第31話 放課後
「そ、それじゃあ……一緒に英語の自習しよっか、網谷さん」
「えへへ。ヨロシクね、たくちん♡」
放課後、僕と網谷は自習室に訪れていた。
モダンな色合いの横長テーブルと勉強用のチェアが並ぶここは、勉学に勤しむ全校生徒のための共用スペースだが、今日に限って他の生徒の姿はない。
このままでは、横でニコニコしている網谷に捕食(意味深)されてしまう……!目に見えた未来を危惧した僕は、午前中の醜態を糧にあることを画策した。
二人での自習が始まり、沈黙が続いた数分後。
「そっ、そういえば網谷さんは……」
「んーー?」
「な、何か好きな食べ物とか、あるの?」
僕からの突然の質問に、ノートに向き合っていた網谷はきょとんとした顔をこちらに向ける。
「……んーー、甘いものなら何でも好きかな。パフェとかマカロンとか」
「そ、そうなんだ。僕も好きだよ、甘いの」
素直に答える網谷に同調し、また二人してノートに向き直る。
そしてそれから更に数分後。
「……あ、網谷さんって、好きな音楽とかあったりする?」
「…………」
僕からの別の質問に、網谷は無言でこちらを見る。
「……人気なJ‐POPとかはひと通り把握してるけど、一際応援してるのとか熱中してる楽曲とかはないかな」
「そうなんだ。僕は動画サイトに投稿されたボカロ曲とか、暇なときによく聞くんだ」
「……そっかそっか」
僕の返しに、網谷は笑顔で首肯する。
これぞ僕が対網谷様に考えた案……「引いて駄目なら押してみろ」作戦。
名前を付けておいてなんだが、これはただ単純に僕が時々取り留めのない話題を、網谷に振るだけというもの。
作戦と呼べるものかどうかも怪しいが……今日から始まった「網谷が常時隣にいる」という状況において、僕が奥手に出ているからこそ彼女に好き勝手されてしまっているのも事実。
僕が数分ごとに話しかけ、網谷のターンに回らせない。そうして時間稼ぎをして、他の生徒が入室してこれば万々歳だ。
自信に漲った僕は再びノートに向き直ったことで、横で怪しく微笑む網谷に気づくことはなかった。
そしてそこから更に数分後。
「網谷さんは、休日の日は何してるの?」
網谷を攻勢に回らせないための、取り留めのない話題をする。
しかし、この話題そのものが悪手であった。
「そうだなぁ……セックス、かな♡」
「へ~~、セックスなんだ。僕はまだしたことな……ゥッッ!!?」
網谷からのトンデモ発言に思わず乗ってしまった僕はバッと口をふさぎ、横でニヤニヤしてる網谷を見る。
「そ♡アタシって常時ムラムラしてるから、死ぬほど暇なときは適当に男呼んでハメてんだよね♡」
「そ、そ、そうなんだ……」
してやったり顔の網谷に、赤面した僕はぎこちない相槌をすることしかできなかった。
こ、この場面を誰にも見られなくてよかった……。僕が網谷と、下品な話をしていたなんて噂が立ったら、たまったものではない。
「ねぇねぇたくちん、ひとつ気になったんだけど」
「ど、どうしたの?」
「さっきからアタシに話しかけてくるの、もしかしてアタシに良いようにされたくないからでしょ♪」
「ッ!!!」
見透かされていた!?
的を射た網谷の詮索に僕は言葉を詰まらせる。
「にひ、やっぱりそーなんだ♡でもいーよ?ただ勉強するだけじゃつまんないし、もっと色んな質問して貰って♪」
「い、色んな?」
「そ♡アタシの性感帯とか、好きなプレイとか体位とか♡あ、経験人数とかスリーサイズとか聞いてもいーよ♡」
「聞きませんけど!!?」
網谷からの大胆な提案を大声で拒否すると、彼女は「いひひ♡」と可愛らしい小悪魔的な笑みを浮かべる。
だ、ダメだ……網谷を攻勢に回らせないための作戦だったのに、徐々に彼女のペースに飲み込まれている。
僕は気を落ち着かせるため、ひとまず深呼吸をする。
…いっそのこと、僕自身からもっと踏み込んだ質問をしてもいいのではないのだろうか。周りに誰もいないことを好機に、僕は前々から思っていた疑問を、網谷に打ち明けることを決意する。
「そ、それじゃあ……ちょっとセンシティブな質問になっちゃうけど……」
「おっ♪何ナニ!?何でも聞いて♡」
顔が熱くなるのを自覚しつつ言葉を紡ぐと、網谷は目を輝かせながら耳を傾ける。
「な……な、何で網谷さんは、ぼ……僕と、『えっちなこと』したいって、思ったの……?」
僕が踏み入った質問をすると同時に、網谷の顔から可愛らしい笑みが消えるのだった。
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