第27話 からかい上手の網谷さん②

「それでは、今日の授業はここまでとします~~。皆さん、今日の復習を忘れないように~~」


 やがて二時限目の終了を知らせるチャイムが鳴り響き、茶井古ちゃいこ先生は朗らかな笑顔をたたえたまま教室を去る。

 生徒が残った教室には、眠そうに瞼を擦る者や欠伸をかく者がいたりと、いまだ眠たげな雰囲気が漂っていた。


「あ、網谷さん」

「んーー?」

 授業が終わり机を離した網谷を、真剣な面持ちで呼び止める。


「網谷さんがからかってきたせいで、大きな音を出しちゃったじゃないか!僕が原因だと思われなかったのは幸運だけど、すごく恥ずかしかったよ!?」


「えーー?♡たくちんが授業中に、アタシの顔とか身体とかジロジロ見てきたからぁ、仕返ししてやろーって思ってヤッたんだよ?オンナノコは視線にひと一倍ビンカンなんだから♡」


「そっ、それは……!!」

 小意地悪な笑みを浮かべた網谷に効果てきめんな反論をされ、僕はまともに狼狽えてしまう。

 網谷の爆乳が机上でぐにゅり♡と潰れ、今度こそ見てはならないと視線を明後日の方向へ向ける。


「アハハッ!別に見てダメなんて言ってないんだけど?……むしろたくちんがその気なら、アタシはどんなトコロでも見せてあげれるよ?♡」

 ぴらっ♡

 網谷はそう言いながら、ミニスカの裾を軽く持ち上げる。


「ちょっ!?」

 肉付きの良い太もものさらに根元まで顕わになり、僕はすかさず手で視界を覆う。


 クラスメイトが大勢いる中でなんて大胆なことを……!!周りの皆は退屈な授業から解放されて眠そうにしてるけど、この場面を他の誰かに目撃されようものなら、僕まで共犯になりかねない。


 エッチなからかいにノリノリな網谷は、ニヤニヤと小意地悪な笑みを浮かべている。だ、誰かこの状況の打破を……!と、救いの手を差し伸べていたところで。


「網谷―、いるー??」

 教室後方のドアが開き、他クラスの女子生徒が網谷の名前を呼ぶ。

「なにーー??」

「あ、いた。ちょっとメイクのことで聞きたいことあるんだけど」

「いいよー」

 網谷は気軽に承諾し、席を立つ。


「……それじゃ、またね♪たくちん」


 隣の席に座ったままの僕に、可愛らしいウィンクをパチリと飛ばしながら、女子生徒のもとへと合流する。

「……はぁ」

 網谷が去り右隣はもぬけの殻になり、僕は安堵の息を吐く。


 やはり、何かしらの理由をつけて席を移動したほうが、精神衛生上よかったのではないのだろうか。しかしそうしたら、先週のプロマイドの件を網谷が校内に流布していた可能性もあるわけで……。

「……僕がもっと、異性への耐性がついてたらよかったんだけど」

 今更な結論を独り言ちてから、辺りをざっと見渡す。


 網谷の隣の席に座っている生徒は、机にうつぶせになって仮眠をしている。その後ろの席は離席中だ。

 そして僕の後ろの席……三川さんせんは、スヤスヤと静かに寝息を立てている。


 良かった。今の網谷との絡みは、誰にも見られてなかったらしい。ほっと一息つき、次の授業の準備に取り掛かる。



「…………にゃるほどにゃあ☆」


 背後で音もなく顔を上げ、瞳をキラリと怪しく輝かせた三川の笑みに、気を緩めた僕が気づくことはなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る