第29話 くらりからのお誘い

 二・三時限目に起きた網谷からのエッチな誘惑に乗ってしまったことを、猛省しつつ何とか四時限目を乗り切り昼休みへと突入する。


 いつものように僕と不破、粕田と虎井の四人組で机を引っ付け、弁当をつついていると。

「そういえば、三日後の木曜日は英語の小テストだね。近いうちにみんなで予習をしようじゃないか」

 不破からの提案に、粕田と虎井の二人は「うげぇ」と露骨に嫌そうな顔をする。


「英語だけ小テストのペースが段違いなの、マジでどーにかしてほしーんだけど!むしろ英語が嫌いになりそうだぜ!」

「それ!!どうせ日本から出ねーんだから、他の国の言葉なんか習ったって意味ねーーんだって!」


「……なるほど。それでは君たち二人はその意向だと、僕が羽場教諭に進言してやろうか?」

「「それだけはマジで勘弁!!!」」

 ピクピクと青筋を立てる不破からの恐ろしい提案に、二人は早急に前言撤回をする。


「僕も二人が良い点を取れるようにサポートするよ」

「ほら、四季クンも協力的じゃないか。範囲は今日習ったところを復習して、あとはこれまでテストに出た範囲をザッと復習すれば、及第点は採れるだろう。キミたちだって、羽場教諭にどやされるのは金輪際御免だろう?僕たち四人で一致団結すれば、何も不安がることはないさ」

「「二人とも……」」

 勉強ができない二人に協力する意向を示すと、二人は感激に目を潤ませる。

 このまま男子四人組での勉強会が決定する……かと、思いきや。


「たーくちん♪」


 後ろから聞き馴染みのある声がかけられ、ビクッと肩を強張らせる。

 ギギギと顔を後方に向けると、そこには満面の笑みを浮かべた網谷が立っていた。


「ど、どうしたの、網谷さん」

 まさかこの場で、エッチなからかいを……!?と身構えたものの、彼女の口から発せられたのは、意外なものだった。


「実はアタシも、次の英語の小テストでいい点とらないとヤバくてさ。アタシもたくちんに、放課後に勉強の面倒を見てもらってもいいかなぁ?」


「「「えっ!!?」」」

 上目遣いでこちらを見つめる網谷からのお願いに、僕と虎井と粕田の三人は驚きの声をあげる。


「ふむ、キミは確か英語の授業の後にテスト用紙を取りに行っていたね?その時に羽場教諭から何か言われたのかい?」


「そ。『どういう気の変わりようかは知らないが、次の小テストでそれなりの誠意を見せなければ内申点をどうこうするつもりはない』だってさ。ひどくなーい?」

 不破から向けられた質問に、網谷は羽場先生の声色を真似ながら、ぷぅと頬を膨らませる。可愛い。


「内申点に関しては君の此れまでの怠惰が原因だろう。……だが自ら発起し、勉学に立ち向かう姿勢は気に入った。四季クン、網谷さんの勉強の面倒を見てあげるといい」

「不破君!?」「やりぃ!」

 不破からの提案に僕は愕然とし、網谷は歓喜のガッツポーズをとる。


 そんな……まさか授業のみならず、放課後まで網谷と時間を過ごさなければならないのか……!?これまで受けてきたエッチな誘惑が脳裏にフラッシュバックし、あらぬ未来を予期して背中に怖気が走る。


「ナニか心配事?たくちん♡」

「ひっっ!!?」

 背後を取った網谷に耳元で小さくささやかれ、思わず情けない声を漏らす。


「ダイジョーブ♡さっきみたいなエッチなことはしないから。たくちんの都合が合うなら、アタシの放課後の勉強に付き合ってくれると嬉しいな♪」

「ほ、ホント?」

「ホントホント!」

 放課後の自習室は不特定多数の生徒が利用する場なので、先ほどみたいな誘惑を彼女が大胆に実行してくる可能性は低い。ここはいちかばちか、賭けに乗るべきだ。


「……分かった。放課後は僕も暇だから、一緒に英語の勉強をしよう」

「マジで!?やったぁ!たくちん大好き!!」


 網谷からの誘いを承諾すると、網谷は満面の笑みで答えてくれる。

 だ、大好きって……彼女みたいに、好意をおくびれもせずに伝えることが出来るなら、どれだけ気が楽だろうか。


 喜ぶ網谷を尻目に教室の端に目を向け、不在である宇田がこの一部始終を目撃していないことに、ひとまず安堵するのであった。







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