子供のために自分の毛布をかける母親

春風秋雄

1週間の予定の出張が延長になった

予定通り、取引先はすべて回り、1週間の出張は滞りなく終了した。やっと東京へ帰れる。しかし、夏の札幌は過ごしやすかったが、これから暑い東京へ戻るのかと思うと、少し気が重い。俺は出張業務終了の連絡を部長に入れた。

「篠原君、ご苦労様だったね。それで悪いんだけど、もう1件行ってもらいたいところが出来たんだよ」

「もう1件ですか?」

「新規の営業だから、成約できれば篠原君の成績になるから」

せっかく帰れると思っているところにもう1件と言われてガックリきていたが、新規の営業であれば話は別だ。

「それで、どこへ行けばいいのですか?」

「それがねえ、行ってもらうのは3日後なんだ」

「3日後?」

「先方の担当者はうちのホームページを見て乗り気なんだが、社長の決済が必要と言うことで、その社長が今海外に出張しているらしく、3日後でないと出社しないということなんだ。3日後に他の営業マンに行ってもらおうかとも思ったけど、交通費を考えると篠原君に3日間滞在してもらった方が経済的だし、何しろ新規の営業だから篠原君に任せたいと思ってね」

それとなく俺を持ち上げているが、経費的な問題が一番だろう。なるほど、他の営業マンが来るとすれば往復の交通費はかなりのものになる。俺が泊っているホテルは1泊7,000円なので、3泊してもその4分の1程度だ。

「海外へ行かれているのであれば、日本に戻るときは成田空港ではないのですか?成田からうちの会社まで来てもらった方が良いのではないですか?」

「ところが、新千歳空港の国際線らしいんだ。それに担当者はまだ社長に話をしていないそうで、戻ってからちゃんと話すので、営業に来るのはそれからにしてほしいということなんだ」

「ということは、3日間待ったあげく、結局社長の一声でこの話はなくなるという可能性もあるということですか?」

「まあ、そういう可能性もゼロではないね」

「それで、僕は3日間、ここで何をしていれば良いのですか?」

「3日間は特に仕事はないから、観光でもしていていいよ。食事代程度なら領収書を落とすから」


俺の名前は篠原幸樹(こうき)。35歳の独身だ。法人向けのクラウドストレージの営業をしている。東京に本社を置き、支店は大阪にあるだけなので、東日本はすべて本社のテリトリーだ。ペーパーレス、情報共有の時代にあって、クラウドストレージのニーズは高いが、大手に押されて、うちの会社は中堅どころといったところだ。収益のほとんどは顧客が支払う月額利用料だ。だから既存客が大手に乗り換えないように、定期的にフォローしておく必要がある。今回は札幌の顧客十数社のフォローと、バージョンアップの営業で来ていた。

急遽出張が延長になり、今朝まで泊まっていたホテルに連絡すると、部屋は空いているということだったので、あと3泊の予約を入れた。ホテルに向かい、チェックインの手続きをして荷物を部屋に入れてから、夕食を食べるため外に出た。


翌日はほとんどホテルで過ごした。夕方になり今晩は何を食べようかと外に出た。このあたりの食べ物屋はひと通り回ったので、どこか新しい店を見つけようと、ブラブラと歩いていると、コインパーキングの前で年配の女性が大きな買い物袋を2つ横に置いて電信柱に寄りかかるようにしてうずくまっている。道行く人はチラッと見るだけで、誰も立ち止まろうとしない。俺は気になり、女性のそばに寄った。

