第12話 くらりside―三人の約束

 くらり「今日なんだけど」

    「照乃と紫苑に話したいことあるから、いつものファミレス集合ね」


    「あ」

    「あとそれと」

    「絶っっっ対に麻万里亜ままりあだけは連れてこないで!!!!!」



「…………?」

 放課後、くらりからのメッセージを受け取った照乃てるのは、市街地にある大手ファミレスチェーン店・トトスへと足を運ぶ。


「いらっしゃいませ!一名様でしょうか?」

「いえ、連れが二名いるハズなんすけど」

「かしこまりました!奥のボックス席ですね」

 トトスに入店した照乃は、店員が案内する指定の場所へと向かう。


「うぃーーす、二人とも」

「おつかれーー」

「先に食べてるよーーん」

 到着したボックス席にはやたらご機嫌そうなくらりと、注文した山盛りポテトをリスのように頬張る紫苑しおんが座っていた。


「いやぁ、ゴメンね。急に連絡して」

「や、そこは別にどうでもいいんだけど。にしても、私が聞きたいのは昼のことだよ」

「昼?」

 照乃からの言葉に、くらりはきょとんと首を傾げる。


「よりにもよってウチの三年に、『生徒指導に捕まってメンドイから、旧校舎で暴れてくんない?』なんてメッセ送るとか一体ナニ考えてんの!?先公に捕まる前にトンズラしたからいいものの!」


 網谷くらりのギャル友達である佐久須照乃、博州紫苑、榛葉麻万里亜の三人は隣町の蛇田へびだ工業高校に通学しており、そこは市内の高校のなかでも屈指の治安の悪さを誇っている。

 暴走族まがいの生徒が、授業中や休み時間に敷地内をバイクで暴走するのは日常茶飯事であり、今日の昼休みに旧校舎の敷地内で起きた珍事件も、元凶はくらりからの救援メッセージによるものであった。


「だって生徒指導が藤部とうべに変わってから、捕まっても色仕掛けが通じなくて大変なんだもん。EDだか何だか知らないけど、なかなか解放してくんないし」

 責め立てるようにジト目で睨む照乃に対し、飄々とした態度を続けるくらり。


「いやぁ、こーいう時に小さな借りは作っておくモンだよねー。今日呼んだ三年が童貞捨てたいっていうもんだから、この前優しく筆おろししてあげたんだけど。『何か困ったことがあったらすぐに呼んでくれよ!!』って言われたから、今回気軽に利用させてもらったんだ。やっぱ童貞ってチョロいわ」

 けらけら笑いながらソフトドリンクをすするくらりに、うんざりした照乃は「麻万里亜ドイツ網谷コイツも……」と言いたげな視線を送る。


「…………その感じを見るに、今日アタシと紫苑を呼んだのは別件そうだね」

「どうかしたのーー?」

 二人からの詮索に、くらりは「ふふん」と自信ありげな笑みを浮かべ。


「…………アタシさ、本気ホンキで堕としにかかりたい男子が出来たんだよね」


 くらりからの発言を聞いた照乃と紫苑は、きょとん……とした後。


「……ま、いいんじゃね。アンタから攻められて断る男なんか、ホモか不能かのどちらかだろうし」

「誰ダレーー!?どんなのどんなの!?」

 照乃はクールに対応し、紫苑はウキウキと目を輝かせる。


「ふふ、このコなんだけど」

 くらりはそう言いながら、スマホの中の写真フォルダを開いて二人に向ける。そこには同級生に囲まれて談笑している、背の低い男子生徒の姿があった。

「…………誰?」

「へーー、カワイイコだねぇ」

 照乃は最初、男子用の制服を着用した女子かと錯覚し、紫苑は優しそうに笑う彼の童顔を素直に褒める。


四季拓斗しき たくとっていって、今年の春から奏流ウチに転校してきた男子なんだー。マジでカワイイよねー!」


「「男子転校生!!?」」

 顔をニヤつかせるくらりに対し、衝撃で声を荒げる二人。その声量に、周りにいた客がビクッと肩を震わせる。


 度々起こす口論により、いくつかの店を出禁にさせられた彼女たちは、迷惑にならないよう身を寄せ合い、ひそひそと喋りながら写真を確認しあう。

「コレがアタシらとタメってマジか。高校に飛び級した男装趣味の女児小学生かと思ったわ」

「ねーー。ポメラニアンみたーーい」

 二人からの評価に、くらりは「そうでしょそうでしょ」となぜか得意げに頷いている。


「アタシ自身、たくちんが転校してきた初日はマジでポカンとしちゃったもんね。こんな絵に描いたように可愛くて低身長の男子が居るんだって。しかも真面目でしっかりとしたいい子そうなのに、エロスにはちゃんとキョ―ミあんのがギャップでそそられるんだよね!顔を赤らめながらアタシのおっぱいをチラチラ横目で見る仕草だけでときめいちゃったもん」

