11月 立冬
八龍の初雪は決まっている。毎年立冬の日、暦が冬だと言ったら降るんだな、雪。たとえ、異常気象で当日の朝が真夏日でも、降ると言う。
「って言ってもさぁ、この間までハロウィンだったじゃん」
青日は報告書を書きながら、隣で同じように報告書を書いている睦千に言う。
「ボク、まだ心がハロウィン」
「だよねー、ハロウィン終わりの報告書パレードしてたもんねー」
もう報告書、飽きた、と青日は背もたれに大きく寄りかかり、天井を眺める。
「雪降る前に終わらせて帰ろ。今晩はおでんにしようって言った」
「その前に炬燵出さなきゃ」
「……やば、めんどくさ」
睦千も報告書を投げ出し、だらりと背もたれに寄りかかる。
「あ」
その睦千が何かに気付いたように一言発する。あ、と言うより「ば?」みたいに聞こえたけど。
「ねー、もう降ってきた」
「うそ」
窓の外を見ると、白く小さなものがふわふわと空から落ちてきている。
「うわ、まじだ。早くない? 夕方くらいからって言ってなかった?」
「最近、まだあったかいから、痺れを切らしたんじゃない?」
「降らせているのって怪? しばきに行こうよ」
「八龍が降らせているんだから、しばいたらダメ。もういいや、早くこれ終わらせて、もう帰っちゃお。初雪浴びに行こうよ」
「ダーリン、切り替え早い」
「ハニーと楽しみたいだけだよ」
きゃっ、と言った青日は睦千にならい、報告書に向き合う。珍しく静かな八龍と、二人だけの事務室に雪の気配を感じる。今年も寒いのかな、と青日は考えて、窓の外を見る。吹雪いていた。
「……いや、ちょっと調子乗りすぎでしょ」
真っ白い窓に、青日が呆れていると、睦千はあは、と笑う。
「やば、真っ白。ねえ、青日、早く行こう、初雪が吹雪なんて、おもしろすぎる」
おれ、寒いの苦手なのに、と青日は思いながら、でも睦千が楽しそうならそれでいいや、と目の前の報告書を大急ぎで片付けた。
「……てか、雪ではしゃぐ睦千、子犬みたい」
「寒いって文句言う青日は猫かな」
普段はおれが子犬なのにー、と笑うと睦千は、やはり、あは、と八重歯を見せつけるように笑った。どうやら、睦千の心はハロウィンから冬に切り替わったらしい。
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