第19話 犯行説
「となると、佐々木旭の犯行説が強まるな」
メモ帳を閉じた警官がひとりごちる。途端に笠井が声をあげた。
「そんな残虐な殺人を犯した直後の
「佐々木旭はマタギで血には慣れている」
「獣と人をごっちゃにするのはいくら何でも強引です。それにまだ、あんな子供が大人の男の喉元をかっさばくなんて」
いつのまにか笠井は旭を必死に擁護し、警官をなだめていた。
だが、鹿を粛々と解体した旭の冷静沈着な面持ちが脳裏をよぎる。しかし、鹿と人とを混同するのは飛躍しすぎだと、自分を落ち着かせた。
「とりあえず、佐々木旭を事情聴取するため、署に連行する」
「そんな。ちょっと待ってください。でしたら僕も同行します。未成年の事情聴取には保護者の付き添いが必要でしょう」
自分でもなぜこんなにムキになっているのか判別しかねたが、今は旭のためにできることはしようという考えが笠井の頭を占めていた。
「先生、そんな。付添人には私がなります。先生にお手間を取らせてしまうだなんて」
姉の泉がずいと前に進み出る。
それを制して笠井は言う。
「女性はどうしたってナメられる。僕がその時間帯に一緒にいたことも事実なんだ。ここはひとつ、僕に任せてくれないか。悪いようにはしないから」
「先生」
泉がいかにも感じ入ったような吐息をもらし、大きな双眸に涙を溜めていた。
しかし、大口をたたいたものの、殺人の容疑をかけられた少年の擁護など簡単ではない。売り言葉に買う言葉で、またしてもこんな事態になっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます