12月 年末
「怪が」
睦千は不機嫌を隠さずに上を向きながら言い捨てた。
「多い」
青日がその先を代弁すると、そうなの、ととうとう道端に座り込んだ睦千はダウンジャケットの前を開けて、あっつ、と呟いた。青日は札をコートのポケットにしまって空を仰ぎ見ている。わー、今日も晴れ、冬の太陽眩しい。
「ボクらの仕事納めはいずこへ……」
「今日だよ、一応。そろそろクリスマス関係の怪も獲りつくしたよ! 多分!」
「クリスマスに恋人がいないとかフラれたとか、それってそんなに大事なわけ?」
「みんなそればっか言うよねー、八龍もすっかりデートスポットじゃん」
「そして怪が増える、巻き込まれ事故じゃん」
「デートスポットって言うよりパワースポット? 憂鬱な気分が晴れるとかさー怪になっているだけだよ」
「八龍の事、ゴミ箱とでも思っているの……?」
「ダメだよー、睦千、怪になっちゃう」
そう言って青日は睦千の手を掴み、自分の頬に当てた。てっきり、青日は睦千が笑うかと思ったが、うへ、と眉を下げた。
「青日ぃ……冷たいよ……」
「離さないで、睦千の手があったかいからさ……」
「ねえ、ボクが凍える……」
逃げようとする睦千の手を、ぎゅっと掴む。
「おやつ買ってあげるからさー、もうちょっと温まらせてよ」
青日は睦千の手をするすると耳に当てる。あったか、睦千の手、薄っぺらいのにあったかい。トトトと手の音も心地よくて、青日の方がへらりと笑った。それを見た、睦千もへら、と笑った。
「コンコン屋の焼きおにぎりがいいな」
睦千の手が青日の耳の後ろ、髪の毛をくるくると遊び始めて、こそばゆい。でも、睦千はご機嫌になったみたいだ。
それじゃあ、と睦千の手を離して、歩き始めようとした2人の足元を白と黒の毛玉が転がって行った。
「あ」
それから竹がにょこにょこと道に生え始めた。
「おー青日ぃ手伝え!」
「睦千さんも頼む、黒いサンタクロースの怪だ!」
ドタバタと丈と李矢が駆け抜けていく、さっきの毛玉はパンダだったのか、と2人は顔を見合わせて走り出した。
「ねえ!黒いサンタってクリスマスはもう過ぎ去ったよ!」
「もう正月来るのに」
「プレゼントを配りたい怪らしい」
李矢が説明する上を丈が竹を渡り走る。
「もう帰ってもらわないとね、睦千!」
青日が白い息を吐きながら笑う。
「そうね、青日」
睦千はさっきまでの不機嫌を忘れて、青日の隣で走った。年内はまだまだ騒がしいらしい。
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