第18話

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パレード・ザ・パレード

 







映画『俺達に明日はない』をご存じであろうか。

 原題は『ボニー&クライド』、1967年アメリカ。以前紹介した『チャイナタウン』でもそのミステリアスな美貌と演技を見せつけた、フェイ・ダナウェイの処女作であり、出世作。実在した2人組の銀行強盗をベースに作られた、クライムサスペンスの金字塔である。行く先々でスポーツを楽しむかのように強盗を繰り返す様は、クライムサスペンスでありながらロードムービー的な楽しみ方もできる。特に映画界では語り草になっている伝説のラストシーンは、時が流れ時代の変わった今見ても鮮烈で、残酷で、そして芸術的である。 数多ある映画のラストシーンの中でも、この映画のラストシーンを1番に上げる評論家も多いことでも有名である。犯罪というコンセプトを背にしておきながら、青春ロードムービー、そして恋愛の要素も詰め込んだこの映画の衝撃的なところは、ノンフィクションであるということだ。実際にどれほどの脚色が盛り込まれているのかは、見当もつかないが、最後の銃殺シーンは、現実の話を基にしていると思うだけで感慨深くなる。

 性的不能者であるクライドと天真爛漫で好奇心旺盛、犯罪すらも楽しむボニーとの報われないラブロマンスも見どころの一つ。行く末が悲しい顛末だというのにも関わらず、観ているものはその2人の光景に羨望を抱き、同時に共感も抱くだろう。彼らの行く先々で、襲う色々なトラブルをひらりと躱し、行く当てもなく強盗を繰り返して旅をする一行は、さらに旅の道連れを増やす。だが、ある出来事をきっかけに、彼らの運命は大きく歯車を狂わすことになるのだが……。 

 爽快感と、後に残る焦燥感は、人生とは如何に虚しいものかを論じているように思う。だが、一度きりの人生、思いっきり楽しんだもの勝ちだということも教えてくれている。それが例え、自らの人生を短くさせたとしても。

 全体に漂う、乾いた映像の中を飛び回るボニーが実にキュートで、それを笑って見守るクライドを観ていると、背後にある強盗という犯罪行為が霞んでしまう。

 さて、この『マゼンタへようこそ』も諸兄方にとって、そういった空気を出せているだろうか?

 もしも、そんなことがないという厳しいご意見があるのならば、それは一重に語り手であるこの私のせいである。ここで謹んでお詫びもうしあげたい。……などと、自由気ままに立ち振る舞っていくのも一つの人生である。だからやっぱり私は謝らない。断固として謝らない。 

 さあ、物語はこの章からクライマックスに向かっていく。溜息と瞬きは厳禁である。

「いいでありんすか? 最初にTOHGEが応援にきた演説の時、わっちが傍受したカメラ映像の中に、やたらと演説カーと近い画像がありんしたでしょう。

 あれは、常山に監視されている画像でありんす。信頼関係にあると裏世間では言われてありんすが、そんなものは最初からないんじゃありんすか。つまり垰山は常に常山から動向を監視されいる。と、いうことは……垰山の身の回りでなにかがあれば、すぐに飛んでくるってことでありんしょう」

 数日前、マゼンタでのミーティングでキニCはこのように報告した。

「垰山が公式なカジノを設立したいのは、セキュリティ上の問題もありんす。

 あくまで地下カジノであるプレイアローは、規模は大きいながらそのセキュリティ自体は大したものではないようで、人の数でセキュリティ面をカバーしているみたいありんすな。最低限のロックは推測さりんせんが、こいつを差し込めば遠隔操作でわっちがロックを解除しやんす」