「大丈夫ですか?気分でも悪いのですか?」

「ああ、大丈夫です。少しめまいがしただけですので、ちょっと休めば大丈夫ですから」

「家は遠いのですか?」

「車で来ていて、今から帰るところです」

女性はそう言って、コインパーキングの方を見た。

「その状態で車の運転は危ないですよ。タクシーをつかまえましょうか?」

「でも、車で帰らないと困るので」

女性の年齢は俺のお袋と同じくらいだろうか。

「じゃあ、僕が運転して送って行きますよ」

「そしたら、あなたが帰りに困るじゃないですか」

「大丈夫です。出張で来ていますので、帰りのタクシー代は経費で落ちますから」

俺は荷物を持って、女性を抱きかかえるようにして駐車場の中に入った。荷物はかなり重たい。女性を助手席に座らせ、車に荷物を積んでから、駐車場の清算をして領収書を発行した。女性に聞くとカーナビに自宅が登録されているというので、ナビの案内で運転することにした。

20分程度で家に着いた。古いが立派な一軒家だった。女性に手を貸し玄関に入ると、奥から若い女性が

「お母さん、どうしたの?遅いから心配していたのよ」

と言いながら出てきた。

そして女性は、俺の顔を見て「何?この人?」という顔をした。

お母さんと呼ばれた女性が事情を話している間、俺は車から荷物を家に運んだ。

「すみません、僕はタクシーで帰りますので、申し訳ないですが、タクシーを呼んでもらえませんか?」

それを聞いて、娘さんと思われる女性が慌てて言った。

「母を助けて頂きありがとうございました。タクシーは呼びますけど、もうお食事は済まされました?良かったら、ありあわせですけど、食べていかれませんか?」

「いや、そこまでして頂かなくても大丈夫です」

「じゃあ、駐車場代も出してもらったようですし、これからタクシーに乗られるのでしたら、せめてタクシー代をお渡しします」

そう言って財布を出そうとしたので、俺はそれを断った。

「それでは私たちの気がすみません。でしたら、明日の夕飯を御馳走させて下さい。どちらのホテルにお泊りなのですか?明日の夕方お迎えにあがります」

俺は一瞬、明日はもういないと嘘をつこうかとも思ったが、あまりにも熱心に言ってくれるので、好意を受けることにした。連絡先を交換してタクシーを呼んでもらった。

女性の名前は阿部麻美さんと言った。30歳前後だと思われるが、とても綺麗な女性だった。俺が好意を受けることにしたのは、麻美さんとまた会いたいと思ったからかもしれない。


翌日の夕方、麻美さんがホテルの前まで車で迎えにきてくれた。

家に上がると、すごい御馳走が用意されていた。

特に毛ガニ、ホタテ焼き、そしてザンギという鶏のから揚げは、北海道ならではの御馳走で、俺は堪能した。

阿部さんのお宅は、母子二人で住んでいるそうだ。お母さんの千恵美さんは麻美さんが中学生の時に離婚して、それ以来ずっと母子二人で暮らしているということだ。麻美さんは現在31歳で、郵便局で働いていて、千恵美さんは2年前に公務員を定年退職したということだ。

