第7話 『怠惰な城主』のせいではありませんこと?

 あの『詐欺を働く狐の悪事を裁き調教して新たな子飼にしました』騒動があってから。

義理の父は領土運営に関しても度々こちらに助言や精査を求めるようになった。

あのプライドの高い義理の父がである。

何か裏があると思うのはじゃじゃ馬の性である。

でもフランケル様曰く。


「叔父上ほど分かりやすい男はいないさ。

あれで心の底では君に『服従』しているし『敗北』している。

君が優しくて良かったよ。

あれ以上貶めていたらプライドズタズタで『廃竜人』だったろうね?

君は『調教』の加減が上手い。

叔父上らしさは損ねず。

奮起させ。

完全に心が折れるほどは、完膚なきまでには打ちのめさなかったのだから。


プライドの高さと自尊心が高い叔父上で良かったとも言えるね?

最近の叔父上は生き生きしだした。

………………ありがとう。

ハクアも雛のように君に懐いている」


そんなことを言われる始末である。

ふむ。

この方こそ真意はわからない。

この方こそ背後から撃たれる恐ろしさがある。

油断ならないヒト。

ただ。

好敵手ほど心躍るというものだ。


『国王の『影』と呼ばれている参謀フランケル文官様にそう言われると照れますわ………。

さすが。

策謀への機微に敏感でいらっしゃるわ。

やはり蛇の道は蛇ですわね?』


「………昔取った杵柄さ。昔警備局にいたからね?」


『まあッ…………御謙遜を。

まだまだ瞳の暗さから見て現役でしてよ?』


朗らかに妖しく笑ってみせた。


 「その『ブラックジョ―ク』をわざわざ儂の執務室でしなくても良いと思うのだがな?


嫁が従兄弟の闇を並び立てるなど………。

デリカシ―がないにも程があるぞ。」


義理の父はため息をついた。


「あら。いっそ笑い話にしたほうがよろしくてよ?

かの悪臣ルシフェルも。

一回は国王に楯突いたのに。

今や腹心の部下。

竜人族は悔い改めると意外と寛容なのですよ?」


「………………それでも心臓に悪い」


『慣れてくださいまし。

これが『世間』のドラキュ―ルなのですから。

それに執務室に来たのはそちらが呼びつけるからですわ?

それなのにただ美味しい紅茶を飲むだけなのですもの。

わたくし。午後には妖精国のブティックと商館に顔を出しますの。

暇ではありませんのよ?』


「あの件の報告が来るのを待っているところだ。

お前が『不備』を見つけた箇所と、現地の暮らしぶりの調査報告を国司が持ってくるのをな」


『本を正すと領地を『放ったらかし』にして現地の『執事頭』に一任していた『怠惰な城主』のせいではありませんこと?


ことがことですと。

また『謀反』の疑いあり。国王に疑われましてよ』


「………………領地の石高がおかしいくらいで何故謀反となる。


竜人は昔からそこはどんぶり勘定だ。

名家は特に………優遇………」


私が『覇気』を出したからだろう。

途端に義理の父の声は尻窄みになった。



『まだわかりませんの。

我が家は今や『名ばかりの名家』。

この何年かで国王から何も言われないうちに『明朗会計』にしませんと。

期限はせいぜい10年そこらよ。

自覚なさって。

今改善しないと本当にドラキュ―ル家は終わりなのよ。

国王が優しくて『保留』されているの。

あとはルドルフ様の尽力あってこそ。

そこにあぐらをかいては駄目なの。

だから舐められ侮られる。

あの方がいなくても再興させてみせますわッ…………。

真剣になってくださいまし。

いつまでルドルフ様の功績におんぶに抱っこしてますの?

腐っても辺境でも名門なことを示さないと………。実力でよ』


ここまで噛み砕かないとわかってもらえないことに、苛立ちを覚える。

名家の悪いところだ。

一回挫けたことを恥。

そのまま転げ落ちる。

一族郎党共々。

散りぎわ潔く。


クソ喰らえよ。

生き汚くとも足掻くのよ。

泥だらけになっても。


ノックの音がした。


「旦那様。サンサン地方の国司が参りました」


家令の声がする。


「通せ」


さて。どんな蛇が出ることか。


[newpage]

 『執事頭が………行方不明。

国司は………平謝り………。

これは。

これは………由由しき事態だわ。

思ってたよりもよ。

『祈りたくなって』きたわ………。

私の調べとは真逆なんだもの………。

ここまで白を切るのは。何かあるわ』


「どうする」


フローリアは眉間をもんだ。

フランケルがその様子を見て少し笑ってしまった。

ルドルフに似ていたから。

ただその後手をパチンと叩き空気を変える仕草は違うが。


『敵情視察が済んだら『戦地』に行くものよ。

この場合………………。

山。

石。

鉱石………。

魔獣………。

あのヒトを連想して嫌だわ………ッ…………。

行くしかないわ………』


「………………何か手はあるのか」


『あるにはあるわ。

なんで『石高』がないのかも。

領主不在の、か弱いものの発想を思えば簡単だけど。

あとは。

『祈る』わ。最悪の場合は。

私。

意外と貴方達のこと好きになってきたの。

大丈夫よ。私が守るわ』



「ふん。

女は下がるものだ。

ドラキュ―ルは男尊女卑などではないぞ。


一撃を『男』が受けるために女を下がらせるんだ。

騎士道にのっとってだな………」


『………………女を輿入れの日に横薙ぎにしようとしたヒトの言葉とは思えませんわ………』


「ばッ…………あれは。

フランケルを狙ってだなッ…………」


『あら。弱きを挫く………ますます陰湿ですわ………』


「掘り返すなッ…………ッ…………。

反省しとるわッ…………ッ…………ッ…………」


「叔父上を陰湿か………。

叔父上は偏屈だとは言われるのに。


ふふッ…………。君がルドルフに会ったらどんな毒を吐くんだろうね?

叔父上は陰湿。ルドルフはなんだろうか?」


「叔父上の愚行を止めなかった貴方も同罪ですのよ………?」


フローリアはため息をついた。

詐欺師は去ってもまだまだ問題は山積みである。



 「くしゅんッ…………」


「ルドルフ風邪かい?

休んだほうがいいよ?薬草師のやつらに頼むかい?」


レオナルドが書類を決済しながらルドルフを見やる。

屈強な種族の竜人族でも疲れが溜まれば体調は崩す。

軍の隊長が隊長不良は指揮に関わる。

ルドルフの影響力は計り知れないのだ。

友人としてではなく『副官』としての小言にルドルフは憮然と応えた。

ルドルフも責任感は強い。

根詰める質である。

この生真面目過ぎる愚直さがルドルフの良さでもあるのだが。


「………いや。奴等に頼るほうが具合を悪くする。

昔。ある少女に『治癒魔術』を施されてな………。

あの時はしばらく身体の調子が良かった。

あれを知ってしまうと………。他の治癒など『無意味』なのではと思うほどだった。



仮眠にするさ………」


ルドルフは眉を揉む。

彼の疲れている時の癖だ。


「へえッ…………?『治癒』持ち?

妖精族でも希少だよな?

奴等自分に治癒をかけることはあっても。ヒトを治すのは戦地でも見たことない。 


是非とも戦地に欲しい能力だなあ………」


「ふッ…………。

「治癒」持ちなら引く手数多だろう。

どこかの金持ちに娶られているんじゃないか?」


ルドルフはふらふら仮眠室に移動した。







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