第44話 ビッチギャルと清楚美少女、激突
図書室に訪れたのは、同級生にして密かに想いを寄せていた女子生徒、
「ふーーーっ……ふーーーっ……!!」
しかし静かにしているぶん、薄生地に包まれた網谷さんの秘部を一層意識してしまい、自ずと呼吸が荒くなってしまう。
「ひうッ……ぅうん……♡」
微弱な快感に抗えないのか、それともこの危機的状況に高ぶっているのか、網谷さんは口を押え甘い息を漏らす。
「……?どうか、したんですか?」
「……っうぅん、何でもないよ……♡」
宇田さんは不思議そうに首を傾げ、網谷さんは何もないように取り繕う。
机の下に僕がいることに気がついていないようだ。……今のところは。
もしこの状況がバレでもすれば、教員への通報は確定となり、まさしく人生の破滅に直面することとなる。
僕は死に物狂いで理性を保ち、なんとしてでもこの状況を維持しなければならなかった。
「……にしても、宇田のほうからアタシに話しかけてくるなんて、珍しーじゃん。新年度のクラス替えで一緒になった時でさえ、話しかけてこなかったのに」
「……今回はどうしても、
宇田さんの言葉からは、やるかたなしとでも言いたげな含みを感じ取れた。
「……つい先ほどまで、
「うん、たくちんと一緒に勉強してたよ。今頃トイレにでも行ってるんじゃないかなぁ~~?♪」
「何で楽しげなんですか……」
網谷さんはそう言いながら、僕を拘束する太ももに力を入れる。
こちらは心臓を早鐘のように脈打たせながらも平静を保っているというのに、網谷さんはこの状況を、刺激的なプレイの一種としか捉えてないようだ。
「……あ~~?聞きたいコトって、もしかしてたくちんのコト?♪」
「んなっ!!?」
「っ!!?」
網谷さんの推測に、宇田さんは明らかに動揺したような声を上げ、僕も同じように身じろぎをしてしまう。
「なっ、何故そのことを……!?」
「あれ~~?もしかして
「くっ……!」
網谷さんに虚を突かれた宇田さんは悔しそうに小さく唸る。
(宇田さんが、僕について話したいこと……?)
何より興味深い会話の内容について、僕は今置かれている状況も忘れて、女子2人の会話に耳をそばだてる。
「何か言いたいことがあるんだったら話しなって。ココには、アタシと宇田の二人しかいないんだからさぁ♪」
「は、はぁ…………」
(居る!僕もいるんですけど!?)
もちろん声を上げて突っ込むことなどできなかった。
「わ、私はただ!最近まで男子とだけ仲良くしていた四季君が、急に網谷さんと絡むようになったのが、不自然だと思っただけで……」
「不自然~~?アタシはそろそろ授業を真面目に受けようと思い立ったから、勤勉なたくちんに助けを求めてるだけなんだけど~~」
「全校生徒のなかで不真面目代表な態度をとっていた貴女が、何をいまさら……」
やはり、豹変した網谷さんの学習姿勢に、宇田さんは不信感を抱いていたようだ。
「ひどいなぁ。
「……四季君は以前まで、不真面目な貴女とは関わらないように、極力距離を置いているように見えました。それだというのに、ここ最近の貴女の強引な距離の詰め方に、彼が拒否を見せないのは……
「…………!!」
宇田さんの的確な言い分に、思わず声を上げてしまいそうになる。
網谷さんとの今の関係だって、元はといえば過激な写真を手違いで机に忍ばせていたことによって生まれたもの。
その事実を周りにさとられないよう、ひた隠しにしていたのに、おおよそを言い当てるとは……宇田さんの観察眼はさすがと言わざるを得ない。
「ひゅ~~。さすが学園一の才女サマは、目の付け所が違うね♪」
「私が聞きたいのは質問の答えであって、くだらない冷やかし等ではありません」
網谷さんの飄々とした態度と、宇田さんの冷ややかな態度の衝突で、傍聴者の僕は思わずハラハラしてしまう。
「そうだよ?アタシはたくちんの弱みを握って、今の関係を続けてる。そうでなきゃつまらない学校にも来ないし、くだらない授業なんか受けに来るわけないじゃん」
「……やっぱり!」
「でも、それが何だって言うの?アタシは、たくちんと気持ちいいセックスができれば、それで満足なの。同じクラスメイトってだけの宇田には、何の関係もなくない?」
「~~~ッ!と、図書室で下品な単語を発しないでください!不健全ですよ!?」
網谷さんが単調に口に出したセックス発言に、宇田さんが羞恥でうろたえたのは容易に想像できた。
「それで?アタシがたくちんの弱みを握って、かりそめの関係を続けて、宇田に何か不都合でも起きるんなら、説明してくれない?」
「っく………!」
「ふふん♪できるわけないよねぇ?……だって宇田、たくちんのことを気に入ってるんでしょ?」
「ンッッ!!?」
「んなっっ!!?」
網谷さんの突飛な質問に、僕と宇田さんは同時に声を上げてしまう。
「ななな、何故そんな話に飛躍するのですか……!?」
「目に見えて動揺してんの、話すより先に答え言ってるようでウケんだけど。セックスなんて言葉で顔赤らめるのといい、宇田みたいな露骨に処女臭い女子もそうそう居ないよ」
「だから!図書室で卑猥な単語を口にしないでください!!締め出しますよ!!?」
「だったら宇田はもうちょい静かにしなよ。図書委員でしょ?」
「ッぐぅ……!!」
網谷さんからの指摘に、宇田さんは悔しそうに身を固めていた。もはやどちらが優勢なのかは、目に見えなくとも感じ取れた。
「ここにはアタシと宇田の二人しかいないんだからさ、腹を割って話そうよ。ぶっちゃけ、たくちんのコト気になってはいるんでしょ?どうなの?♪」
再三の確認から、これが机の下にいる僕に聞かせるための、間接的な誘導尋問であることが分かった。
それに対して、宇田さんは……。
「……し、四季くんのことが、他の男子生徒より贔屓目に気になっているのは事実です。そして今は、彼ともっと親密になれれば、なんて淡い願望も抱いてるのは、自覚しています」
「……………!!」
宇田さんから発せられた独白に、僕は感激で胸がいっぱいになる。
彼女もまた、僕と同じように仲良くなりたいと思っていたのだ。
……当の本人は、ビッチギャルの股間に顔を突っ込んでいるのを差し置いて。
「だから、アタシとたくちんが最近仲良くしてるのが気に入らない、と」
「き、気に入らないなんて。私はただ、四季くんが
むぎゅ!
