第25話 一時限目・英語

 初めてにして激動の席替えは終わり、一時限目までの休憩時間に突入する。

 僕は英語の授業の準備をする傍ら、ちらりと横目で網谷を見やる。


 あれだけ過激なスキンシップなどで距離を詰めてきたにもかかわらず、網谷はポチポチとスマホを構っている。

 良かった、流石に四六時中僕をからかいたいわけではないようだ。

 次の授業に向けてガヤガヤと騒がしく教室の中、僕は教室の隅に目を向ける。


 新しい宇田の席は、前から二番目の一番右側。教室と廊下を隔てた壁側となっている。

 本人はとうに次の準備を済ませ、静かに本を読み耽っている。

(……そうだよね。そんな何回も目が合うわけないか)

 僕は誰にも気づかれないよう小さく嘆息し、準備を進める。


 それから数分後。

 教室の前の扉がガララッと勢いよく開き、いつにもましていかつい顔をした羽場が姿を現す。

 まだ少し騒がしかった教室はすぐに静かとなり、全員が大人しく着席する形となる。


 チャイムの少し前に入室するのが羽場のスタイルであり、それまでに着席していなければ、ネチネチと小言を言われる羽目になる。ましてや彼が一度機嫌を損ねれば、それは授業が終わるまで続き、クラスメイトはその怒気に充てられ続けなければならない。

 校内一厳しい教諭への対応は、個性的な面々が集うA組内でも一般化していた。


「……ふむ。今週は席替えがあったのか。それでは出席番号順に名前を読み上げていくから、呼ばれたものは答えるように」

 挨拶を終えた後、羽場は教壇に立って一新された教室の風景を一瞥する。


「あーーまずは……宇田」


 羽場の点呼に、教室の空気がピシっと硬直したようになる。

 というのも、


「せんせー、アタシいるんデスケド」

 名前を読み上げられなかった本人、網谷が何食わぬ顔で手をあげる。


 そう、あかさたな順で読み上げるなら網谷あみやが一番最初になるのは当然のこと。

 だが、彼女は学年きっての不真面目ギャル。ひたすら怠惰な彼女が一時限目に居ることは無いだろうと、もはや厳格な羽場ですらたかを括っていたのだ。


 その予想通り、羽場は少し驚いた顔をする。

「…………何だ、いたのか。それでは、網谷」

「はーーい」

「返事を間延びするんじゃあない」

 羽場からぴしゃりと言われるも、網谷が気にした様子はない。

 そうして全員分の点呼は終わり、いつも通りのようでどこか目新しいような、月曜日の一時限目が始まるのだった。

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