飼うか?食うか?

あしはらあだこ

第1話

 さて、桃の実を食べて、満足したおばあさん。

 腹が満ちれば眠くなる。

 ということで、大の字になってお昼寝中。

 そんな時に、おじいさんが帰ってきた。

(なんだ、ばあさんは!わしが、疲れて帰ってきたのに、出迎えもないのか)

「おい!ばあさん!起きてくれ」と揺り起こそうとして、甘いにおいに気づく。

(ん?ばあさん、一人で何かうまいもんでも食ったな!?)

 おばあさんが、目を覚ます。

「あら、おじいさん。帰ってたんですね」

「おい、ばあさん!おまえ、一人でなに食った?」

「嫌ですよ。何も食べてませんよ」

「いや、何か、食いもんの匂いがする」

「違いますよ。掃除のときに、柑子こうじの汁で床磨きしたから」

「いや。この匂いは、柑子じゃない」

「あら、おじいさんたら。忘れたんですか?この前、うたた寝してた時、袂が焦げそうになって、匂っていたのに、気が付かなかったじゃないですか。おじいさんの鼻は、衰えてますよ」

「はあ。そうか。寄る年波には勝てんというしな」

 一応そう返事をしたおじいさんだったが、腹の中では

(絶対、嘘じゃ。食いもんの恨みは忘れんぞ)

 と思っていた。


 とりあえず、お茶を淹れたおばあさん。

 しれっと、涼しい顔を取り繕っていたが、内心ひやひやしていた。

 そんなときに、ケーン。ケーン。と騒がしい。

 二人して、表へ出てみると、一羽のキジが目を回しながら、鳴き騒いでいる。

 近寄ってみる二人。おじいさんが、

「こいつを絞めて、晩飯にしよう」

 と言い出した。おばあさんは慌てて、

「これは、桃太郎のところのキジに違いないから、ぜひ、介抱しましょう」

 と言って、大事に抱きかかえて、家に連れて帰った。

 湯を沸かし、手拭いで、身体を丁寧に拭いてやると、少しは、落ち着いたとみえて、先ほどよりは、騒がなくなった。

 それでも、時々、じたばたするのを見て、おばあさんが、子守唄をうたってやると、少しずつ、安定してきて、そのうち静かになった。

 今日は、囲炉裏のそばで寝かせてやろう、ということになり、二人も、床についた。

 翌朝、起きてみると、キジの姿はなく、おじいさんが

「だから、わしが言った通り、絞めてしまえばよかったんじゃ」

「いいえ、大事にしたほうが、絶対にいいことがあります。このせかいは、そういうう風に、なっているんですから」

 二人は、まだそこらへんに、いるのでは、と必死になって探したが、鳥の朝は早い。

 時すでに遅し、である。

 このあと、二人が一日中、言い争ったことは、言うまでもない。


                                 つづく

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