「麻美もはやく結婚すればよかったのに、この年になったらなかなかもらい手がいなくてね」

千恵美さんがぼやくように言った。

「麻美さんは綺麗だし、これからでも十分チャンスはありますよ」

「私は、結婚はいいの。生涯独身でいるから」

「結婚願望はないのですか?」

「若い頃はあったけど、今となってはね。それにお母さんひとりにするのは心配だし」

「私なんか、ひとりでも何とかやっていけるって言っているんだけどね」

それから俺の話になり、まだ独身であることや、仕事の内容、そして出張が延びた話などをした。

「明日もやることないなら、夕飯はうちで食べればいいじゃない」

千恵美さんがそう言うと、麻美さんもそうしなさいと言ってきた。

俺は迷ったが、この二人といるのが楽しかったので、提案してみた。

「じゃあ、食材は僕が買ってくるので、明日はジンギスカンにしませんか?食べたかったのですが、一人でジンギスカンを食べに行くのは行きづらくて行ってないんですよ」

「だったら、買い物は私が付き合います」

麻美さんがそう言って、明日も阿部さんのお宅で食べることが決まった。


翌日、麻美さんは仕事が終わると俺のホテルまで迎えに来てくれた。そして肉に特化したスーパーに行って、一緒に買い物をして阿部家へ行った。

家に上がると、縁側のある部屋にジンギスカン鍋が用意されていた。

「ジンギスカン鍋って、各家庭にあるんですね」

「そんなことはないわよ。部屋でやると匂いが付くから家ではやらないって人も多いしね。うちは私が結婚した時に中古で買った古い家なので平気でやっているけどね」

と言って千恵美さんが説明してくれた。

東京でもジンギスカンは食べたことがあったが、スーパーで買った肉なのに、こっちの方が美味しかった。俺はさんざん食べて飲んだ。

俺に付き合いお酒を飲んでいた千恵美さんは、酔っぱらったと言って、自室に行ってしまった。

麻美さんと二人きりになって、麻美さんが聞いてきた。

「東京って、楽しい?」

「まあ、それなりにね」

「私、東京へは1回しか行ったことないの。今度遊びに行こうかな」

「是非来てください。案内しますよ」

「どういうところへ連れて行ってくれるの?」

「そうだなあ、浅草だろ、皇居だろ、東京タワーだろ・・・」

「それじゃあ、はとバスツアーじゃない」

「どういうところへ行きたいですか?」

「上野動物園でパンダ見て、東京ディズニーランドに行って・・・」

「それじゃあ、修学旅行じゃない」

「私が東京へ行ったら、本当に案内してくれる?」

「いいよ。なんなら、今回の出張の帰りに、一緒について来る?」

麻美さんは、ジッと俺の顔を見て何も言わなかった。


新規の商談はうまくいった。担当者が社長さんを熱心に説得してくれていたようで、俺は具体的な説明をするだけで、すんなりと契約に結び付いた。

相手先企業を出たときは、5時を過ぎていた。一旦ホテルに戻って部長に報告した後、スマホを確認すると麻美さんからLINEが入っていた。もしよかったら、食事を一緒にしないかという誘いだった。札幌最後の夜なので、俺から誘ってみようかと思っていたところだったので、すぐに返事をした。

麻美さんは、今日はお酒を飲みたいと言って、家からタクシーで来た。俺たちはシティーホテルのレストランに入った。

「営業うまくいって良かったですね。おめでとうございます」

「ありがとう。札幌に来て、本当に良かったです。営業の成果もそうですが、阿部さん親子に出会えたのが、一番の成果です」

「私も、母と毎日同じ生活の繰り返しだったので、この3日間は本当に楽しかったです」

俺たちは趣味の話や、子供のころの話など、とりとめもない話をしながら食事をした。

「明日は、何時の飛行機で帰られるのですか?」

「お昼頃の飛行機に乗る予定です」

「私も一緒に東京いこうかなあ」

「明日は土曜日なので仕事はお休みでしょ?一緒に行きましょう」

俺はそう言って、予約してある飛行機を教えた。麻美さんは行けたら行く。飛行機の出発時刻までに空港に来なければ行かないと思ってと言った。


翌日俺は、新千歳空港で時間ギリギリまで待った。しかし麻美さんは現れなかった。電話をしてみようかとも思ったが、時間までに来なければ行かないということだったので、これが答えなのだと諦めた。

新千歳空港から羽田空港まで40分程度だ。羽田空港に着き、電源をオフにしていたスマホの電源を入れた。しばらくして立ち上がったスマホに麻美さんからLINEが入っていた。

“篠原さんが乗る飛行機は取れませんでした。次の飛行機に乗ります。羽田空港で待っていて下さい”

