第7話 ああ言えばこう言う

「そうですかと言って引き下がるなんてできません」

「それなら恥を忍んで君には言おう。僕は今まで多くの女性と密な関係を持ってきたが、はらんだ女は誰もいない。どうやら僕には生殖能力はないらしい」

「それなら妊娠させることができると証明されたと言えるんじゃないですか?」

「よく言うね、君も」


 未成年だが大の大人に食いついてきて離れない。

 まるで狩猟のターゲットにでもされた気分だ。


 笠井がそうして腕を組み、唸り声だけあげていると、旭のすべらかな頬に涙が筋を作って流れた。途端に笠井は尻を浮かせて驚いた。

 こちらも相当の冷血漢だと思っていたのに、姉の不運に涙する情があったのか。


 「ちょっと待ってくれ。これじゃあ本当に僕が腹の子の父親みたいじゃないか」


 笠井は悲鳴のように言ってなだめた。

 涙した旭は洟をぐずらせ、すんと吸い、涙の筋を手の甲で払うと、また泣いた。

 言葉はなかった。

 だが、全身から抗議の念が青白い炎となって燃え盛るかのようだった。


「わかった。わかったから。これ見よがしに泣くのはよしなさい」


 笠井は自分の薄っぺらい胸の前で両手を広げて言い聞かせたが、旭の涙は止まらない。

 旭は笠井の着物の中から出されたハンカチを受け取り、顔を拭く。


「少し考えさせてくれ。いきなりあなたが父親ですなんて言われても、はい、そうですかなんてこっちも言えない。互いに人生がかかっているんだからね」

「わかりました」

 

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