第11話 土の精霊王 ノ―ム
月明かりの中土の精霊王 ノ―ムはタバコをふかしていた。
なんだか精霊が俗世のものを嗜むことに笑ってしまう。
現に美味しそうには吸ってはいない。
「ノ―ム様。
一先ずは今回のお礼を述べさせてくださいませ。
民を守っていただきありがとうございました。
まさか貴方様がこの地に『具現化』出来るなんて思いませんで。
挨拶が遅れたのをお詫びいたしますわ………。
前金としてこちら。
お納め下さいませ………。
さっき取れた中で一番大きなブラックオパールです」
フローリアの拳ほどの宝石をノ―ムへ差し出した。
するとノ―ムはニンマリ笑うと宝石ごとフローリアの腕を引っ張る。
体制を崩したフローリアの唇をノ―ムは割り開いて己の肉厚な舌でこじ開けた。
『ッ…………?!んッ…………ふッ…………?』
月明かりの中で湿ったリップ音が響く。
フローリアの艶っぽい声が漏れるたびにノ―ムの眉はピクリと動く。
丹念に慎重に性感帯を探る動きをする舌に震えながら、フローリアは逃げられないでいた。
酸欠になりそうになるほど腔内を蹂躙され、力が入らないフローリアの腰をノ―ムは柔く柔く撫でて、より引き寄せた。
ガリ。
「いッ…………?」
フローリアの口から血がたれた。
ノ―ムの口からも血が滴る。
「ッ…………冷静になりまして?」
フローリアは怒りに震えながら身を翻して身体を掻き抱いた。
「わるい。酒に酔った。
………………。行きナ。
今度は月夜に酔って攫いたくなる」
「攫われたら自害してやりますわッ…………。
わたくしはッ…………ルドルフ様のものッ…………。
誰のものにもならないわ」
「ッ…………やっと『成人』した。
俺もッ…………イフリートも待った。
嫁に来ないかい。フローリア。
この世界は『歪んでいる』
魔獣は本来『巨大化』しない。
こんな世界であんたみたいな純粋無垢………。
「選ばれしもの」なのに。
争いばかりのヒトなんか見捨ててッ…………俺達と暮らせばいいッ…………」
「母も。この世界を愛したわ。父のことも。
わたくしもそうなの。
この世界は好きだし。ルドルフ様を愛しているの。
わたくしはあの方のものッ…………」
「あんたは。あんたのものだヨ。
フローリア。お前。
まだ『能力』晒してないだろうネ゙。
ましてや。使ってないだろうね?
それは母親にも止められたダロ。
お前は『愛の祈り』の………………」
「妖精国で懲りましたもの。
さすがの私も………『命』かけるほどは。『祈り』ませんわ。
私は簡単にはヒトを好きにはなりませんわ。
あれはね。『相思相愛』だから為せるのよ。
私の片思いだと為せない。どんなに願っても。
逆も然り。
だから私は『毒』を吐くのよ。
わかってる。母みたいにはならない。
利用されて滅びた一族のものみたいには。
わたくし、強いの。
あれはね。『お人好し』だから身を滅ぼすの。
私みたいな性格が悪い女なら。大丈夫。大丈夫だから」
ノ―ムの口元にフローリアは治癒魔術をかけた。
精霊は本来は『概念』なのだからこれらは茶番であるのだけど。
『具現化』している時は精気を消耗しているから、『傷』はそれなりに彼等の『概念』を傷つける。
それらを知らずともフローリアは治すのだが。
「ッ…………そういうとこが。純粋無垢なんだよッ…………」
ノ―厶は悔しそうに笑う。
「心配なさらないで?
つい………ノ―ム様の無事と幸せを『祈り』たくなっちゃうから。
貴方は………私にはずっと意地悪でいてね?
ずっと嫌いでいたいの」
「ッ…………ひどい女ヨッ…………。
あんたのKissを奪ったから。宝石はいらない。
辛くなったら。呼びな。
攫いに来る。
あんたほどの宝石はない。盗み出すよ。あんたが不幸なら」
「ないわ『絶対』。
私死ぬほど幸せなのッ…………。
影の奉仕って素晴らしいの。
こんな自由な結婚生活あるかしらって。
幸せ………なのよ。泣かないで?大丈夫」
そっとそっと。
フローリアはノ―ムのおでこにKissをした。
つい。『祈り』をのせてしまった。
「ノ―ム様。なんでここにいらしたの?」
「………………………精霊は気紛れなんだよ」
「………聞くのは無粋なのですね?」
フローリアがため息をつくとノ―ムは光り輝き出した。
「やべ。『時間』だな。
『依代』あるといいんだがな………?
なかなか『合う』のがいない」
「………………皆様によろしくお伝えください」
ノ―ムは寂しげに微笑むとぼやけながらもフローリアを抱きしめた。
「お前が『虹』にならないことを祈っている。
『精霊に愛されし愛の祈りの巫女』よ。
我等はいつも見守っている。
この土地は『土』の力が強い。
また逢おう」
土の精霊王ノ―ムは光り輝きながら霧散した。
森羅万象に還ったのだ。
フローリアはそっと目尻の涙を拭った。
その様子をナニかが岩の影から覗いていた。
その瞳は暗く黒く細まった後。
そして。
姿を消した。
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