第8話 性欲と追憶②―目覚め♡

 照乃と遊んだ日から少し経過した、三月上旬。

 越冬の肌寒さが身体に堪える日中、くらりは学校を途中から抜け出して、街中を歩いていた。


 セックスレスの相談をして照乃と別れてからも、男を呼んでは性行為に及んでいたが、滾る性欲が一時的に発散できただけで、やはりどれも満足のいくものではなかった。

「はぁ~~……」

 胸中には悶々とした不満が募り、それを軽減するようにため息を吐く。


「…………さむ

 改造したミニスカでは寒風が生足に直撃し、体温を急激に冷やしてしまう。「モノをおっ勃てた誰かと今すぐシたい」というムラムラは一旦鞘に収め、くらりは体を温めるために屋内に避難をするのだった。




「ふぅ~~~……」

 近くのコンビニでキャラメルモカのホットを注文したくらりは、近くの公園のベンチに腰をかけて中身をすする。外周には太い幹の広葉樹が連なっているため、強風をある程度軽減してくれる。甘ったるい一口をすするたびに、体が温まっていくのを感じた。

 数人の小学生たちがボール遊びをしているのを遠巻きに眺めながら、シールや編みぐるみなどを派手にあしらったスマホを起動する。


 最早生活の一部となっているSNSに、一件の未読メッセージが着信していた。

 この前に停学を食らった犯罪者予備軍ショタコン……もとい麻万里亜ままりあからだ。


 ままりあ「聞いたよぉ~くらりちゃん~」

     「最近セックスレスで悩んでるんだって~?」


 くらり「そうだけど」

    「男児にしかキョ―ミない変態のアンタには関係ないでしょ」


 ままりあ「ひどいよぉくらりちゃん~」

     「私はただ~」

     「健気なオトコノコに、オトナの世界を教えてあげてただけなのにぃ~」


 くらり「こっちはただでさえムラムラしてんのに」

    「その腹立つ喋り方、メッセージですらどうにかなんないわけ?」


 ままりあ「うへぇ~」

     「触らぬビッチに祟りなしってヤツだねぇ~」


 くらり「ビッチでヘンタイなアンタが言うな」

    「とにかく」

    「停学食らった奴にとやかく言われたくないから、今は話しかけてこないで」


 

 ままりあ「りょ~~か~~い」

     「次はバレずにヤるね~~」



「……ヤらない選択肢はないんだ」

 更新される気配のないSNSの画面を閉じ、ぬるくなったキャラメルモカをすする。


 今やり取りした麻万里亜ままりあは変態であることを除けば、多少冷たくあしらっても気を害することの無い、のんびりおっとりとした性格だ。

 とはいえ、久方ぶりに言葉を交わした顔見知りにすらきつく当たってしまうのは、流石に罪悪感が芽生えるものだ。


 どれもこれも、セックスを重ねても解消されることの無い、性的な欲求不満の所為だ。


「あ~~あ、どっかに居ないかなぁ。アタシが気持ちよくなりたいから、アタシのいうコトを聞いてくれる、アタシだけに都合のいい男……」

 そう独り言ちながら、肉付きのいい太ももを艶めかしく組んでいると。


 ポォン、ポォン。

 目の前に、ピンクのゴムボールが軽快な音を立てて転がってくる。


「あ、すみません……ソレ……」

 続いて、前髪で目を隠した内気そうな少年がやってくる。先ほど向こうでボール遊びをしていた小学生グループの一人だが、他の皆は公園を出ていったようだ。


「コレ?いーよ、ほれ」

 座ったままゴムボールを小さく蹴り、少年のもとへ転がす。

 だが。


「…………」

 少年はボールを手で受け取るも、こちらを見つめたままだ。


「……どしたん?」

「…………!あ、えっと、その……」

 こちらが気にかけると、マッシュルームみたいな頭の少年は顔を赤くし、そっぽを向く。


 きゅん……。

 そのとき、くらりのなかに小さな嗜虐心が目覚めた。


「…………♡なに?アタシの顔になんかついてる?♡」

 スマホを傍に置き、少年の目線に合わせて前屈みになる。


 たゆんっ♡

 くらりが背を屈めたことで、彼女の小悪魔的に可愛い顔と、釣鐘上になった豊満な乳房が、少年の前に強調される形になる。


「あ、えっと、いや、何も……」

「えーー?嘘だぁ♡アタシのこと、ずっとじぃっと見つめてきたじゃん♡なんかやましい事でもあるんじゃないの?♡」

「あ、あぅ…………」

 キャラメルを含んだような甘ったるい声で、耳まで真っ赤にした男子を茶化してみる。


(ヤバ……♡ちょっとコレ、楽しいかも……♡)

 胸中で増幅しつつある嗜虐心に、さらなる快感を覚えていると。


「その…………ぁ…………から」

 髪の毛に隠れたつぶらな瞳を潤ませながら、少年はぽそぽそと何かを呟く。


「ん?♡なぁに?♡」



「…………その…………お姉さんが、……っ綺麗、だったから…………」



 きゅぅぅぅうううううううんんっっっ♡♡♡♡


 少年からの純粋な褒め殺しに、胸を貫く雷撃のようなときめきは最高潮に達する。



(えっ!!?♡やばぁっっ!!♡♡私よりも数個年下の男子って、こんなカワイイもんだったっけ!!!?♡♡)

