第15話 解体ショー

 裏口から階段で上がろうとして、ふと庭先の喧騒が気になった。

 おお、とも、うわっともつかない男達の歓声だ。

 興味を惹かれた笠井は外套もまとわず、肩をすくめて庭を見る。


 ゴザの上で仰向きに置かれた鹿にナタをふるい、首や胸肉、腹部から取り出した内臓、臀部、腿肉と、ひとさばきで解体するのはくだんの少年だ。

 編集者たちはそれぞれ上着を羽織り、それでも寒くて腕組みしながら関心したように彼に言う。


「見事な手さばきだね」

「慣れですよ」

「もう、どのぐらいマタギをやってるの? まだ若そうだけど」

「尋常小学校を出てからですので十歳からです。キャリアは八年です。両親はいませんが祖父がマタギだったので、僕が後を継いだんです」

「そうか。女中の彼女は身内はマタギをしている弟だけだって言ってたけど、君なんだ」

「おや、先生」


 遠目に眺めていた笠井は見咎められて苦笑する。

 だが、それを好機にして、笠井は輪に入る。


「ずいぶん長い散歩でしたね」

「いや、ちょっとね」

「いいんですよ。こうして帰ってきて下さったのなら万々歳だ。このままどこかに出奔されてしまうよりは、ですけどね」

「どうも、それは」


 口の中で返事にならない返事をもごもご言いつつ、視線は解体された鹿ではなく、解体している彼に向けられる。


「宿泊客向けの、ちょっとした解体ショーみたいらしいですよ」


 だから初対面のあの彼らしくなく、うってかわって口数も多いのか。


「間近でみると迫力ありますね」

「今夜はジビエのステーキか。楽しみだな。先生は?」

「僕はジビエは苦手でね」

「ものが新鮮だと違ってきますよ」


 そうこうするうち、正面の玄関から女中の彼女が半纏はんてんを抱えて駆けてくる。獣の皮で防寒した藁草履わらぞうりだけでなく、つむぎ長着ながぎにドテラを着せかけようというのだろう。

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