俺は次の便の到着予定時刻を調べた。1時間後だ。俺は落ち着かない気持ちで空港内をウロウロしながら長い1時間を過ごした。


やっと麻美さんが乗った飛行機が到着した。ゲートから出てきた麻美さんは俺を見つけて大きく手を振った。俺は駆け寄って、思わずハグした。

「ようこそ東京へ」

「えへへ、来ちゃった」

浜松町まで行くモノレールの中で、ホテルはとったのかと聞くと、

「そんな余裕はなかったもの。今日は篠原さんのところに泊めて」

俺は意表を突かれて、いいのか?という顔で麻美さんを見た。

「二十歳やそこらの小娘ではないんだから、篠原さんを追っかけて東京まで来るということが、どういうことかは自分で理解しているつもりだよ」


結局俺たちは東京見物もせずに、ずっと俺のマンションで過ごした。帰りの飛行機の時間から逆算して、あと2時間もすればここを出て行かなければならない。

「本当にどこへも行かなくていいの?」

「いいの。篠原さんとこうしているだけで、東京へ来た意味があるの」

麻美さんはベッドの中で俺に甘えるようにそう言った。

「麻美さん、東京へ来ないか。会ってまだ数日しか経ってないけど、僕は本気だ。麻美さんと一緒に暮らしたい」

「ありがとう。でも、それは出来ない。私は札幌を離れられない。また札幌に出張でくることがあれば連絡して」

「そんなに度々札幌出張があるわけではないよ。月に1回くらい休みの日に会いに行くよ」

「無理しないで。往復の交通費だけでもかなりの金額になるのだから。私はたまに思い出してもらえれば、それでいいの。私は結婚しないから、あなたがいつ札幌に来ても、私は会いに行くから」

麻美さんの、結婚しないという意思はかなり強かった。やはりお母さんを一人に出来ないということか。


麻美さんが札幌に帰って3日後に千恵美さんから電話があった。俺は一瞬ドキッとした。麻美さんと東京で過ごしたことに対する苦情だと思った。

「篠原さんにとって、麻美はただの遊びの相手ですか?」

第一声がそれだった。

「そんなつもりはないです。僕は一緒に住みたいから東京へ来てほしいと言いました。でも断られました」

「そう。じゃあ、篠原さんは本気なのですね?」

「本気です。でも僕は東京を離れられない。麻美さんは札幌を離れられない。お互いにそれぞれの事情があるので、どうしようもないと思っています」

「麻美は、札幌を離れられない理由を言っていましたか?」

「はっきりとは言いませんでしたけど、やはりお母さんを一人にできないということが大きいのではないかと思います。僕が麻美さんの立場でもそう考えるのではないかと思いました」

「私のことは放っておいてと言っているのにね」

「でも、実際問題、千恵美さんも麻美さんがいなくなると将来は大変じゃないですか?」

「親というものはね、子供の幸せのためなら、自分のことはどうでもいいの。自分はひもじい思いをしても、子供には腹いっぱい食べさせてあげたい、自分は寒い思いをしても、子供には自分が着ている毛布をかけてあげたい、そう思うものなの。自分の老後を子供に見てもらおうなんて考える親がどこにいるものですか。自分のために子供が幸せを諦めるなんて、親として、こんな悲しいことはありませんよ」

千恵美さんの言葉を聞いて、俺はふとお袋のことを考えた。


あれから3か月が経った。札幌出張なんて、そんなに都合よく出来るものではない。会いに行きたい思いが募ったが、俺はそれよりも東京でやらなければならないことがあったので、まずはそれを片付けることに専念した。

それからさらに2か月経った。俺は新千歳空港に降り立った。前回来た時は半袖だったが、今回は分厚いコートを着ている。冬の北海道は本当に寒い。空港の周りには積もった雪が光っていた。今回は出張ではなく自腹で航空券を買った。今日行くことは麻美さんには伝えてある。空港まで迎えにくると言ったが、札幌駅までで良いと言った。札幌駅に着くと、麻美さんが満面の笑みで迎えてくれた。たった5か月会ってないだけなのに、何年も会っていなかったカップルのように、俺たちは人目も気にせず抱き合った。