その時、僕の顔を挟み込む太ももが、より一層両側から強く締め付けられる。
「たくちんは、渡さないよ?彼は、どんな手を使ってでも、アタシのオトコにしてみせるから♪」
それは、経験豊富なビッチギャル網谷くらりによる、宇田さんへの宣戦布告。
……否、余裕に満ちた勝利宣言であった。
「ッ!真面目な四季くんが、貴女のような不真面目で不埒な女性に
「何を根拠にそう言えるの?たくちんは一昨日、アタシのコトを『魅力的な女性だと思ってる』って、情熱的に口説いてきたんだけど?♪」
「えっ!!?」
「ッッッ!!」
網谷さんの衝撃発言に、僕と宇田さんはまたしても同じタイミングで驚愕する。
(た、確かに網谷さんには『魅力的だと思ってる』なんて言ったけど……!アレは網谷さんの身上が知りたいうえで口走った言葉の
「……たっ、確かに貴女はそれなりに顔が整ってるし、スタイルも抜群ですし、四季くんが魅力的だというのも頷けます!ですが、貴女とより一層親密になりたいかどうかは確かではありません!」
「へぇ、宇田もアタシのコトそんな風に見てくれてたんだ?♪でも残念、眼中のたくちんは、アタシともっと仲良くしたいみたいだよ?」
「……そ、そうなのですか?」
「うん♪一昨日はこれからもっと仲良くなろう、なんて約束しあった仲だし、今週末はアタシの友達と一緒に食事しに行くんだ♪」
「く……ッ!貴女はそこまで……!」
宇田さんの歯噛みしたような言葉は、本当に悔しそうに聞こえた。
「そんなにたくちんと仲良くしたいなら、『どうぞご勝手に』……って感じだけども。たくちんの
「〜〜っ!
「……この世はね、所詮早いもの勝ちなの」
網谷さんの一声は、これまでの茶化すようなものとは違う、真剣な声色に満ちたものだった。
「例え狡い手を使ってでも、汚い手を使ってでも、例え相手を騙すことになってでも、手に入れたいものを一番最初に手に入れた方が勝ちなのは、世界共通でしょ?それを恋だの仲だの、面倒くさくて鈍臭い価値観に囚われて、まごつきながら足踏みしてるくせに……一番先に手が届きそうなアタシに難癖つけんのは、ちよっとお門違いじゃないかな?」
手順に倣って正当な路線を歩む真面目な宇田さんと、欲望に忠実で数段飛ばしで歩を進める網谷さん。
僕を念頭に置いた両極端な二人は、恐らく口を閉ざして激しく睨み合っているのだろう。
大気中に電撃が
「……はぁ」
緊迫した場の空気は、宇田さんが発したため息で霧散した。
「私にも図書委員の役職がありますし、おしゃべりは一旦やめましょう。今日は、私のなかで気がかりだった事項が、解決できただけで良しとします」
そう言った宇田さんはいったん机を離れてから、ふと足を止める。
「そして再認識したのが……貴女と私は、決して相容れることはない、ということです」
「あれ?それなのに今日は諦めるんだ。この週末で、アタシがたくちんの童貞をもらっちゃうかもしれないよ?♪」
「それは万が一にもありえません。真面目で優しい四季くんは、貴女からの性交渉に安易に応じるような人ではありません。……私は、四季君を信じています」
ためらいがちに紡がれた発言の後、数拍の間を置いて自習スペースから宇田さんの気配が消えるのを感じた。
「…………たくちん?宇田はもういないよ。出ておいで♪」
「…………ぷはぁ~~~~~~」
網谷さんの言葉と同時に、僕は机の中から這い上がる。
僕がいることがバレなくてよかった。いろいろと気になることはあるが、ひとまずは一件落着だ。
「よかったねぇ、たくちん。一年のころから皆の注目の的だった宇田に気に入られて、しかも勝手に信じられてるよ?男子として誇っていいんじゃない?」
宇田さんのことについて茶化す網谷さんをさておき、2人のやりとりについて気になったことを聞いてみる。
「……網谷さんは、宇田さんのことをよく思ってないの?」
僕からの質問に、網谷さんはキョトンとした後。
「そんなの、嫌いに決まってるじゃん。いいコぶってるだけでチヤホヤされてる堅物女子なんて、どう頑張っても分かり合えるわけ無いじゃん。あーー、ヤダヤダ!一言二言喋っただけで、処女膜再生してきそうだった」
頬を膨らませる網谷さんのえげつない下ネタはさておき、僕は腑に落ちたように肩をなでおろす。
(やっぱり、網谷さんも宇田さんのことは気に入らないんだ。そりゃそうだよね、外見も内面も、全部が両極端な二人だし)
(それでも、僕としては……同じクラスメイトとして、二人にはある程度、仲良くいてほしいと思うけどなぁ……)
胸中に生まれたわだかまりを口に出せないまま、図書室での勉強会はお開きとなるのだった。
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