第2話

(どうしたの?ぼうや)

 おかあさん?

(おびえなくても だいじょうぶ)

(羽根を きれいにしましょうね)

 あぁ、お母さんが、わたくしをなでてくれる。

 なんて暖かいんでしょう。

 でもね、聞いて。

 とっても恐ろしいものをみたの。

(だいじょうぶ)

(おかあさんが 唄ってあげましょう)

(わたしたちはね 愛する者のために唄うのよ)

(おとうさんと おかあさんが 鳴き交わして あなたが生まれたの)

(さあ、もう怖くないでしょう)

 うん。

(ゆっくりおやすみなさい)


 あぁ、よく寝た。

 と思ったとたんに、ギョッとした。

 隣で、寝ているのは、桃太郎を食べてしまった、あのおばあさんではないか!

 善は急げ。とばかりに、飛び立つキジ。

 とりあえず、村はずれまで飛んできた。

 なんだか、とてもいい夢を、見ていたような気がするが、覚えていない。

 桃太郎のいない今、わたくしが、皆を探しに行かねばと、思い立ったキジだったが、どこを探したらよいのか・・・?

 そうよ、このせかいの中心にある寺子屋に行きましょう。

 あそこなら、書庫があるはず。


 このせかいの住人たちは、このせかいの中心にある、寺子屋で学んでから、それぞれのものがたりに配属される。

 ものがたりの成立年代、相関関係、あらすじ、主人公、悪役など、基本的なことを学ぶ。細かいことは、配属先が決まってから教わる。

 書庫には、ものがたりに関する、秘密の書が眠っていて、それを見たものは、自動的に、消滅してしまう、というまことしやかなうわさがあった。

 でも、誰に頼んだら、書庫にいれてもらえるだろう?

 桃太郎が現れないという、危機的状況をご存知だろうか?

 とにかく、なにか行動しなければ、なにも変わらない。

 だめもとで、行くわよ。


 しかし、いったんこのせかいの中心から出てしまったものが、どのように戻るのかは知らなかった。

 そんな時、一条の強い光が、ある一点を指しているのに気が付いた。

 え?これって、せかいの中心を示しているの?

 一縷の望みをかけて、一心に光のさすほうへ飛び続けた。

 一昼夜飛び続けてようやく、光の指し示す場所が判明した。

 しかし中心から、半径1kmほどだろうか、禍々しい色のふわふわしたものが漂っている。近づこうとすると、稲光のようなものが、発生する。偶然、コバエのようなものが、それに近づきすぎて、焦げるところを目撃した。

 あぁ。わたくしはただ、このせかいを平和にしたいだけなの。

 と思ったら、霧がはれていくように視界がはっきりしてきた。

 さあ、今のうちよ。

 寺子屋めざして着地体制に入る。

 すると、どこからともなく、石つぶてが飛んでくる。

「だれだ!ここはこどもだけがいていいんだぞ!」

「そうだ!他には、先生しかおらん!」

「ま、待って。わたくしは、ここの卒業生よ」

「あら、『桃太郎』のところのキジではありませんか」

 振り向くと、そこには恩師が立っていた。


 恩師に事情を話すと、

「ここでも、その影響が出ていて、子供が、ある日突然神隠しにあってしまうの」

「先生、ぜひ書庫をみせていただけませんか?」

「書庫を?」

「何かしらの、手掛かりがつかめそうな気がするんです」

「う~ん。それが、私でも、簡単には入れないのよ」

「誰かの許可が必要ということですか?」

「一部の限られたものしか入れないのよ」

 その時だった。

(よかろう。そのキジを書庫へ案内あないしよう)

 と空から声が降ってきた。

「よ、よろしいのですか?女神」

 恩師の問いに答えはなかった。

 その替わり、恩師の姿がぼやけてきた。


 気が付いたら書庫の中だった。


                         つづく





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