第3話 台風 ひかるの思惑

 牛丼屋で未希たちと別れて帰宅する。

「ただいまー」

玄関で靴を脱ぎ、リビングへ向かう。


歩きながら、スカートのすそをパタパタとあおいだ。

「あっつー、麦茶飲みたーい」


 冷蔵庫のドアを開けて麦茶のポットを出し、コップに注ぎ一口飲んで気がついた。

出勤しているはずの母が、テレビのニュースを見ている。

「あれ?まだ行かないの?遅刻するよ」


「あー、おかえりー。今日は遅番おそばんだから午後からよ。夜に台風くるみたいね」

ニュース番組で台風の進路図を映している。


「五月に台風がくるの?早くない?」

コップを持ったままソファに座る


「異常気象だからね。もうそろそろ行こうかな、戸締まりよろしくねー」

カバンを肩にかけて、リビングから出ていきながら母は、兄の部屋に向かって叫んだ。


「ひかるー台風来るってぇ、戸締まり忘れないでねーー台風対策もー」

「んー」

兄の部屋から間抜けな声が聞こえた。

(このリアル兄貴を未希たちに見せてあげたいわ)


 私の家は古い、とにかく古い。古民家こみんかほどではないが昭和しょうわの建物なのは間違いない。


平屋建ひらやだてで、水回りのリフォームはしてあるけど何故か五右衛門風呂ごえもんぶろを残してある。ユニットバスがあるのに・・

キッチンの勝手口ドアを開けると外に、トイレまである。

 

 外トイレはコンビニが無かった時代に、商店街のお客様や通学途中の小中学生に重宝されていたとか。

私が小学生の時に祖母から聞いた話だ。

 

 そんな古い家なのに、屋根の上にはソーラーパネルが乗っている。工業高校出身の兄貴が「電気代が節約できる」とゴリ押しして設置された物だ。

今は自宅警備員《フリーター》の兄貴が、惜しみなく昼間の電力を使えるからに決まってる!


自宅警備員なのになぜフリーターなのかと言うと、パソコンとネット上で稼いでいるから無職では無いのだ。とか言ってた。


 夕食後、私が食器を洗いユニットバスのお湯張りボタンを押す。

母が隣でペットボトルや非常用給水タンクに水を入れている。リビングのテレビでは台風情報を流していた。


「そんなに風も強くないし、この感じだと今夜には通り過ぎるわね」

「雨漏りしなきゃいいけど・・」

(木の雨戸って大丈夫なの?シャッターにしたほうが良くない?)


外で作業をしていた兄が全身びしょ濡れで戻ってきた。

「兄貴おつかれ~」

「ひかる、お風呂入っちゃいなさい」

「そうする」


 お風呂上りにリビングでアイスクリームを食べていると、珍しく兄が入ってきた。

いつもはサッサと自室にこもり、パソコンをいじっているのに・・

「どした?アイス食べる?」

「いや、おまえにちょっと聞きたいことがあってさ」


「なに?」

「もし仮に、過去に行けるなら何時代に行ってみたい?何年前でもいいが」


「突然なに?ネット関係?そうだなぁ、行けるとしたら昭和かな。おじいちゃんに会ってみたい」

「昭和ねぇ、確かに祖父じいさんなら俺も会ってみたい。母さんは戦国時代っていうかもな?織田信長に会いたい!って」

「確かに!ママならそれぜったい言う!www」


「そんじゃ、部屋もどるわ。おまえも早く寝ろよ」

「はーい」

謎の会話だが、今に始まったことではない。ヲタクの兄は昔から発想が、ぶっ飛んでるのだ。

(過去かぁ、私のお父さんにも会ってみたいなぁ。)

 自分の部屋に入ると、布団の中でそんなことを考えながら、未希とスマホで明日の打ち合わせをした。

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