第9話 深夜の来訪者
宵も深まった深夜。
フローリアは微かな足音に目を覚ました。
隣で文献にある天使のような笑顔で寝ているハクアに『祈り』のキスをした。
『Kiss Of Life………私の息吹を貴女に』
彼女の身体が光り輝いたのを確認してから暗がりに目を凝らす。
室内に入ってきた数名の男はキョロキョロしている。
1………2………3………。
一先ずはこの人数ね。
「おい。ここが本当に子供部屋か?
美女の家庭教師もいると?
一緒に捕らえろッ…………愛妾だろう」
『あら………。
女子供を狙うなんて………。
正当防衛で『殺されても』文句言えませんわね?
村長?』
「は?」
彼が振り返る瞬間には他二人は蔦で締め上げて、窓から放おっておいた。
「馬鹿な………もと軍人の手練れだぞッ…………」
彼は青ざめる。
『ふむ。私を落とすには隊長クラスが必要でしたね?
ご案内しますわ。当主の執務室まで』
「おや。もう終わったのかい」
フランケル様が颯爽と入ってきたのを村長は見るとカタカタ震えだした。
「フランケル様?
聞いてないぞッ…………老いぼれと女子供だけだとッ…………」
『フランケル様………私はともかく。
ハクアちゃんがいますもの。いち早く来てほしかったですわ?』
「姫を狙う20名を『殺さず』はなかなか骨が折れますね」
『まあ。ハクアちゃんは姫ですけど………』
「………貴女のことですよ」
『?変なフランケル様。
では。いきましょうか?村長』
村長が死ぬか八つ裂きか釜茹でか。
決まる時が来た。
当主の寝室を道中覗くと10人ほど転がっていた。
ふむ。皆様生きている。
お義理父様腕をあげましたわね?
颯爽と執務室を開けると竜に咥えられた男が、震えながらも吠えていた。
「村長ッ…………お前までッ…………。
くそ。
人質がいなきゃ絶望だッ…………」
「ふんッ…………これ以上何を横領するきなのだ。ジェ―ムス」
ジェ―ムスと呼ばれた執事頭は泣きそうな顔をしながら叫んだ。
「何回も。何回も。嘆願書を送ったのに。
助けてくれなかったのは貴方様でしょうッ…………」
『本当です。
お義理父様。今回は。
貴方が全面的に悪うございます。
ささ。
ジェ―ムスさん。奥様も心配しておりました。
わたくしが。この老害をマシにはしてきましたから。
お話してください。
あんまり長引くと『あの方』は今度は『女』を所望しますわよ?』
「何故………?それを。
貴女を連れてくるようにと………」
『米が大量に必要なのは『酒』を作るため。
麦は『餌』になりそうだから。
そこに………女。
ああッ…………『最悪』のほうを引いてしまったか………。
最近『飽あく』溜まってるからな………。』
「わかるように申せ」
ビグトリ―がこめかみをピクつかせながらイライラしている。
『話は道中で。
私は少し身支度します。
捕らえた部下は一先ずは地下牢に。
大丈夫。誰も死なせないわ。
フランケル様を呼んで。
お義理父様。
ドラキュ―ルの男が総出で挑むのよ。
今回は貴方達が暴れてくださいませ。
『領地』の『魔獣』退治は領主のお仕事ですわよ?
村民も集めて。
皆で退治するの。『サンサン山の神様』を』
フローリアは手早く着替えをした。
そこにいた男共が面食らう。
「………………馬子にも衣装だな。何故着替える」
『私の予想が正しければ。
美しい女の『生贄』が必要だから。
ね?ジェ―ムスさん。村長さん。
貴方方は捧げられなかった。
苦肉の策で退治してもらいたくてお金も穀物も貢いだのでしょう?
あの悪魔に』
「………………そこまでッ…………」
「いないと申したのに。
『ドラキュ―ルの嫁を連れてこい』と何度もッ…………」
『それは。半年前ね?
それまでは酒と穀物で大丈夫だったのにね?』
「………はい」
『うん。勝機はある。
なんせここは。『美しい水が湧く山』がある』
「ッ…………ちっともわからん」
『もう少し『魔獣学』に精通も必要ですわよ?
