第16話 耽美小説
「やあ、ありがとう。すまないね。せっかく用意してもらったけれど、もう宿に入るから」
「そうですか? お寒いでしょうに」
彼女は自分の気遣いを袖にされた落胆を露わにして言い募る。
「いいんだ。いいんだ」
編集者達が見ている前で紬の長着にドテラを羽織る姿など見せてたまるかというプライドが極寒の外気に勝っていた。
「解体はこれで終了です。あとは毛皮を乾かして、草履にしたり衣服にしたりしますけど」
「いやあ、なかなか興味深かったよ」
「今夜の夕食が楽しみだ」
編集者達がぞろぞろ玄関に向かうと、笠井も後を追いかけた。
あの少年の刀さばきを見逃したことに
あの白魚のように滑らかな手が血に染まるのを見たかったという衝動は、しばらく笠井を悩ませた。今度の小説には美しい少年が血に染まる様を書いてみてもいいかもしれない。いわゆる耽美小説だ。
「お疲れ様。今日も無事で良かったわ」
背後で女中の声がした。
誰に向けての労いなのかと振り向くと、血にまみれたナイフや斧をバケツの湯で洗う彼だった。二人が並んで立ってみると、そこはかとなく面差しが似ている。
「君達、兄弟か何かかね?」
「はい。私は佐々木泉と申します。弟は旭です」
さりげなく名前をアピールしてきた泉に対して腹の中ではお前の名前は聞いていないと、笠井は毒づく。
しかし、世話焼きの姉に対して無愛想な弟の方に意識を持っていかれてしまう。
それもまた病のうちだ。
「
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