第11話 拓斗side―一人の夜②
21時30分、自室で勉強を終えた僕は、リビング隣にある和室―お父さんの遺影が飾ってある仏間に足を運ぶ。
チー―ン。
仏壇の鐘を鳴らし、線香を供えてから合掌する。あえて豆電球だけを灯らせた薄暗い部屋の中にいる僕は、優しい笑みを浮かべる父さんの遺影に向かって話しかける。
「今日はね、英語のテストで一番の点数を取ったんだ。不破君にも羨ましがられたんだけど、粕田君と虎井君が酷い点数を取っちゃって……羽場先生からも二人をサポートしてくれって頼まれちゃったんだ。でもそれだけ信頼されてるって、凄いことだよね」
まるで日記に記録するように、今日あった出来事を父さんに向かって話しかける。
傍から見れば少し痛い光景なのかもしれないが、母さんが夜勤で一人きりの時は、こうして寂しさを紛らわせるのが日課になっていた。
「それとね、あとは…………」
他に話すことがないか、記憶を引っ張り出していると……。
ばるんっ♡
昼休みに遭遇した網谷のおっぱいが、目の前まで迫ってくる光景が思い出される。
「…………あ」
余りにも恥ずかしかったから忘れようとしたうえで、時間が経過したところで思い出したのを後悔する。
シャツの薄生地を風船のように張り詰めさせた膨大な肉量。
施された刺繍すらも透けて見えるほどの派手なブラジャー。
ボタンとボタンの間からかすかに見える、柔肉によってできた谷間。
網膜にしかと刻み付けられた網谷のおっぱいが、僕の思考を怒涛の勢いで埋め尽くす。
「ぅう…………」
下半身に血流が集まり、股間がムズムズと疼きだす。
話すことがないなら、もう寝てしまえばよかった。そう後悔するのも後の祭りで、慣れたはずの正座の体勢もそわそわと落ち着かなくなる。
遺影の中の父さんは未だ笑顔で(当然だが)、「それから?」と話の続きを待ちかねているように見えた。
「…………っ、なっ何でもない!おやすみ、父さん!」
同級生のおっぱいで欲情してしまった羞恥に耐えられなくなってしまった僕は、逃げ出すようにして仏間から退室するのだった。
股間に違和感を覚えたままパジャマに着替えた僕は、洗面所で歯磨きをこなす。
あとはベッドに潜って、就寝するだけだ。
だというのに、網谷の爆乳がチラチラとちらついて頭の中から離れようとしない。
このままでは正常な睡眠を迎えられるか怪しい。
……もういっそのこと、「意識してしまうのは仕方のないことだ。だって男なんだから」と割り切ることにしようか。
実際、校内一を誇る彼女のおっぱいは魅力的だ。
光が当たって眩しく輝く白い肌も、双丘によってできる暗い影も眼福と言える。
ただ見るだけで脳裏に焼き付くほど印象深いのだ。アレほどのものを触れる男は、どれ程の至福を得られるのだろうか。
窮屈な下着から解放され眼前にさらけ出された乳肉は、どのように形を変えるのだろうか。
ふかふかのパン生地のような白肌からは、どのような匂いがするのだろうか。
先端の形状は?色は?いずれにせよ、さぞ煽情的なことだろう。
重さは?肌触りは?柔らかさは?あぁ、実際に触って確かめてみたい。
邪な知的探求心がとめどなく押し寄せ、股間は熱を帯びムクムクと劣情を催してきたところで――
「んんんーーーーーーーーーー!!!!!!」
バシャバシャバシャバシャバシャバシャ!!!!!
蛇口のノズルを思いっきりひねり、キンキンに冷えた水を頭にかぶりながら顔に勢いよく浴びせ続ける。
ダメだ。
同級生のおっぱいに気を取られ続けていたところで、正常な睡眠なんか迎えられるものか。
「はぁ、はぁ…………」
5リットルほど冷水を被り続けた結果、華奢な僕の身体は冷え切り身震いすら起こしてしまう。おかげで下半身はすっかり大人しくなり、正常な思考を取り戻すことが出来た。
脳裏に浮かぶのは、病床に伏せた父さんが僕に向けた、最期の遺言。
『いいか、拓斗。怠惰に、強欲に身を任せるな。いついかなる時も勉学に励み、節制を心がけるんだ。勉学を放棄しひたすらに遊び
弱弱しくも優しい笑みをたたえる父さんに、目に涙を溜めながら「うん」と力強く約束したのを、今でも覚えている。
父さんはその後喋る事すらままならなくなり、数日後に息を引き取った。
そうだ。
父さんの言う通り、ここで自分の欲情をコントロールできなければ、僕はダメな人間になってしまう。
クラスメイトに欲情し、あまつさえ何かしらの事故を招いてしまえば、取り返しのつかない誤解を生んでしまう。そうなればお先は真っ暗、今一緒に生きている母さんに迷惑をかけ、天国にいる父さんには幻滅されてしまうだろう。
…………決めた!
今度網谷に出合い頭にからかわれても、毅然とした立ち居振る舞いで対応しよう!
そうすれば彼女も「つまらない」と絡むのをやめ、真っ当な学校生活を送れるだろう。
ふんす!と胸を張り今後の決意に漲っていたところで、一時間半にわたる勉学の反動である猛烈な睡魔が襲ってきた。
22時00分、風邪をひかないようドライヤーで頭の水けを取り、家の電気すべてを消灯した後、僕はベッドに潜り込むのだった。
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