「オタク並に何言ってんのか分かんない早口で草」

 拓斗とのやり取りを想起するようにうっとりとするくらりと、フードメニューを手に取る照乃。


 汗だくになりながら木陰で水分補給をする拓斗、小さい手で箸を持ちながら弁当をほおばる拓斗……と若干隠し撮りじみた写真フォルダを眺めていた紫苑が口を開く。


「くらりっち、このコと付き合いたいのー?」


 紫苑からの質問に、くらりは少し沈黙した後。


「…………や、まぁそれもあるけど。アタシは早くエッチできればそれでいいかな」


「……アンタはいつだって脳死でエロに繋がるよな」

 くらりの答えに、メニューを注文した照乃がジト目を向ける。


「だってアタシ、小五で処女捨てた正真正銘のビッチだよ?アタシの性癖どストレートなたくちんが向こうから来てくれたんだから、正直もうオナニーだけじゃ物足りないんだよね。今日なんて、たくちんと顔合わせたときにはもう濡れちゃってたし」

「でもアンタんところ、理事長が変わって校則がいくら緩くなったとはいえ、校内での性行為は一発で退学アウトっしょ?いっその事で早まると、ソイツと一生顔合わせらんねーぞ」

「それなー。早く外堀埋めるか、

 難しい顔をするくらりに、ポテトをペロリと平らげた紫苑が口を開く。


「確かくらりっち、蛇田ウチでも有名な宇田亜梨子うだ ありこと同クラだったよね?たくちんがソレにナビいたりしちゃわない?」

 紫苑からの質問に、くらりは思い出すように目を背ける。


 確かアタシがこの前、昼休みに友達と雑談してた時も、たくちんと宇田が少し会話してたっけ。

 たくちんは緊張してたようで、宇田はたくちんと距離を詰めたそうにしてて……。


「…………いや、ないない!宇田は確かに可愛いけど、胸小さいしガード堅いし!仮にそうだとしても、アタシが本気出せばたくちんも秒で堕ちるから!」

 こちらに抜け目はない、といった感じにけらけらと笑うくらり。


「まぁ、アンタがようやく満足なセックスが出来そうな相手が見つかったのは分かったよ。なら何で今日、麻万里亜を呼ばなかったん?」


「あぁ、それなんだけど。たくちんのこと、そしてアタシがたくちんを狙っていること、麻万里亜アイツにはナイショにしてて欲しいんだ」

「何でぇ?」

 照乃からの質問に眉を顰めるくらりと、疑問符を浮かべる紫苑。


「何でもナニも、アイツは家に小学生男子を呼んでは食い物にする重度のショタコンだよ?ソンナのに同い年で小学生みたいな見た目したたくちんを見せたら、どうなると思う?」

「……踏み潰したカエルみたいにグチャグチャに犯すだろうな」


「そ。いくらアタシがセックスしか頭にないビッチと言えど、狙ってるオトコを他人が先に口付けんのは死んでもヤなんだよね。てなわけで、アタシがたくちんをモノにするまでは、アイツに黙ってて欲しいの。勿論、写真を共有するのもナシで」


「分かったよ」「りょ!」

 くらりからの口約束に、照乃と紫苑は簡潔に承諾する。


「お待たせしましたー、こちらがしらすと明太パスタですねー」

「あ、スイマセン。ドリンクバー注文し忘れたんで、ソレも追加で」

「あたし山盛りポテト追加でー!」

 三人が座るボックス席に注文した品を届けに来た店員に、追加オーダーを注文する照乃と紫苑。


 19時00分、くらりが二人を呼んだ件は何事もなく終わり、ギャル三人組はファミレスにて豪勢な夕食を迎える。


 唯一の懸念点が解消されたくらりは、スマホに保存された拓斗の写真をもう一度眺める。


「…………待っててね、たくちん♡」


 二人に聞こえないよう小声で囁いたくらりは、食欲とは別の欲求を抑えるように小さく舌なめずりをした後、スマホをカバンの中にしまうのだった。





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