第10話 魔獣 大蛇ミミズ
ズルズルズルズル………。
大穴から出てきたのは。
「サンサン山の主様ッ…………」
「お怒りだあッ…………」
「鉱山なんか掘ろうとするからッ…………」
「ッ…………観光が無理なら産業とッ…………」
「ああッ…………若奥様ッ…………」
「乙女が喰われるッ…………ッ…………ッ…………」
村民達の悲痛な叫び声を音楽にフローリアは冷静に大蛇に締め上げられながら、天高く月に照らされていた。
なかなかの景色である。
村民達が観客のようである。
『ボソッ………殺さないでくださいね。
「あ〜れ〜。誰か〜誰か助けて〜」』
フローリアは大蛇に巻き取られながら大声で悲鳴をあげた。
「ッ…………もう少し哀れな声を出せ」
「ワクワク感が抜けてませんね?」
失笑と呆れの声が木霊した。
「「〝竜の咆哮〟」」
黒と白の閃光と大きな竜が唸り声をあげながら、大蛇をひと凪にした。
フローリアはいつの間にかフランケルの腕の中だ。
『殺してませんよね?』
フローリアは潰れかけた大蛇を覗き込む。
「………開口一番は魔獣の心配ですか?」
「貴方。「闘える」じゃない?
何故今まで隠していたの?」
「………。能ある鷹は爪を隠すト申しますから」
フローリアは唸った。
やっぱりこの方は腹が見えない。
ここで悩んでも仕方がない。
フローリアはお腹に力を入れて声の限り叫んだ。
『台本通り』に
「ありがとうございます〜さすがわッ…………。
『ドラキュ―ル本家の皆様ですわ〜。
領民のことを第一にッ…………。
国王軍より早く駆けつけてくださるなんて〜』」
天地は割れた。
「フランケル様ッ…………御当主様ッ…………。
俺等は見捨てられていなかったッ…………いなかったあッ…………」
「ずっとッ…………ずっと………お待ちしてましたッ…………」
「フランケル様ッ…………ッ…………」
「フランケル様ッ…………」
沸きにわく。フランケルコ―ルが響き渡った。
なけなしで。当主コ―ルも。
「うわあ………。お義理父様の人望のなさ………」
「ちッ…………。
怪我はなさそうだな。そんだけ口が回るんだ」
「お陰様で。
この子が何故暴れたか。
原因と。この子の生態について。
皆様。
ドラキュ―ル家庭教師。フローリアが。
このミステリーをご説明致します」
早速フローリアは大蛇に治癒魔術をかけて撫でだした。
皆が唖然としている。
「何をするッ…………せっかく退治したのにッ…………」
ビグトリ―が怒鳴るがフローリアは手を振る。
鋭い翠の双眸はギラリと光り輝いた。
黙れの仕草と視線。
ぐッ…………。と当主は黙った。
『この子は『大蛇ミミズ』。
五穀豊穣の魔獣です。
ここまで大きくなる個体は珍しいの。
体長100メ―トル。
………………先生が喜びそうね。
分類はミミズなの。
お酒が好きなのだけど。『ゴミを食べて良い土』を作り。
この子の『尿』は清らかな川を作るの。
この土地がいつも不作にならないのはこの一族のおかげ。
討伐なんてッ…………とんでもないの』
フローリアは執事頭、国司、村長を並べ資料を見せた。
『作物だけでは将来が不安だったのね?
