第3話 知らないキノコはまず食べてみよう

 全人類がスイッチを手に入れて数百年が経って、あいも変わらず俺たちはループし続けている。


 この頃は命の価値がどんどん低くなっていって、犯罪が横行していた。人々は捨て鉢の自暴自棄になっており、復讐の連鎖がどんどん巨大化していった。



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 この頃の記憶はかなり曖昧だ。

 金曜日が終わらなくなり数百年が経った。

人類は増えも減りもせず、老いもしない。ただ脳に情報が蓄積され続け、みんな不思議と老けて見えた。


 技術の革新が始まった時は、ゴールが見えた気がした。

全ての人がどこか浮かれており、強力な武器を手に入れて次に進めるんだと信じていた空気があった。

 だが金曜日は終わらなかった。

数百年の間に諦めが広がり、自暴自棄になった人々が残虐の限りを尽くし始めた。

 銃乱射があちこちで起こったし、宗教や人種の違いを皮切りに世界中で殺人、リンチ、レイプ、そして次の日には昨日の被害者が加害者になり復讐に狂う。


 そのころの俺はみんなと同じで、ただ欲望や快楽に酔っていたし、全ての経験をしてみたいと必死だった。

 本物の銃でサバゲーをして、敵チームを全滅させた丘の上で敵の生首を持ってみんなで記念撮影をした。

 写真は無いが記憶ではみんな、切り取った生首までもが屈託のないいい笑顔だった。



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 俺の中で知的好奇心だけが暴走していた。全てのことを体験してみたい。


ジャンボジェットが海に落ちたら乗客は助かるのか?

人間は丸腰でサメに勝てるのか?

自由落下するエレベーターが地面と衝突する瞬間にジャンプしたら衝撃は?


 人類はある意味全員バカになっていたし、死なないと思うと今まで自分を縛っていた恐怖や常識が無くなり、想像力が泉のように溢れた。欲望のまま行動していた衝動がおさまった後、俺の知的好奇心は止まらなくなった。


 天才達ももれなくだった。


技術はどんどん人の脳に蓄積され、毎日のように核爆弾が降るようになった。

 最初は落とすと勧告があったが、すぐになんの予告もなくあらゆるものが打ち上げられては地面に降り注いだ。

 アメリカの大統領がテレビのリモコンを押すかのように、核ミサイルの発射ボタンを連打し、太平洋は昼夜ミサイルが飛び交っていた。

 ループする瞬間だけ世界は形を保っており、5分後にはだいたい死んでいる。


 元々あった兵器はあらかた研究され尽くされ、どんどん新しい大量破壊兵器が開発された。ネックである24時間以内に作らなければ消えてしまうという点は、逆に技術の進歩を加速させた。

 今では0:00になると同時に数千人が一斉にプログラムを作り、最新の3Dプリンターからさらに高性能な3Dプリンターが同時に作られ、詳しいことは分からないが、一分の無駄のない動きの連続で、5分で核爆弾を作れるようになった。

 100m走の世界記録は数百年経っても全然更新されないが、兵器生産の最短記録はいくつかのスランプを越えて、更新され続けた。


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 たまに一発も兵器が降ってこない日が続いた。

 その頃の俺はというと、よく山に行った。

あらゆるキノコを探し、生で食べて形と味と毒(効果)を覚えようという奇行がマイブームだった。

 元々人嫌いというのもあり、一人になれる場所を探していたのかもしれないが、その時はいくら食べても、幻覚ばっかり見てキノコは覚えられなかった。

 俺と同じようなやつがいたのかもしれない。

だんだんと山の中で人と会うようになった。みんな目に恐怖はなく、街で会うやつらとはどこか違って感じた。

 決定的に違うのは、人間が二人、お互いが出会っても誰も死ななかったことだ。



続く

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