 皆が眺める中、キニCは小さな黒い電子機器のような箱を出した。

「十中八九、パスコード式でありんしょう。インテリが増えたとはいえ、所詮は極道くずれも干渉する施設。

 大層なロックセキュリティはないでありんしょう。しかし、心配めさるな。そこはわっちのネットで保証済みでありんす。この設計図によれば、パスコード方式でありんしょ」

 キニCは、黒い箱をテーブルに置くとプレイアロー地下の設計図を広げた。

 ところどころから「おおっ」という男の声が漏れる。

「よく手に入ったっすね!」

 ブラシが興味深くそれを眺める。指で経路をなぞるとブツブツと独り言を言っている。

「わっちに入手できないのは、この国の女性戸籍だけでありんすからな」

 なんの自慢だ。

「これが切り札って訳かぁ。なんやめんどくさいことなってきたなぁ~、ほんま、中止になってくれりゃあんじょーできるのに」

 カカカ、と笑ってシャラップはあたりめを噛んだ。

「どうだニャンニャン。覚えれるか?」

「徹夜すりゃ大丈夫だにゃん」

 そう言ってニャンニャンはキニCを見る。

「残念でありんすが、貸出は不可でありんす」

「徹夜で店に泊まってくれ」

「むごいっすね」

「……からね。(しょうがないよ、ニャンニャンの家は猫飼い過ぎて設計図なんてすぐにズタズタにされるからね)」

「にゃ!」

 パスタは乾燥パスタをかりかりと噛みながら「フィリップ」とまた呟き、笑った。

「5億は3階、30億は4階か。こりゃまた大変だな」

「だけれど、それさえクリアすればわっちらの借金返済の大きな一歩でありんしょう。発想を逆転させてこのオーダーは、わっちらにとってラッキーだと思うべきではじゃありんせん」

「うち、竿とりたいっす! ようやく取れるっす!」

「あほな、竿あった方が背徳感があってネコもタチもなぁ……」

 ゴン、ゴン、という微笑ましい2つの音と共にブラシとシャラップは頭を抱える。

「気持ちの悪い会話するんじゃねえよ! しかし、これで俺のこの屈辱的な仕打ちを終わらせる準備が大きく進む……。ふふ、ふはは……」

 乾燥パスタを一気に3本口に含むとバリバリと凄まじい音を立ててパスタは不気味に笑った。

「ぬっしほどの女型(おやま)は愛之助様を置いてはいないのに、まっこと勿体ないことこの上ないでありんせん」

 キニCは、そこまで言うと目の前で凄まじい音で、乾燥パスタを噛み砕きながらこちらを睨むパスタに気づき話を無理矢理締めくくった。

「ノンケなのに、女装すりゃこの中の誰よりも綺麗だとは皮肉だにゃん」

「にゃんにゃんうるせぇな。炙るぞ」

「にゃ」

「ニャンニャンは、うちらの中ではニューハーフじゃないもんねー。ただのガチムチゲイなだけだし」

「ほんで、うちらのことはええけどそっちは大丈夫なんかいな。ボス」

 シャラップが、退屈そうにすね毛を一本一本指で引き抜きながらパスタに尋ねた。

「ああ、大丈夫さ。TOHGEと行った時にディーラーの休憩時間もちゃんと調べてある。

 そのタイミングを見計らって、扉でうろちょろすればいいんだ。

 勝手に話しかけてくる。TOHGEの名前を出せば、会員証無しでも入館できるだろ」

「もし、そのディーラーが出勤じゃなかったら?」

「長時間ブラックジャックばっかりに居座ったからな。少なくとも3名のディーラーとは勝負している。全員が欠勤だとは考えにくいだろ。一発目で当たらなけりゃ、次の休憩ごろにまた「TOHGEまだですか?」って行けばいい」

「そない簡単に行くもんかいな」

 シャラップが少し不安げに、パスタをチラリと見た。

「ふん、なんでもできるから“ボス”なんだよ」

 パスタは、レコーダを見ると

「レコーダ、“ピンクサファイア”は頼むぜ」

「……ん。(うん)」

「よし、じゃあ、シミュレーションだ。まず……」

 夜景を見渡せるプレイアローのバーで、キニCはノートパソコンの画面を注視しながら抹茶カクテルのおかわりと、ナッツの盛り合わせを注文した。本当はおかきの盛り合わせの方が好みなのだが、そんなことを私が知ったことでは……否、店が知ったことではない。

キニCの右耳にはイヤホンが差してあり、そこから時折聞こえるのは無線会話のようだ。

 

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