第2話 拝啓 我が妻よ

〝拝啓。我が妻よ。


突然の『政略結婚』。

当方は『友好の証』として受け入れた。


だが何分私は戦地にいる。

条件にあると思うが『主のいない領地を収める剛胆と知力、魔獣退治も出来る武力』が無いようなら。

そなたの『女城主』生活は困難であろう。

早めの離縁の申し立ては受け入れよう。

いつでも便りを寄越してくれ。


そなたの夫。ルドルフ・ドラキュ―ル。


追伸。

我が城には酒が好きな『竜』がいる。

その討伐か懐柔が最初の試練だろう。


検討を祈る。     敬具〟



フローリアは歓びに打ち震えながらその手紙をそっとそっと胸に抱いた。

その様子をドラキュ―ル家から来た執事頭の『セバス』が不思議そうに見つめている。


「若奥様。一つ『諸注意』がございます」


執事頭のセバスの仰々しい言葉にフローリアはやっと面を上げた。


「なんですの?セバスさん」


「………セバスと。使用人に敬称は不要です。若奥様」


「………………なあに。セバス」


セバスは神経質そうに額の髪を後ろに撫でつけた。


「武人の男爵家の令嬢ですから。フローリア様は『多少は』武人の家が何たるか。

何に重きを置くかは理解されているとは思いますが。

念の為。『ドラキュ―ル家』の掟をお教えします」


「………………なあに?」


フローリアは微笑みながら小首をかしげる。


「〝強き竜に逆らうな〟です。

我が城には酒が大好きな〝竜〟がいます。

あの方を鎮められるのは旦那様のみ。


その〝竜〟の如何なる行動も『否定』も『咎め』もなりませんッ…………。

よく。よく。心に止めてくださいませ」


セバスはため息交じりに『忠告』した。

彼にはわかったのだ。

本能だ。

この目の前の乙女は『勝ち気』な『じゃじゃ馬』であると。

妖精国の国民らしい美しい金髪を櫛で結い上げ、金色の鈴蘭があしらわれた髪飾りを付けていた。

装飾品らしいものはそのくらいの『簡素』な装いである。

婚礼の白い花のようなドレスを身に纏う儚げな乙女に見える。

一見は。

ただこの花嫁の翠の双眸は意志の強い光を放ち、セバスを射抜いているのだ。


「その〝竜〟ですけど。

旦那様のお身内かしら………?

何分家族構成は一切開示されませんでしたの。

勉強不足で申し訳ありません」


「旦那様の『お父様』でございます」


「他にご家族は?」


「妹ぎみが。名をハクア様と申します。

あとは近隣にすむ従兄弟のフランケル様がいらっしゃいます。

王国の役人をしております。文官です。

竜人には珍しい。

知力に長けた方でございます。


旦那様は武力も知力もどちらもございますが」


「ふふ………。ありがとうセバス。

お父様ね。

わたくしは娘になりますもの。

多少の無礼講くらい。赦してくださるわよね?」


「若奥様ッ…………?」


「旦那さまからの最初のミッションよ。

妻として受けて立ちますわ。

竜人は「強さこそ全て」。

その理念が正しければ………。

はあッ…………。心躍りますわッ…………」


フローリアは妖艶に微笑んだ。

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