12月 クリスマス・イブ
現在、青日はふわふわのクマのぬいぐるみになっている、テディベアってやつだな、毛が長めのふわふわもこもこタイプのぬいぐるみである。比喩とかではなく、マジで、リアルに、全長50センチくらいのテディベアとして、ラーメン屋の立て看板の陰に隠れている。
テディベア・青日は自分の手を見る。スカイブルーの毛に丸っこい合皮の肉球、クマって肉球あったっけ、あったや、丁寧にちっちゃく肉球が模られている、そんなふわふわの何も掴めない役立たずの超絶可愛いハンドである。何度見ても、綿がギュムギュムするだけの手である。青日はふむ、と溜息を吐いた気になる。イマイチ、この身体に呼吸っていう概念がないのだな、口は刺繍だし鼻はボタンだもの。
時間を少し戻して、如何にして青日がテディベア・青日となったか。単純明快、
住民が去って行ったのを確認し、青日は看板の影から出る。
「なんだこれ」
ムンギュ、と頭を掴まれる。青日はジタバタと動いた、なんか気持ち悪い、頭が締め付けられて気持ち悪い、でもなんか聞いたことある声な気がする。
「あ、クマ」
見慣れたキラキラフェイスがいた。赤いタートルネックと黒いレザーパンツと確かショートブーツ、白いカッチリロングコート、睦千だ。ジタバタ暴れるテディベアをなんともないような顔で見ている、摩訶不思議には慣れた八龍の住民だ。
「青日」
ピクリとテディベア・青日は動きを止めた。
「に似ているね、クマ」
そして、項垂れた。相棒、気付いてくれたと思ったのに。
「お前を祓うのは後にしてあげる。お前にそっくりなのがいるから見せてあげるからね」
そっくりも何も本人だってば、青日は睦千の手の中でむずむずと動くが、睦千は以前と頭を鷲掴みで連れて行く。ぬいぐるみの持ち方が雑だ。青日は気分的に痛いので暴れた。そうすると睦千は、ジッと暴れるクマを見て、ふむ、と腕の中に抱え直した。側から見ればぬいぐるみをギュッと抱えて可愛らしく見えるだろうが、当の青日にしてみれば腹を抑えつけられて苦しい気分だ。痛覚もぼんやりしているので、なんか綿が潰されて気持ち悪いくらいの感覚だ。でも、さっきよりかはマシなので暫く腕の中で大人しくする。
睦千は青日どこかなー、などと独り言だ。青日を抱える手にハムが入っている紙袋があるから、今はお目当てのハムが買えて大層ご機嫌らしい。この浮かれよう、おれの事に気付かないだろうと青日はしょんぼりとした。きもち、毛がへたった気がする。でも、コツコツと進む相棒の足取りに揺られるのは悪くない。やっぱり、睦千が楽しいと青日も割と楽しいのだ。
ちゃんと隣歩きたいからさ、だから早く気付いてよ、と青日は超絶可愛いふわふわお手手で睦千の腕を叩いた。睦千はご機嫌のまま、青日の頭を撫でる、違うってば、と更に叩く、更に撫でられて、青日は諦めて大人しくなった。
たまたますれ違った萩和尚に元の姿に戻してもらうまで、青日は睦千の腕の中で揺られ続けたのだった。
青世界に白光 赤原吹 @about_145cm
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