第21話 事情聴取

 日が落ちてからの聴取は、あっけないほど早かった。

 警察の方で問い詰められた被害者は別の宿の逗留客だが、例のジビエの解体ショーで顔を合わせた客にすぎない。

 それも警官に指摘をされる前までは、まったく記憶になかったような顔だった。


 喉笛をかき切るような残虐な殺しをするだけの関係も理由もない。


 そもそも成人未満の少年を殺人事件の容疑者として連行するには無理がある。それは警察の方でも半ば承知の上での事情聴取のようだった。

 手ぶらで署には帰れない。

 そんな体裁を感じさせる空気に思えた。


「それじゃあ、旭君は無罪放免でよろしいですね?」


 笠井が口をはさむ必要すらなかったぐらいだ。警察の方でもこれ以上の拘束は笠井に人権侵害だと書きたてられかねない危険性の方を重視しようとするらしい。

 鉄格子のはまったひとつだけの窓から月夜の光が差し込んで、四角四面の白い部屋に机や椅子の脚の長い影を落としていた。


「さあ、帰ろう」


 笠井は旭を促した。

 旭と名前で呼んだのは、姉の泉と混乱するのを避けるためだが、名前を呼んだそれだけで、彼との距離が近くなった気になった。

 素直に立ち上がった旭は警察官に一礼した。

 そんな旭の背中に手を添える。

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