第13話 昼下がりのトラブル
週末、金曜日の昼休み。
僕と不破、粕田と虎井の4人は図書館に集まり、英語の小テスト対策を行っていた。
「ひ、ひ~~~。何だって昼休みに勉強しなくちゃなんないんだよぉ~~」
「君たち二人が羽場先生にどやされたくないからと僕と四季クンにサポートを頼んできたんじゃないか。有言実行するためにも根気を見せたまえ」
「虎井君、そこ文法が間違ってるよ。正しくは……」
「あ、あれ?本当だ、ありがとう四季ちゃん」
弱音をあげそうになる粕田と、毅然とした態度でサポートをこなす不破。僕は隣に座る虎井の添削を行っていた。
図書館内にはほかの生徒は見当たらなかったため、この調子でいけば休み時間いっぱいまで復習が出来そうだ。
「ふぃい、もうやめにしね?流石に頭がパンクしそうだよ」
「むぅ……正直物足りなさはあるが、無理に根を詰めるのはかえって悪影響にもなる。ここらで撤収しようか」
ギブアップといった感じで伸びをする粕田に不破は渋々賛同する。僕と虎井も、持ってきた筆記用具を片付け始める。
「そういえば、どうでもいいことだけど……今日は網谷のヤツ割と大人しかったよな」
「そうだったかい?僕はあまり気にしてなかったが……」
突然粕田から振られた話題に、僕は無言で首肯する。
いつもは休み時間であれば他クラスの男子生徒や女子生徒と楽しそうに喋っている網谷だが、今日は割と自席についてスマホをポチポチとかまっている姿が見受けられた。
……というか、僕がどこからか視線を感じてきょろきょろしてると、網谷と目が合いがそっぽを向かれる、といった感じのケースがしばしばあった。
…………もしかして、網谷に観察されてる?
変な推測が頭をよぎるが、流石に自意識過剰かもしれないので黙っておくことにした。
「そういえば聞いたか?網谷、E組の田口と別れたらしいぞ」
「別れたも何も、ボンボンだったアイツの小遣いにあやかってただけだろ?」
「や、それはそうなんだけど。『もうアンタと付き合うの飽きたんだよね。つか、腰振ってる最中にも髪かまうのやめな?ヅラでも被ってんのかよ』って本人の目の前で言い放ったらしいぞ」
「うわマジか……散々貢がれておいてその言い草は流石に田口に同情するわ」
「神聖な学び舎の図書館で品性下劣な噂話をするのはやめたまえ」
網谷に関する二人の雑談に、ジト目の不破がくぎを刺す。
「ってことは、今網谷はフリーってことか。次の彼氏候補が黙ってないだろうな」
「いや、どうだろうな。俺だったら彼女が誰にでもカマかけるビッチてのは死んでも御免だね」
粕田の予想に虎井が露骨に顔をしかめる。
「そ、そうなんだ。虎井君って女性と付き合えるなら、あまり分別しないタイプだと思ってた」
「ギャッッハ!!四季ちゃんそのコメントマジいいとこついてる!」
「ひ、ひでぇよ四季ちゃん!」
ありのままの意見を物申すと、粕田は爆笑し虎井は涙目になる。
「四季ちゃんは知らねーだろうけど、虎井は一年のとき網谷のパイオツばっか眺めてて、本人からマジモンの恐喝されたんだぜ」
「そ、そりゃあんなでっかいもんぶら下げてたら、見ないわけにはいかねえだろ!」
「つったってお前はガン見しすぎ。まぁ『次は蛇田の三年連れてくる』なんて脅されたら、サルみたいに盛ったお前でも流石に萎えるわな」
「そうそう。……それに今の俺には、新しい心のオアシスがあるからな!」
何故か自信満々な虎井がカバンから取り出したのは、数枚の写真。僕と不破が頭に疑問符を浮かべる中、虎井はそれらを机に広げる。
「「!!!?」」
「お、お前コレって……!!」
「へへっ、超絶売れっ子グラビアアイドル・
そう。
虎井が机の上に広げたのは、実にたわわな巨乳をビキニで包んだ、可憐な美少女の高解像度な写真の数々。
「こ、コレ一体どうしたんだよ!?」
「へへへ、有り金全部突っ込んで発売と同時に全種類購入したんだよ。おかげで今月は水道水と割引弁当で乗り切らなきゃだけど、それだけの価値はあるぜ」
目を輝かせる粕田と、得意げに鼻を擦る虎井。
「あ、あわわ…………!!」
「バカか君は!!?図書館でなんてものを広げてるんだ、すぐにでも片付けたまえ!!」
肌色多めかつ刺激強めなポージングをした美少女が映ったグラビア写真の数々に、僕は真っ赤になった顔を両手で隠し、不破は顔を赤らめながらも激昂する。
「何だよ二人とも、そんなに顔を赤らめて。そんな真面目な体を装っておいて、ホントは興味があるんじゃ…………」
「…………どうかしたの?四季くん」
「「「「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」
突如後ろからかけられた女性の声に、僕たち四人は机の上のプロマイドを一斉にノートと筆記用具で隠していく。
すぐ傍には、同級生でありながら図書委員の可憐な美少女―
「な、何でもないよ。その……もうすぐで昼休みが終わるから、皆で片付けに入ろうかと思って」
背中にダラダラと冷や汗が伝うのを感じつつ、ぎこちない笑みを顔に貼り付けて何事もない体を装う。
「そっか。私はもう教室に戻るから、忘れ物のないようにね」
「ありがとう。気をつけるよ」
こちらを気遣う宇田に笑顔を返し、彼女が図書室から出ていくのを見送る。
「「「「………はぁぁああああ………」」」」
やがて図書室には僕たち男子四人組だけが残り、それぞれが脱力して安堵の息を吐く。
危なかった。
もし仮にテーブルの上にあるブロマイドの存在が宇田に判明すれば、風紀を重んじる彼女から侮蔑の眼差しを向けられるのは必至だった。
図書委員としても模範的な彼女は顧問にも報告し、僕たち四人は校内の生徒全員から「変態」と
最悪、罰則が生じて今後の進路にも悪影響が出たかもしれない。
「な、何とかなった……」
「流石に俺の学園生活が終わったと思った……」
「君は正真正銘の大馬鹿者だな……これに懲りてもなお反省の兆しが見えないようなら、君には絶交を叩きつけるぞ……」
「ま、マジで
極度の緊張からの解放に息も絶え絶えな僕たち四人組は、少し間を置いてからそれぞれの片付けを開始するのだった。
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