第15話 爆乳の誘惑♡


 夕日が差し込む、二年A組の教室。

 その中央で、僕は網谷の言った意味が理解できずに呆然と立ち尽くしていた。


「あ、網谷さん……今なんて……?」


「だぁかぁらっ♡アタシとエッチなことしよっ♡て誘ってんの♡♡」


 たぷんっ♡

 たゆんっ♡


 網谷は身体を煽情的にくねらせ、襟から覗くたわわな爆乳をゆさゆさと揺らす。


 ぼ、僕とエッチなことがしたい?何故?

「な、何で僕と……?」

「……むぅ!」

 頭の中で渦巻く疑問を口に出すと、網谷はぷぅ!と頬を膨らませる。

 か、可愛い……!体つきはエロスの権化なのに、表情は女児と変わりないのがギャップでそそられる。しかも似合ってるのがズルい。


「じゃあ逆に質問するけど。たくちんはお腹がペコペコの時に、目の前に出来立てのフライドチキンがあったらどうすんの?」

「どうすんのって、そりゃぁ……状況にもよるけど、一目散にかぶりつくかな」

「ソ―ユー事。アタシにとってのたくちんは、そのフライドチキンなんだよね」

「どういうコト!?」

 網谷のノリについていけず困惑していると、当の本人はけらけらと笑う。

「ま、アタシの場合いつでも男を食い漁ることは出来たんだけど。むしろ食い飽きてちょっとマンネリ化してたんだよね〜」

「ま、マンネリ?」

「ほらアタシ、校内外でも有名なビッチじゃん?そこかしこの男から金貰ってセックスして性欲発散してたんだけど、どいつとヤッても満足はできなかったんだよねー」

「は、はぁ……」


 どうしよう。

 彼女とは違う世界線で生きてるんじゃないかってくらいに、網谷の言っていることが理解できていない。


「んで、色々試してるうちに気づいたんだよね。アタシ、たくちんみたいなカワイイ男の子とセックスしたいんだなぁって♡」

「ぼっ、僕みたいな……!?」

「そ。たくちんみたいに身長低くて、女の子みたいに可愛くて、初心で、清潔感があって、可愛い反応してくれそうな童貞と♡」

 か、彼女のお眼鏡に適っていることを喜ぶべきなのだろうか。


「……っで、でもセッ……異性同士の性行為は、お互い同意のうえでちゃんと手順を踏んでから……っ」

「えーー?お堅いなぁ。……もしかして、それとも」

 網谷は急に表情を変え、不安そうに目を伏せる。


「アタシとエッチなことするの、嫌……?」


「ウッッ!!?」

 網谷はつぶらな瞳をウルウルとうるませ、こちらを見つめてくる。


 その手はズルい。僕よりもずっと経験は豊富なのに、何故こうもあざとい演技が様になってるんだ。

 どう答えようか言いあぐねてると、網谷は小意地悪な笑みを再び浮かべる。


「にひ♡エッチが嫌いな男なんているハズないもんね。ていうか、あたしとタダでエッチできる男なんてそうそういないよ?アタシの場合、手か口で抜くなら一、胸なら二、本番は四って決めてんの」

「え?な、何その数字……」

「ん?アタシとヤらせてくれって頼んでくる男から貰う金額。ちなコレ、単位は万ね」

「んなっっ!?」


 平然と言ってのける網谷の事実に絶句する。

 僕が母さんから貰う一か月分のお小遣いが一万円なのに対し、彼女は一回の性欲処理でそれ以上を稼いでしまうってこと!?

