第9話 性欲と追憶③―諦め

「…………っていうコトがあったんだよね」


 先日起きた公園での青〇未遂から数日が立ち、くらりは親友数人とカラオケブースに訪れ、内気な少年・ゆうたとの事のあらましを照乃に伝えた。


 前会ったときよりピアスを顔に二個追加していた照乃は、予想していた通りの冷めた目をくらりに向け、薄い色素の唇を固く引き結んでいたが、やがて小さく開かれる。



「…………やっぱ変態ヘンタイなんじゃん」



「アタシ変態じゃないもん!!!!!!!!!!」

「いや変態だよ」

 絶叫ともとれる声量で否定するも、照乃からの冷徹な反応は変わらなかった。


「なにーー?どったのーーー??」


 一人でキャピキャピと楽しそうにJ-POPを歌唱していた黒ギャル―博州はかす 紫苑しおんは、はぁはぁと息を整えながら二人の様子を窺う。


「何でもないよ。次もアンタが歌いな」

「まぢーー!?やっちゃぁ!!」

 嬉しそうに顔を輝かせる紫苑は、再度マイクを握り同じ曲を入力する。これでまた、雑談のための数分が確保できた。


「はぁあ…………」

 可愛らしい歌声を響かせる紫苑しおんの眩しい笑顔とは裏腹に、溜息をつくくらりの顔には暗い影が差す。


「や、落ち込むのは分かるけどさ。セックスのイロハも知らないような男児に発情して股開くなんざ、女児に粗チン見せつける変質野郎とヤッてること変わらないって」

 照乃の口から放たれる容赦の無い言葉のナイフに、くらりは図星を突かれたように「う゛ッ」と胸を押さえる。

「違うの……まさかアタシがセックスに求めてたのが、モノの大きさとか秒でイケるようなテクニックとかじゃなくて、アタシの身体を見て勝手に勃起しておいて恥ずかしがるような、童貞丸出しのウブな反応だったなんて、私自身想像してなかったの……」

 少年の劣情を搔き乱し甘くそそのした出来事を思い返すように、くらりは少し顔を赤くしながら独白する。

「誰か一人でも手籠てごめにしたら早めに教えてな。流石に顔見知り二人から犯罪者が出たら、『無関係です』って突き通さないと私まで面倒だから」

「だから!アタシをあの麻万里亜ヘンタイと一緒にしないでってば!!!」

 フードメニューに目を通し、冷たい対応を続ける照乃に声を荒げて否定する。


「でもマジでこれだけは言えるんだけど、あのあと家に帰ってオナりまくったあとで、冷静になって考えてみたんだよね。『でも小学生は流石にないわ』って。ほら、小学生って言っても色々いるじゃん?鼻水垂らしたの馬鹿っぽいのとか、生意気なクソガキとか、背伸びしたマセガキとか。全くそういうのじゃないんだよね」


「あぁ確か、麻万理亜ままりあもこの前『色んなオトコノコをぉ、踏み潰したカエルみたいにグッチャグチャの汁まみれにして犯してやるのがぁ、最っ高にキモチイイんだよねぇ〜〜』って言ってたし、そういうのとは違うか。……やっぱあいつ、もう一回警察に突き出そうかな」

「…………とにかく、アタシがシたいセックスにおいて重要なのは『年齢』じゃない!身長……は、二番目ぐらいかな……」


「ってなると、この前の相談で言ってた『反応』か」

「そうそう!やっぱアタシは、こっちからの言葉責めとか舌技とかで、涙目になりながら甘く悶えてんのが一番そそられんの!どーりで主導権握りたがるヤリチンとばっかヤッてても、そらアガンないわけだよねー」

くらりは自分の性癖を完全に理解した!と言わんばかりに目を輝かせる。


「えーーと?この前までの話もまとめると…アンタは『モノに物言わせた雑なプレイはしたくない』、『主導権は握らせてくれる』、『性知識に乏しくてエロには奥手』、『少しイジっただけで可愛い反応してくれる』、『清潔感のある童貞』とヤりたいってとこか」

「できれば低身長も追加で!」


「…………そんな男いるか?」

「…………いるわけないか」

 ジト目の照乃にがっくりと肩を落とすくらり。


「や、中坊だったらあり得なくもないと思うけど、エロに目覚めたてのはそこかしこに吹聴したがるから厄介だし。……紫苑しおんー、何かイイ感じの童貞ドーテー知らない?」

 間奏中にルンルンと身体を揺らす紫苑に尋ねる。だが、


「えーー?アタシに聞いたらソイツはもう童貞じゃなくなーい?わら」

「それもそっか」

 意味不明な返答に納得する照乃。


 というのも、子犬のような童顔に似つかわしくないほどのグラマラスな体型をした黒ギャル―博州はかす 紫苑しおんは、何より童貞に目がないのである。

 何でも、一・二枚諭吉を持ってヤらせてくれと頼めば、秒で筆おろしを快諾するほどの尻軽っぷり。

 そしてついたあだ名が『チェリーハント』……なんてことはなく、おっぱいがでかいだけの馬鹿バカ……略して『バカパイ』の愛称(?)で多くのヤリチンに親しまれている。


「でもさ、願わずにはいられないよね……無垢で純情でエロ耐性のない、だけど女の身体には興味津々な、小動物系の低身長男子……」

「願望の量がデブ御用達ラーメンのソレなんだよ」

 ハァ……と物思いに耽るくらりに、ジト目でツッコミをする照乃。


「…………決めた!二年生になってからは、絶対にアタシ好みのオトコ見つける!」

「その感じでいくと、似たような性癖の麻万里亜が黙ってなさそうだけど」

「仮にいたとして、あんな変態に先に渡すもんか!アタシの魅惑ボイスとおっぱいとスキンシップで、先にメロメロにさせてやる!」

 性欲に身体を委ねるビッチなりの熱意によって、闘志を燃やすくらりであった。


「よっし紫苑、アタシも歌う!一緒にデュエットしよ!」

「くらりっちも?いいよぉ!」

 やっとカラオケらしくなってきた場の盛り上がりに、照乃はピアスがはめ込まれた口角を緩める。

 こうして、ギャル三人によるカラオケパーティーは、日没まで続くのだった。



 …………この時のくらりは、まだ知る由もなかった。


『無垢で純情でエロ耐性の無い、だけど女の身体には興味津々な、小動物系の低身長男子』。


 これらの要素をすべて満たした「四季拓斗」という名の転校生と、今春から始まる新学期に運命的な出会いを果たす、豪運を持ち合わせていたことを。

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