第2話 女子高生 

 令和X年 高校一年のGW《ゴールデンウイーク》。

早朝、いつものように部活に参加するために学校へ向かう。


自宅から学校までは自転車で行ける距離だ、商店街を抜けると見えてくるのは芸術館の展望塔。私は『光る かりん塔』って呼んでる。

シルバーカラーで、ぐるりとねじれた姿がお菓子の「かりんとう」に見えるから。

 

 学校は、大昔にお城があった場所に建っている。

お城自体はもう無いけど、大手門やお堀が残っているためか、一年を通して観光客が来ている。

 

 自転車を学校の駐輪場に停めて部室へ向かうと、他の部員もジャージに着替え、入れ替わりに部室から出てきた。

「おはよう、まり。今日は顧問が休みだってさ」

中学時代から仲の良い未希みきがTシャツの袖をまくり上げながら、声をかけてきた。


「おっはー みき、大人はいいね。GWだから旅行にでも行ってるんでしょう?」 

「wwwww」

自転車漕ぎで汗だくになった制服のセーラー服を、脱ぎ捨てるようにTシャツへと着替えて体育館に向かう。

 

 私が所属するのは【なぎなた部】。

中学時代に剣道部に入っていたけど、夏の防具の暑さに嫌気がさして薙刀なぎなた鞍替くらがえした。薙刀にも防具はあるが、剣道ほど重くない・・・はず

 

 学校用の薙刀を持ってきて、新入部員どうしで手合わせする。上級生の薙刀衣に羨望せんぼうのまなざしを向けながら、ひたすら演舞の練習を繰り返す。

Tシャツが肌に張り付いて気持ちわるーい・・・

今年になってから、五月に30℃を超える日が当たり前になってきている。 

 

 二時間おきに休憩をはさみ、正午前に部活動の終了。制服に着替えると同時に未希が腕にしがみついてきた。

「おわっ なにー?暑いよ!」

「ねえ、今日のひかるお兄様は変わらずイケメンでしたか?」


未希は私の兄、ひかるがお気に入りで【推し】なのだ。イケメンなんだろうか?

妹の私には陰キャのヲタクにしか見えないが・・

「あいかわらず引きこもりで、パソコンいじってましたよ」


「まりは解ってないなー、美しいヲタクは愛玩フィギュアなのよ」

「私はフィギュアより、牛丼に魅力を感じますけどね」

色気より食い気である。

駐輪場から自転車を取ってきて未希たちと合流した。

 

 銀杏坂いちょうざかにある牛丼屋に女子高生数人でなだれ込むと、店内はあっという間にセーラー服の女子校と化する。


 時刻は昼どき、スーツ姿のサラリーマンが店舗入り口で一瞬ためらい、そろそろと入って来るとカウンター席の端に座った。

(お気の毒です、しばらく辛抱してください)


「ねえねえ!さっき話してた、中澤さんのお兄さんってイケメンなの?」

高校から仲良くなった、同じ部の綾部さんが隣りのテーブルから話しかけてきた。

「そうなの!色が白くて、頭が良いし、背が高いからコスプレ姿がマジでカッコイイの」

未希は目をキラキラさせながら兄をべた褒めしてる。


「未希!褒めすぎ!ただのヲタクよ。」

(頭はいいかもしれないが・・)


「へえ、オタクでカッコイイのって水戸では珍しいね」

「写真あるよー」そう言うと未希はスマホをいじりだした。

「写真なんかいつ撮ったのよ未希」

「うふっ 去年の夏のコミケよ。ひかるさんには許可とったもん!」


それを聞いて、綾部さんの隣に座っていた桜井さんも目をキラキラさせながら、乗り出すように言ってきた。

「マジでレイヤーさんなの?私も観てみたい!」

(えーー桜井さんまで?)


「これは、ひかるさんのお友達のレイヤーさんとのツーショットで、水色のカラコン・・・・」

女子高生のきゃあきゃあ黄色い声が店内に響き渡った。

 兄貴のモテ期到来か?

私は牛丼をほおばりながら未希たちのやり取りを呆れ気味に聞いていた。

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