 同級生であるはずの彼女とは、生きている世界が違うのだと思い知らされた。


「で・も♡たくちんがアタシとエッチしたいっていうなら、どんなトコ触ってもどんなコトしても全部タダだよ♡たくちんみたいなイイ子なら、クソ男みたいに乱暴もしないだろうしね♪」


「え、えぇ………!?」

 彼女からの誘いに、僕は口の中に溜まった生唾を嚥下する。

 胸が大きく、くびれた腰を持ち、肉付きのいい肢体を持った超絶美少女の網谷と、性的な体験が無料でできる。

 これだけの条件を付きつけられて断らない男は居ないだろう。


 正直僕も、したすぎる。

 網谷と、あんなことやこんなこと。


 ………でも。


「…………だ、ダメだよ。僕は女性と付き合うなら、健全な関係から始めたいんだ」


「…………ふぅん」

 断固として変わらない僕の意見に、網谷はつまらなさそうに目を細める。

 ふ、不機嫌になっちゃったかな……。おそるおそる彼女の方に目を向けると。


「……そういえばさ、このたくちんの忘れ物だけど」

「だ、だからそれは僕のじゃないって……」

 襟をはだけたままの網谷は、プロマイドを目の前にちらつかせる。


「このコ、アタシ知ってるよ。今人気急上昇中のグラビアアイドル、水上乃蒼みなかみ のあだよね?」

「そ、そうらしいね」

 僕はその筋には詳しくなかったが、前に炭酸飲料のCMを担当していたので顔と名前だけは認知していた。


「確か、前にバラエティ番組に出てた時に『バストサイズはHカップだ』って言ってたっけ」

「そ、そうなんだ」

 何故、水上乃蒼のプロフィールを……?と疑問に思うのも束の間。


「…………アタシのおっぱいはさ、『Kカップ』あんだよね♡」


「…………け、Kッッ!!?」

 網谷から告げられた事実に、僕は声を荒げてその胸を凝視してしまう。


 女性のバストサイズって確か、最小のAから始まってその次がB、C、D、E、F、G、H、I、J、……K!?Hカップを公言する水上乃蒼よりも、三段上のサイズを誇っているってコト!?


「アハハハッ!たくちん声出しすぎっ!!」

 けらけらと笑う網谷の声で正気に戻り、かあぁと顏が熱くなるのを感じる。


「でもそう♡アタシのおっぱいってK、けーかっぷなの♡正直このサイズのブラも最近きつくなってきたから、まだまだ成長途中なんかもね♡」

「は、はわわ……」

 網谷から告げられる生々しい身体情報に、僕の頭の中は彼女のおっぱいのことで更にヒートアップする。


「ホラ、この写真見てよ。胸に挟んだバナナが挟みきれずに、はみ出しちゃってるじゃん」

 網谷はプロマイドの水上乃蒼が谷間に挟んでいるバナナを指で差す。


「……でも♡アタシなら、バ・ナ・ナ♡ぜぇんぶ挟みきれる自信あるんだぁ♡」


 ぐにゅぅっ♡


「ひぅっっ!?」

 網谷はその爆乳を両脇から寄せ揚げ、襟からはみ出しそうな柔肉をこれでもかと見せつけてくる。

 ブラとシャツの束縛から解放されたがっている圧倒的ボリュームの乳肉に、僕の目はくぎ付けになる。


「あはっ♡たくちん目ぇマジすぎぃ♡……でもいいよ♡焚きつけたのはアタシだし、いっそのこと……ココでアタシとエッチなことしちゃう?♡」


「え、エッチなこと……?」


「そ♪たくちんのパンパンに膨らんだアソコをぉ、アタシのKカップおっぱいに挟んで♡もにゅ♡もにゅ♡ぐにゅ♡ぐにゅ♡って擦り合わせんの♡♡」


「も、もにゅもにゅ、ぐにゅぐにゅ…………?」


「アハッ♡そうそう!アタシの技ぁ、すっごい気持ちイイって竿から絶賛されてんだよね♡イキッたチャラ男もナルシストも、アタシのおっぱい技で女の子みたいに喘ぐんだよ?♡」


