11月 いい肉の日
十一月二十九日、語呂合わせで「いい肉の日」、そもそも毎月肉の日は存在するが、あ、二月はないか、まあ大体毎月肉の日は存在するが、十一月のいい肉の日ほど、大事な肉の日はないだろう。少なくとも、睦千はそう考えているようだった。
「睦千ぃ、野菜も食べなよ」
仕切り鍋の中に浮かんでいた白菜を睦千の取り皿に入れる。
「食べているよ」
睦千はそう言いながら、金色の鍋つゆの中に薄切りの豚肉を潜らせた。すかさずに箸を持ち替え、それからふわりふわりと鍋つゆの中で湯掻いて、柚子ポン酢の皿へ。ふぅと冷まして、一口。頬がニヤけている。さっきから繰り返されている光景である。
いい肉の日だね、と二人がやって来たのは『まつむら屋』、年がら年中鍋物を出す食事処である。本日は定番の出汁と、辛いものが食べたい睦千が頼んだ辛味噌の二種類である。睦千はまた取り箸で肉を持ち上げると、今度は辛味噌の鍋つゆに入れた。マジで、こいつ、肉しか食わない気だ。まあ、美味しいけど、お肉。柔らかくて、脂は甘くてとろける感じで。いい肉の日感万歳だ。
「……ちゃんと野菜も食べる」
青日の視線に気付いたのか、睦千が気まずそうに答える。食べたいものを食べている時の睦千は子供っぽい。
「辛い方のは野菜は食べてくださーい」
「青日もちょっと食べても良いよ」
「おれ、辛い気分じゃないなぁ」
「……思ってたけど、青日ってさー」
「なに?」
出汁の方から白菜を拾い、少し迷ってゴマだれへ。
「辛いの苦手?」
「……だから何?」
青日は赤い鍋つゆを睨みながら語る。
「辛いのが苦手って言うとみーんな一瞬馬鹿にしたように見るよね、お子ちゃま舌なの? 唐辛子がダメなの? 辛いの美味しいのにもったいないねぇみたいな辛党の目線、マジうざい。てか、辛いってつらいって書くんだよ、苦行なんだよ、それを娯楽のように捉えて尚且つ食べれないほどに辛くするのって食べ物に対する冒涜だよね、それが大人の証って言うか辛いのが食べれる方がかっこいいみたいな雰囲気? マジで狂っているよね、おれには理解できない、まじ、盛堂青日はおかしいと思って生きているんだよ」
最低限の息継ぎで青日は語り合えると、取り皿の白菜を食べた。甘い白菜と香ばしいゴマの香り、辛い味ってやっぱり論外じゃない?
「……なんか、ごめん……締めのおうどん食べたらアイス頼も」
睦千は静かに辛味噌の方からネギを掬い上げながら提案すると、青日はうん、と頷き、辛い方に肉を放り込んでしゃぶ、しゃぶ。
「……ボクは、甘いのも好きだよ」
「知ってるよ。別に睦千が辛いの食べるのはいいよ」
「……辛くて食べれないのはボクにちょーだいね?」
「食い意地〜」
青日はケラケラと笑って、睦千の皿に肉を入れた。肉の日だもんね、いっぱい食べな。てか
「お腹いっぱい」
青日はもっと肉食べなぁと睦千は笑って、青日の分の肉を根こそぎ持っていった、言動不一致。
青世界に白光 赤原吹 @about_145cm
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。青世界に白光の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます