第6話 拝啓 愛しの旦那様

 「ルドルフ。君の『奥方』から便りだよ。

筆まめな方だね?まだ婚礼して一週間だ。

妖精族の男爵家のお嬢さんだっけ?

『泣き言』かな?

妖精族にはあの地は過酷だろ?

果樹園も花も少ない。

あの種族の言う所の『精霊の加護』が少ない痩せた土地なんだろ?

妖精国より魔獣が多いしさ?

まあ………。この『荒野』の魔獣よりは幾分マシだが」


水色の長い髪を引っ詰めた美男子がルドルフに便りを渡しながら長々と話し込み出した。

ルドルフ軍副官の『レオナルド・アジュダント』はその涼しげな細目をより細くしながら、ルドルフに語りかけた。

ルドルフが『政略結婚』したと聞いた時は軍の皆が驚いたものだ。

あの『冷血伯爵』のルドルフだ。

強さを重んじる竜人族でもここまでの仏頂面で、顔には深い傷は猛々しく。

社交嫌いで貴族間の付き合いは皆無。

戦地で魔獣の血を浴びながらも眉一つ動かさない『冷血漢』。

部下の死にも動じない。

戦地の恐ろしいほどの異名が『独り歩き』しているのを永年『放置』した結果の『晩婚』であった。


「俺の不本意な『政略結婚』だ。

これを受けないなら強制的に『姫君』との結婚を進めて『婿』で妖精国に送ると『脅された』。

何故かあちらの国王が俺を気に入っているらしくな?

心当たりなどないのだ。

俺を見て震え上がってばかりだった。

確か………。

俺を見ても怖がらなかった『変わり者の少女』以外は………。

あの種族は俺等竜人を『妖精食い』だの絵本や童話に書いているからな?

恐れも………しかたないが」


「俺等も妖精族の女は『娼婦』扱いだしね?

魔術で男を誘惑し、性に奔放らしいじゃないか?


竜人の『味』でもつまみ食いしたいのかな?

君のお父様大丈夫?

お母様を失って『傷心』だ。

『籠絡』されているかもよ?」


「はッ…………。

父は母と出逢うまでは『色男』だったからな?

だがどうだろうか?

妖精族など毛色の違うのを好むか………は?」


ルドルフは便りを開き固まった。

そして目を抑えて笑い出した。

その様子の『異常さ』にレオナルドと軍の下官達はギョッとした。

ルドルフが『笑う』。

酒の席くらいしか見たことのない事象だ。


「だ、大丈夫………か?」


レオナルドが青ざめている中、ルドルフは便りをレオナルドに渡しながら立ち上がり、今度は口元を抑えだした。

その顔は『面白い』と語っていた。


『拝啓。愛しの旦那様。


戦地で体調を崩されてはいませんか?

竜人族は治癒者が不足していると聞きます。


わたくしフローリアは晴れて『ドラキュ―ル城の〝竜〟』を『躾』ている最中です。

御酒を抜くところから始めておりますの。


旦那様の『第一条件』クリアですわ。

貴方様が苦手なか弱いお姫様ではなくてよ?


妹君のハクア様も健やかに麗しく。

わたくしが『教育』しようと思っています。

フランケル様も優しくしていただいています。


幸せにやっております。

貴方様の妻は立派に領地をドラキュ―ル家を繁栄させてみせますわ。


武勲をお祈りしています。 敬具。


貴方様の妻 フローリア・ドラキュ―ル』


「え………?

『ドラキュ―ル城の〝竜〟』を『躾』?

へ………?

本当に「籠絡」したのかな?

うわあ………………。ビグトリ―おじさま。

うわあ………」


「くくッ…………。

強かな嫁か………。

軍人の妻らしいな?気に入ったッ…………」


「これさ?

『宣戦布告』かなあ?

『貴方様がいない間にドラキュ―ル家籠絡しときます』みたいな?」


「宣戦布告か………。

さながら。

「先んじて戦地に処りて、敵を待つものは佚す」だな」



「 「先に戦場に到着して、じっくりと敵の到着するのを待ち受ける軍隊は、対戦前に準備ができるから、戦闘が有利となる」か。


君がサンサン地方に帰る頃には彼女は、

『じっくりと敵の到着するのを待ち受ける軍隊』を創り上げている。

ってこと?」


「あぁッ…………。

なかなかの『好敵手』になるだろうな?

お手並み拝見だな?」


ルドルフの隻眼が鋭く煌めいた。


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