だから。『鉱山』の噂があったこの山を掘ろうとした。
目の付け所は確かに正しい。
だけどね。
鉱山にしたら最後。
掘って濁った水が麓を汚染するの。
そこの山の麓の川は枯れ果てるのよ。
美しい農村地帯は亡くなる。
川の魚もいなくなる。
両刃の剣なのよ。
だからこの子は暴れたの』
奥からヨボヨボの老人が出てきた。
「長老ッ…………」
「だからあれほど………。
山の主がお怒りになるとッ…………あれほど………」
村の皆が下を向く。
「だってよ………だってよ………」
「他の地域は新しい娯楽とかで活気づいたのに。
ここは変わらねえ………。
すたれなかっただけマシなのはわかるさ。
でもよ。でもよ………」
「〝竜人は面白いことが好き。変化がほしい〟」
フローリアは義理の父の肩を叩く。
『お義理父様?』
「ッ…………ッ…………皆のものスマン。
我が家の至らぬばかりに。いらぬ心配をッ…………。
共に考えようッ…………。
この地域の良さを活かした新しい産業をッ…………目玉をッ…………活気を作り上げてみせるさッ…………。
今。息子は戦地にいる。
必ず帰る。
その時までこの老いぼれに任せてくれないだろうか?」
ドラキュ―ル城主ビグトリ―が。
国王以外に頭を下げた歴史的瞬間であった。
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『産業ね。
案は1・2。あるにはありますのだけど?
そのためには。
この『大蛇ミミズ』くんに協力してもらうために。
お酒とゴミを沢山、貢ぐこと。
あと。
『痛み』と『癒やし』の躾を終えたから。
歌を歌えば言うことを聞いてくれる素直な子になったはずよ。』
フローリアが連連述べだしたから村民達は大注目だ。
「あの………………あなた様は?」
「あ。今ん所通りすがりの家庭教師でいいです。
時が来るまではモブCくらいで覚えてください。
フローリアです」
「随分影響力のあるモブダネ〜」
ノ―ムが笑って拍手した。
その赤い肌の大男がフローリアに気安く話し触れるさまを見て、ビグトリ―とフランケルが怪訝な顔をする。
「フローリア。その方は………?」
「あ。竜人族には馴染がありませんよね?
彼等は『精霊』。
森羅万象を創り出すもの。
何故か………『着いてきちゃった』みたいなんですの。
わたくしも予想外。
竜人国には『精霊』はいないと思っていましたから………」
「『土の精霊王 ノ―ム』だ」
ノ―ムが名乗りをあげる。
珍しく今回はご機嫌のようである。
「土の精霊王様ッ…………?!
あの?あの『巨人の暴君 ノ―ム』様?」
フランケルが青ざめ戦慄きだした。
「竜人族でも知ってる方がいましたね?ノ―ム様」
「『知っている』って大事だよな………。
俺等の具現化かは『信仰心』だからな。
妖精国だとある程度『本来の姿』になれるもんな?」
フローリアとノ―ムがこそこそ話し込むのを呆然と見つめるフランケルをビグトリ―が突いた。
「して。『精霊王 ノ―ム』とはどんな方だね。
『最高位の方』なのは覇気とオ―ラでわかるんだが」
「『土の精霊王』
『巨人の暴君 ノ―ム』様
「四大元素」である火、水、空気(風)、土のそれぞれを司るエレメンタル、つまり精霊として、火には「イフリート」、水には「ウンディーネ」、空気または風には「シルフ(シルフィード)」、土または大地には「グノーム(ノーム)」という「四大精霊」が存在する。と………。
妖精族は信じています。
実際恩恵があるのです。精霊は妖精族の土地が好きで根付いている。
このうち土の精霊グノーム。ノ―ム様は。
水の精霊王ウンディーネや空気と風の精霊王シルフが妖精族に好意を持ちやすい性質を持っているのに反して、グノームは火の精霊王イフリートとともにたいていは妖精に悪意を抱いているのだそうです。
ですが『選ばれしもの』が説き伏せればグノームをしもべとすることは可能で、精霊たちは心優しく誠実で純粋無垢な妖精を好むことから、グノームも契約や誓約を交わした相手ならば充分な知識と富みを与えてくれます。
グノームはヒトの心と思考を読むことができる能力を持っており、そのヒトの性質をすぐに見破ることから、良いヒトと認められればグノームを誓約相手として誘うことができるそうです。
その………契約者は………たしか。
『精霊の巫女』………………?
