」

びっくりして羽織の袖から腕が上手く出せない。

母に手伝ってもらいながら腕を通した。


「昨日の夜、時空間転送機タイムマシンを起動させたんだ。うまくいくとは思わなかったけど」

「・・・・」

「そんな!!映画じゃあるまいし・・」

なぜか母が無言で聞いている、顔は紅潮こうちょうしているが。


 プチっとイクラがはじけたようながあり

「じゃあ、あれが水戸城なのね?・・・くーーーっ戦国時代じゃないのが残念だけど、行くわよ二人とも!」だだだだだだだだと足踏みして城の方角を指さす


やっぱりね。

無言だったのは感無量かんむりょうで、言葉が出てこなかっただけか。


 いざ学校があった場所へ。

母に羽織のえりを掴まれながら、引きずられるように連れていかれた。


「お客様、両手に見えますのが武家屋敷ぶけやしきでございます。藩主はんしゅは城を取り囲むように家臣の住宅を建てさせて、通勤時間を短縮化して社畜のように働かせていました。」

観光ガイドのように母が説明を始める。


「あーーうん・・そうだねーー大変だね」

適当にあいづちを打って、聞き流すしかない。

 

 長い長い武家屋敷の垣根やら、塗り塀やらを横目に歩き、令和時代なら南町交差点みなみまちこうさてん辺りになるだろうか。


 門が見えてきた。が、閉まっている。

「ここは、三の丸の手前の門ね。その先にお堀があるから、門を通らないとお城に近づけないのよね」


何かを考える母を見て

「どうするの?この先に行けないなら、あきらめて帰る?」

諦めることはないだろうと思っていても聞いてみる。

「せっかく来たんだもの、どうにかしてお城に入れてもらえる方法を考えないと!」


 その時、野良犬がのんびり横を歩いて行った。

母の目が、私から兄に移動する。(いやーな予感が・・)

「ひかる!門に立ち〇ょ『やだよっ』ん!」

兄は、かぶせ気味に言った。




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