第5話 民主主義ヘルメット
終わらない金曜日が始まって数千年経ったが、思い出してみるとまるで色々あった1日のような感覚だ。
次元上昇の議論には終わりはなかった。なぜなら俺たちが明日に行けないということが、不正解の回答だったからだ。
終わりのない議論に疲れ、たまに我が出てきて自問に捕えられてしまう。
「こんなことになっているのにまだスイッチを押しているヤツがいるのか?」
この考えは当時はタブーだった。
というより、考えても意味が無いことだからだ。問題なのは明日を拒むものじゃなくて、拒まれる明日の方だ。
だから我々はそんな明日を変えるように議論している。誰もが望む明日を迎えれるように。
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人類が終わらない金曜日を迎えて数万年後、たくさんの思想が爆発的に誕生・進化した。
今思うと、過去の思想がいかに誰かにとっての都合の良いものだったのだと、骨身に染みる。
今は全員が納得できるような、誰も置いて行かない、そんな明日をみんなが考えて実現するためにどうすればいいのかを模索している。
誰からともなく、今日を 真民主主義の日 と命名した。
俺たちはその理想が完成したら、全てを捨ててそれを大切に守っていこうと本気で思っていた。
真民主主義の日 以降にある過激集団がある試みを発表した。
『本当に我々の心が一つになれるなら、全てを曝け出すべだ。この超高速相思共有システムを利用すれば、まだ理想に懐疑的な人間を割り出すことができる。』
要約すると、ランダムに選ばれた二人の人間を民主主義ヘルメットで繋いで、二つの脳波が完全にシンクロした時、この二人は一日戻るスイッチを押していないことが分かる。という仕組みだ。
久しぶりの手応えのありそうな試みに興味がでた俺はすぐにエントリーしてみる。
その頃はどこかの誰かがループすると X というサイトにアクセスし、それぞれ担当している文字を打ち込んだ瞬間、文明が数万年進化する。
民主主義ヘルメットも、俺のスマホの充電器差し込み口から、ブニュっと出てきた。
黄色の樹脂でできた、頭の形に合うかぶるピラミッドのような形だ。
もちろんワイヤレス。
意外と重そうだなと頭に乗せるとケニアの48歳女性と繋がった。あとは心と心で会話をしてみる。
試しに、
「俺の顔面は包丁でピースマークの傷をつけているんだぜ。」
と言ってみると、笑っていた。今日は昼ごはんにカニを食べるらしい。
通信は1時間ほどで強制的に終わった。あとはデータがあるから必要ないらしい。もうやらなくていいよ。と説明があると、こんな簡単でいいんだ、って拍子抜けだった。もっと早くやれよと。
民主主義ヘルメットの実験結果は完全にオープンにされ、問題があった人たちには納得がいくまで話し合いが設けられた。
そして、ひとつづつ長い時間をかけて、スイッチを押す可能性のありそうな人が明日を待ち望むようになった。
やっと終わるんだ。
あと少しで新しい明日が来る。そう思うと俺は、再開していた包丁で顔面にピースマークを彫る癖を辞め、夜は早めに寝ることにした。
そうしてまた数万年が経った。
続く
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