「お、おっぱい…………」


 網谷の胸部でパン生地をこねてるようにいやらしく歪む乳肉を、一切の思考を放棄した僕はただ見つめることだけしかできなかった。


「アタシもたくちんとエッチしたいから、たくちんのシたいエッチなこと♡このアタシがなぁんでも叶えてあげる♡」

 網谷はそう言いながらおっぱいを揉みしだき、細い指が見えなくなる程己の乳肉に沈み込ませる。


「このおっぱいの先っぽを♡ちゅー♡ちゅー♡って吸ったり♡」



「おっぱいの谷間に顔をうずめて♡むぎゅぅっ♡って圧迫したり♡」



「ヨダレまみれになったアソコを挟んで♡にちゅ♡にちゅ♡って擦り合わせたりして♡」



「たくちんの煮えたぎったアソコ、満足するまでスッカラカンにしてあげるっ♡♡」


 ピキッ。

 網谷の淫らな誘い文句は、瀬戸際だった僕の理性を崩壊させるには充分な威力だった。


 エロい女性と及ぶ性行為。あぁ、それはなんて――気持ちよさそうなんだ。


 僕はパンパンに張り詰めさせた股間のまま、ふらふらとおぼつかない足取りで網谷に近づく。


 そうだ。エッチに御託なんて必要ない。

 さわって、いじって、ねぶって、こすって、果てる。

 それだけのことじゃないか。一体何を気後れしていたのか。


「あぁん、たくちん♡こっちにきて、一緒にエッチしよ♡」

 派手な色の下着が短いスカートから覗くのも気にせず、網谷は発情した様子で僕を誘う。

 そうだ。彼女も乗り気だし、何なら彼女から誘われたんだ。

 何が起きても、もう気にしな――。


 僕の伸ばした手が、網谷の乳房に触れるまでもう十センチ。情事に至るまで刹那――といったところで。


 僕の朧気だった視界は、目の前のあるもので明瞭になる。


 それは、教室最前列の右から二番目――宇田の机。

 空席のはずのその机の上に、ピンク色のシャープペンシルが置かれてあるのを目に捉えた。


(あれは……宇田さんの……?)


 宇田亜梨子うだ ありこ

 可憐で、清楚で、勤勉で、真面目で、優しくて。

 この学校に転校してきたばかりの自分が図書館で迷っていたときに、見かねた彼女が案内係を務めてくれたのを覚えている。

 

 そんな女性としても生徒としても、完ぺきな人に。

 低身長で華奢で、女々しく弱弱しい自分が近づけるわけもなく。


 でも心の何処かでは、彼女と仲良く――いずれは健全な付き合いを始めたいと思った、憧れの女性。


 その時。

 先日の英語の授業の時に向けられた、宇田がこちらに向けた柔和な笑みが、頭の中にフラッシュバックする。


「ッッ!!!」


 突如電流が走ったように右手を跳ね除け、網谷から距離を置く。


「…………どうしたの?たくちん」

 おっぱいを揉みしだいたままの網谷はきょとんとした顔をする。


 危なかった。

 僕は網谷の質問に答えることはなく、つかつかと歩み寄り――。


 バッ!!

 網谷の傍に置かれていた教科書を素早くひっ掴む。


「あっ!」


「……っぼ、僕は!網谷さんとエッチなことなんてしないから!!」


 トマトのように赤くなった顔で、網谷に対し金輪際の宣誓をする。

 それから僕は踵を返し、呆気にとられた網谷に振り返ることなく。


「…………そっ、それじゃあ………また月曜日に」


 最低限の挨拶を済ませてから扉を閉め、風のような速さで二年生のエリアを抜け出すのだった。




「ぜぇ…………はぁ…………ぜぇ…………はぁあ…………」

 誰一人いない校門まで猛ダッシュでたどり着いた僕は、己のスタミナの無さに絶望しながら喘鳴をあげる。

 しかも股間は臨戦態勢のままだったから、危うく転びそうになったことが何度起こったことか。


 でも結果としてオーライだ。

 あの魔性を帯びた網谷から逃げ切り、事なきを得たのだから。


「…………今度から帰るときには、忘れ物の確認をしないと」

 肩の力を抜いてはぁ……と嘆息し、股間に残る熱に辟易しながらトボトボと帰路を辿るのだった。





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