いや。
そんなはず………?」
フランケルはブツブツ呟き出した。
このヒトの『癖』らしくビグトリ―はため息を吐いた。
「ささ。大蛇ミミズくん。
君の巣の『最奥』に案内して?
そこには皆さんの欲しいものが2つ。あるはずですから。
行きますわよ!!!!」
ドラキュ―ル領地御一行は大穴へと入っていった。
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「これは………」
「見事なッ…………宝石群だッ…………ッ…………」
皆が驚いている。
「ノ―ム様は、これが目的だったのでしょう?
3・7でいかがです?」
「1・9でいいヨ。
あんたが暴れている婚家を見たら同情した。
あんたみたいなじゃじゃ馬を転がして、自由にできる家門はなかなかいない。
俺んとこだと。あんたの瞳の輝きが失われる。
だから本気では攫わなかったのを。思い出したよ。
惚れた弱みだネ?」
「またまた〜。村娘抱えながらだと信憑性薄いですよ」
ケラケラ笑っていると、ドラキュ―ルの男達は説明を求めてきた。
『大蛇ミミズは。本来。
『宝石』を産み出す魔獣なんです。
大人しく。ヒトを襲わない。
ゴミを食べさせたら良い土を。
いい農作物を与えたら『宝石』を生み出す。
だから乱獲されて絶滅しつつある。
これは………他の領地には秘密にしないと。
この子を乱獲させないプランを練りながらこの子を大事にしましょう。
たぶん。
昔のドラキュ―ルの当主はご存知で。
必要な時だけ協力してもらっていたのかも。
いつしか………忘れさられた。
鉱山の採掘は必要ありません。宝石採掘はこの子にお願いして。
村民達は農作物を貢ぐ。
それで『共存』出来ます。
新しい産業です」
ビグトリ―は珍しく感嘆の声を漏らした。
「今回は。認めざる負えんな」
「いつから気付いていたんだい」
フランケルが不思議そうに首を傾げる。
『ん?知り合いに『生物マニア』と『土マニア』がいますから。
後は。
この奥にも『お宝』があります』
フローリアは宝石には目もくれず奥に大蛇ミミズと共に進んだ。
そこは突然開けた山の反対側の出口だった。
湯気が立ち込め硫黄の匂いがする。
大きな大穴がいくつも地面に空いていて。そこかしこが湯気の出る泉が湧いているのだ。
「ッ…………『温泉』かッ…………ッ…………ッ…………」
ビグトリ―もフランケルも開いた口が塞がらない。
「この土地。北の大地の割に『温暖』と称されているのが不思議でしたの。
地底火山地帯で水が豊富。
そこに穴掘り名人がいたなら………………必然ですわ。
どうです。
新たな産業2つ。
これから忙しくなりますから。
国司さんも執事頭さんも、村長さんも。
罪滅ぼしはこれから馬車馬のように働いて頂くことでいかがです?
『御城主』。
科はそれでよろしいとは思いませんか?
『無限労働』。
皆嫌いでしょう?
そのかわり。豊かになり、賑やかになります」
「うむ。働けよ。
女房子供を泣かすな。
………………………今まで苦労かけた。
この地は妻との思い出が色濃くて。
愚かな儂は遠ざけたかった。
こことは『疎遠』としたかったのだ。
愚かだった………。
ルドルフは儂の心の傷を感じて『放任』してしまったんだ。
優しい倅に甘えた………。
あいつも戦地から帰るとよく直談判してきた。
ただな。儂に気を使ったんだろうな。
ここの援助を惜しまない旨を儂と取り付けて、多忙なあいつは………。
言葉足らずで悪かった………悪かった………」
「「「ありがとう………ございますッ…………」」」
男四人が肩を組み合いながら泣いている。
私みたいなよそ者は場違いだ。
「では。わたくし。ノ―ム様に謝礼を払ってきますわ」
フローリアは洞窟を後にした。
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