阿部さんのお宅にあがった俺は、二人を前に改まって言った。

「麻美さんと結婚させてください」

二人は驚いた顔をしてお互いの顔を見合わせた。

「篠原さんの気持ちは嬉しいけど、それは出来ないって、言ったじゃない」

麻美さんがそう言うと、千恵美さんが麻美さんに言った。

「麻美、結婚しなさい。私のことは気にしなくていいから」

「そんなわけにはいかないわよ」

二人の話に俺は割って入る。

「それで、千恵美さんも一緒に東京へ来てください。僕はこの度、千恵美さんが東京へ来てもいいように、郊外ですが広めのマンションを購入しました。だから、3人で東京に住みましょう」

麻美さんが千恵美さんの顔を見た。千恵美さんはジッと考えて何も話そうとしない。

「お母さん、東京へ行く?」

しばらくして、やっと千恵美さんが口を開いた。

「麻美だけ東京へ行きなさい。私はここに残る」

「お母さん・・・」

「やはり、この家からは離れられないですか?」

「この家というより、札幌という土地が好きなの。この年で、東京で暮らすのは気が重いです」

「東京といっても、郊外ですから、大都会といった感じではないのです」

「篠原さん、ごめんなさいね。せっかく私のためにマンションまで用意してもらったのに。でも、私はここを離れたくない。だから、麻美だけ連れて行ってください」

「嫌だ。お母さんが行かないなら、私も東京へは行かない」

結局、今回の滞在で3人の意見が交わることはなかった。

帰りは麻美さんがどうしても空港まで送るといってついてきた。

時間になり、搭乗手続きのアナウンスが流れたので、俺は麻美さんに「また来るよ」と力なく言った。麻美さんはかすかに頷いた。そのひょうしに、麻美さんの目から大きな雫が一粒、ポロリとこぼれた。


東京へ戻った翌々日、俺は千恵美さんに電話をかけた。

「来月新しいマンションに引っ越すんです。千恵美さん、一度マンションを見に来ませんか?見れば気に入ると思うんです」

「この前言ったように、私は札幌を離れるつもりはないですから」

「千恵美さんはこの前、親というものは、自分は寒い思いをしても、子供には自分が着ている毛布をかけてあげたいと思うものだと言っていましたよね。千恵美さんにとって東京へ来るということは、自分の毛布を脱ぐより難しいことなのですか?」

「・・・」

「僕は、千恵美さんが毛布を脱ぐつもりで東京に来たからといって、決して千恵美さんに寒い思いはさせないつもりです」

千恵美さんはしばらく何も言わず、色々考えているようだったが、やっと口を開いた。

「それで、引っ越しはいつなの?」


阿部親子が東京へ来たのは、俺が引っ越した翌週の土曜日だった。羽田空港まで迎えに行き、ふたりを俺のマンションに案内した。

郊外とはいえ、10階建ての最上階で、4LDKのマンションは、金額的にもかなり奮発した。部屋をひとつひとつ案内したところで、千恵美さんが言った。

「マンションではジンギスカンは出来ないね」

「それが出来るのですよ」

俺はそう言って、ルーフバルコニーへ案内した。

「バルコニーでバーベキューとかするのは禁止されていないの?」

麻美さんが聞く。

「購入前に管理組合規定を確認したら、事前に管理組合に申請すればOKということだった。だから、ジンギスカンは出来ますよ」

千恵美さんがバルコニーから遠くを眺めながら言った。

「それじゃあ、私も東京へ引っ越してくることにしようかな」

「お母さん、いいの?」

「ただし、今すぐじゃないよ。麻美が心配しているのは私の老後だろ?だったら、70歳になったら引っ越して来るよ。それまでは二人で暮らしなさい」

「70歳だと、あと7年くらいあるじゃないですか。もっと早く来てくださいよ」

俺がそう言うと、千恵美さんはニッコリ笑って言った。

「じゃあ、あなた達に子供が出来たら引っ越してくるよ。だから早く孫の顔を見せておくれ」

そういう千恵美さんの顔には、母親の包み込むような愛情があふれていた。

俺も麻美さんを連れて、早くお袋に報告に行かなければと思った。

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