 表面上は平常を装いつつも、何よりもくらり自身が己の胸の高鳴りに戸惑いを覚えていた。


 彼女がこれまで身体を重ねてきたのは、あくまで彼女の身体が目的な男のみ。だからこそ彼女の「可愛さ」というのは付加価値でしかなかったが、今こうして向けられたのはくらりを「魅力的な女性」としてとらえている、男としての純粋な好意。


 その純粋無垢な反応に、くらりをビッチたらしめる、「メス」の本能が働いた。


 豊満な身体を使って、脳髄まで侵食するように誘惑する。

 その細い肢体を掴み、押し伏せる。皮が被っているであろうソレを、ふやけるぐらいに貪り尽す。


 この子を、目の前のいたいけなオスを、アタシ好みに穢してやりたいッッ…………!!♡♡


 絶頂寸前の予兆にも似た情欲を必死に堪え、余裕綽々な笑みを浮かべる。


「へぇ~~~……♡キレイって、アタシの顔が?いやぁ、嬉しいなぁ♡…………で、も♡」


「キミが気になってたのって、ホントに顔だけ?♡」


 ちらっ♡

 くらりはそう言いながら、制服の襟をはだけて谷間を見せつける。


「…………っっ!!」

 少年は顔をさらに真っ赤にさせながら、ごくりと生唾を嚥下する。

「あれ~~~?♡その反応、アタシのおっぱいにキョ―ミあったんだぁ?♡見かけによらずエッチさんなんだぁ♡♡」

「あ、あわわ…………!!」

 くらりからの揶揄からかいにアワアワと慌てふためく少年は、さながら沸騰した熱湯の中でもがくタコのようであった。

 当然くらりも少年の視線には気づいていたが、自分の乳房を注目される感覚には慣れていたため、少年の露骨な反応が新鮮でもあった。


 見てみたい!と沸き立ってくる、男としての本能。

 見てはいけない!という、形成されつつある社会人としての理性。


 心を揺さぶる二つの衝動にせめぎ合い混乱する様子を見るのが、こんなにも昂るものだとは。


 そしてその可愛らしい顔の下には、もっと可愛らしい反応をするモノがあった。

「くすっ♡キミ、ソレどーしたの?♡」

「えっ……うわッッ!!?」

 視線の先には、少年の半ズボンをテント状に盛り上げる股間部分。

 ソレをわざとらしく指さすと、少年は先ほどの二割増しで慌てふためく。その反応がいちいち可愛らしくて、くらりはさらに感情を昂らせる。


「あ~~♡お姉さんの大きなおっぱい♡ガン見しちゃって、おっきさせてるんだぁ~~♡………やっぱ、エッチさんなんじゃん♡♡」

「ぅ、うぅう…………!」

 耳元で甘くささやくと、少年は涙目になりながら股間を押さえる。


(あ~~、無理無理っ♡その反応可愛すぎッ♡♡)

 先ほどまで麻万里亜を変態と罵っていたことすら忘れ、くらりの少年に対する誘惑はヒートアップする。


「アタシならぁ、そのおっきくしたの♡ナンとかしてあげられるよ♡……どうする?♡♡」

「えっ…………」


 少年が腑抜けた声を漏らすのも束の間、くらりはベンチに腰掛け、股を下品に大きく開く。

 くらりがあともう少しで腰を前に突き出せば、肉付きのいい臀部と快感によって湿らせた下着があらわになってしまう。


 そうなってしまえば、いたいけで無垢な少年と、発情した痴女が対面する歪な構図の出来上がりだ。

 だがそう言った身の破滅の危険性ですら、今のくらりにとっては情欲を刺激するカンフル剤でしかなかった。


「えっと…………その…………」


(来てっ♡来てっ♡早くキてっ♡)


 股間を盛り上げたまま困惑する少年と、期待に胸を高鳴らせるビッチ。


 二人の距離が、もう数十センチに達したところで。


「おぉーーーい、ゆうたーーーぁ!!」


「「ビクッ!!?」」

 公園の入り口から響く大声に、二人は肩を震わせ体勢を立て直す。

 声のしたほうを見てみれば、先ほどの小学生グループの一人が、待ちかねたように戻ってきていた。


「何やってんだよ!?皆でコンビニ行こうって約束したじゃん!!」

「ぅ、ウン…………」

 苛立たし気な仲間からの催促に、少年は気落ちした様子で背を向ける。

 再度、こちらに目を向ける少年。それに対し、


「…………アハハッ、何マジになってんの?ちょっとからかってただけじゃん、ささっとお友達のトコ戻ってやんな?」

 何でもない様子のくらりが手をひらひらと振りながら、少年に別れを促す。


 少年は入口へと向かう途中、名残惜しそうに何度か振り返った後、仲間と合流する。

 彼が公園から出ていくまで、その後姿を見送った後。


「…………はああぁぁああ~~~~~~…………」

 肺が空っぽになるほどに深いため息を吐く。


 危なかった。

 あそこで仲間の合流が無かったら、あの少年を近くの木陰に引きずり込んでいただろう。


 自分の中指にも満たない小さく屹立したソレを、撫でて、ねぶって、もてあそんでいたことだろう。


 己が隠し持っていた変態性に嫌気がさすと同時に、一つの確信を見出した。


 私が追い求めていた「満足のいく性行為」とは、「コレ」だったのだと。



「…………とりあえず、帰ってオナニーしよ」

 くらりは情欲によって熱を溜めた身体を引きずるように、帰路へと歩を進めるのだった。



 ちなみにこの時くらりにほだされかけた内気な少年は、この日の夜にくらりの痴態を思い出し、人生初の精通かつ夢精を成し遂げたのだが…またしてもこの事実をくらりは知る由もなかった。






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