さ。出陣よ。
『知恵比べ』の始まりよ』
フローリアは不敵に笑った。
[newpage]
「連れて参りました………」
サンサン山の頂上には祭壇が作られていた。
山にポッカリ大穴が開いていて。
そこから生暖かい空気が出たり入ったりしている。
そこには松明が何十個も灯されていて。
集められた村民達がブルブル震えている。
「お。やっと『女』連れてきたノカ?」
お面を被った大男は不敵に笑った。
「はいッ…………上等なッ…………女でございます。
歌も舞も踊れると。
さッ…………ご挨拶して」
小柄な女は『踊り子』の衣装を纏いしずしず前に出た。
「本格的ッ…………いいネ。
『祈祷』の前に皆で宴会ッ…………宴会ヨッ…………」
その後はどんちゃん騒ぎだ。
大男の膝に乗せられた女は酌をしている。
女は落ち着いていた。
村民達の空元気や哀れみの視線を浴びながらも。
その金色の絹糸のような髪を高めに一括りにしていて。
少女と淑女の狭間の危うい美しさを讃えている。
女の魔ザクロの慎ましい小さな唇は彩りはいらないほど艷やかで、ぷるぷるである。
大きな瞳はア―モンド型で少し猫目。
その際を赤い顔料が彩りを添えていて翠の瞳は意思の強い宇宙の煌めき。
その瞳が大男のしたり顔と絡んだ。
大人の男と女。
そこだけ別世界のような空気を漂わせていた。
『お久しぶりでございます。
いえ。『土の精霊王 ノ―ム様』』
「あれ。もう『茶番』はいいノ?
俺君の『旦那様』の領地運営見たくて来たんだヨ?
あいつらに会ったら「嫁にいっていませんが」って吐くからさ………。
ムカついて。
俺に何も言わないで『嫁ぐ』と言われて黙っていると?」
大男改め『土の精霊王 ノ―ム』はにこやかに仮面を外し私の頭を撫でている。
が。
うわあ………。
どちゃんこお怒りだあ………。
こんなに怒ったノ―ム様見たことないかも。
いや。あるか。
私が戦地で『昏睡』した時か。
『唖然』とした後私の相棒の男子生徒殴ってたって………。
見なくて良かったよ。
今のノ―ム様。怖い!
「元気だったカ」
怒っている割にはフローリアの頭を優しく優しく撫でた。
『婚家に大事にされてますわ。
ほら。ふてぶてしさに磨きがかかった』
「お前………独身主義言ってたジャン。
そうやって何十人の精霊袖にした。
イフリートなんかずっとずっと泣いてたぞ〜」
『………………』
「無理やりカ」
『ちがうよ。
私が望んだの。
あの方が………好きなの。ずっとなの』
「………半年もほっとかれてるのに?」
『………………便りはあるのよ。大事にされてるわ。
幸せなの』
「………領地も見てない男ダヨ」
「………彼は奥ゆかしいのよ。
遠慮しているの。
戦地が落ち着くまでは私達が守りたいの。
後日お礼改めてしますから。
『悪役』やってくれるからここでお酒を呑ませてくれたんでしょ?
『邪神様』に。
後は。
退治するだけ。『鎮める』が正しいけど。
ドラキュ―ル家嫁として。
今まで麓を守ってくださりありがとう………ございました。」
背中が見えるお辞儀をする。
妖精族の最も深いお辞儀である。
背骨を曝すお辞儀。最大級の礼である。
「………………………………」
ノ―ムは暗闇に目を凝らしだした。
「ナルホド。役者はいるネ゙。
あんたの旦那じゃないのが残念ダヨ」
『あの方は戦地を守ってるのよ。
領地を守るのは妻の役目。』
「………………『惚れた』のカイ」
『ッ…………ッ…………ええ。この上なく』
ノ―ムは悲しそうに笑った。
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「じゃあ!」
ノ―ムは立ち上がりお袈裟に空を舞いながらエンタ―テナーのように声を轟かせた。
「『生贄』の儀式始めるよ〜。
毎年やってネ゙。
俺はもう守らないからさ」
「そんなッ…………」
「一度きりとッ…………」
「可哀想にッ…………あんな美女を毎年もッ…………」
「終わりだあ………ここも。終わりだあ………」
「さ。
生贄。『歌って踊れ』」
ノ―ムはフローリアを大穴が開いた祭壇に置き。
そっと離れた。
フローリアは手元の鈴を鳴らしながら回転して声を紡ぎ出した。
『E lucevan le stelle ed olezzava la terra,
stridea l'uscio dell'orto,
e un passo sfiorava la rena,
entrava ella, fragrante,
mi cadea fra le braccia.
星は輝いていて、大地は豊かな香りがしていた
菜園のドアは(キーキーと)音を立て、
足が砂に軽く触れて
彼女がいい香りをさせて入ってくる
Oh! dolci baci, o languide carezze,
mentr'io fremente le belle forme disciogliea dai veli!
Svanì per sempre il sogno mio d'amore.
L'ora é fuggita,
e muoio disperato, e muoio disperato.
e non ho amato mai tanto la vita !
ああ、甘いキス、切ない愛撫
その間私は震えなが美しい姿をヴェールからとった
私の愛の夢は永遠に消え失せた
時は去り、
そして私は絶望して死ぬ、絶望して死ぬ。
私はいままでにこれほど命を恋しく思ったことがない!』
ズルズルズルズル………………。
大穴から生暖かい空気が出たり入ったり。
轟音を靡かせて。
『それ』は現れた。
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