第178話 ワタツミ王国との会談 1 会談
私達が海辺に着くと少し豪華なテントを見つけた。
窓の外から覗くとテントの周りを数名の武官と思しき人達が歩いている様子がわかる。
テントの張り方はお世辞にも上手いとは言えない。
これは仕方ないと思う。
海底でテントを張るようなことなんてないだろうからね。
彼らはオリヴィア達を見つけるなりワタツミ王国式の挨拶をして自己紹介を始める。
オリヴィア達にはワタツミ王国式の挨拶の仕方を教えていた。
それに習い彼女達がそれで返すと喜ばれている様子が窓から見えた。
「閣下。――」
ノックの音が馬車の中になり騎士オリヴィアが呼ぶ。
私はスターチスと顔を見合わせて軽く頷く。
「では予定通り」
「ああ。第一印象は大切だ。頑張ろう」
言いながら軽くソウを
海に潜って
一仕事してくれたら焼いてやるから。
気を引き締めて、まず私が外に出る。
視界が開けるとそこにはオリヴィア騎士団とワタツミ王国の武官達が整列している。
ワタツミ王国から驚きの声が上がるが、ソウが大きくなったせいだろうね。
「ご苦労」
驚くワタツミ王国の人達をおいてスターチスが堂々と歩いてくる。
スターチスがワタツミ王国式の挨拶をすると更に驚き目を見開いていた。
因みにファラット子爵君は終始口をあんぐりと開けている。
さぁ、砂糖の為に頑張りましょうか!!!
★
「まさか我々の文化に精通されている方がいらっしゃるとは」
席に座り機嫌よく言うのは「ネゴ・シグラス」という外交官。
パーマがかったふさふさの黒い髪と黒い瞳を持つ彼は背が高くひょろいイメージを受ける。
けれども彼はワタツミ王国の外交団のトップ。
つまるところ相手側の最高責任者である。
「我々は常に海の魔物の脅威にさらされております。今日ある命が明日にはない事も多い。そのような中生まれた風習ですが、まさか地上の方が知っておられるとは」
満面の笑みでいうのはワタツミ王国の武官の長「ログ・シェロニダ」。
彼の背は低くスキンヘッドをしている。
シグラスとは真反対な印象を受けるが相当な実力者なのがヒシヒシと伝わってくる。
双方軽い挨拶と雑談を交わしながら話を進めていく。
まずスターチスがエンジミル王国側は正式に国交を結ぶことを決定したことを伝える。
するとシグラスとシェロニダが安堵の息を吐く。
どれだけ彼らがこの会談に力を入れているのかがわかる。
交流の詳細については後日詰めることになった。
そしていよいよ「贈り物」の話になる。
「我々は糖樹を五本ご用意し、そしてその
「五本?! 」
「エルゼリア殿」
「す、すまない。いや……しかしあの糖樹を五本」
あり得ない。
一本あれば十分に国が
それを五本。
何を驚いているのかという目で見てくるファラット子爵君を気にせず、少し息を整えて二人に向いた。
「……失礼だがそれは本当に糖樹ですかな? 」
「疑問は
「疑わしいのも事実」
「どのようにして手に入れたのか聞くのは
「いえいえ構いません」
シグラスが人の良さそうな顔で答えるとシェロニダがシグラスに提案した。
「この際です。疑問を解消するためにもどのようして手に入れたか話しておくべきでは? 」
「……そうですね。不安なままではこれからの話し合いに支障をきたすかもしれませんし」
シグラスが少し考える素振りをすると私達の方を向く。
「実の所私達は糖樹を国内で育成することに成功しました」
「「なに?! 」」
「最初は陸地を目指して上がった者が魔大陸と呼ばれるところに上陸したのが始まりでした」
「海の戦士と言えど地上でもそれなりに力を発揮できます。しかし魔大陸。本当に恐ろしい所で上陸した者達の殆どは
「そこから種を落としそれを育て、こうしてお渡しすることが出来るという訳でございます」
糖樹の育成に成功した?!
それこそあり得ない……。
一体どうやって。
あれは魔大陸で常に強力なプレッシャーをかけないと育たないはず……。
「そうか。深海の圧力か」
「ご明察通りでございます」
シグラスがにこやかに答える。
納得だ。
まさに海底国家ならではといった所だろうね。
少なくとも地上の国では真似ができない。
一人考えているとスターチスがチラチラこちらを見て来る。
詳しい話を聞きたいのだろうけれどそれは後だな。
彼らが差し出す糖樹というものに現実味が出て来た。
が逆に――。
「ワタツミ王国はエンジミル王国に何を求めるのかな? 」
私が聞くとごくりと息を飲む音が聞こえて来た。
意図を察したのかスターチスが続く。
「貴国は地上の国で「糖樹」、――より正確に言うのならばそこから生み出される「砂糖」というものがどれだけ価値があるのか知っている様子。それを踏まえた上での事と思う」
「糖樹五本。これに
聞くと二人はゆっくりと瞳を閉じる。
そして開けるとより顔を引き締めて私達に事情を説明した。
「私達が望むのは貴国との国交樹立。それに違いはありません」
「しかしながら何も狙いがないというわけでもない」
彼らがゆっくりと喋る。
「その昔より私達は己の肉体を用いて魔物と戦ってきました」
「しかしながらこの方法は犠牲が多く、そして大量の魔物に襲われた時対処しきれない」
「もちろんこれまでの知恵や受け継がれる力、時には精霊様の力や海王様をお借りして乗り越えてきました。しかしそれも限界に近く……」
「……早い話、国交樹立を機に武器を輸入できればと考えております」
言われて私はスターチスと顔を見合わせる。
頷いてスターチスに促した。
「貴国がどのような武器を求めているかわからない。しかし今回サンプルとして三種類用意してある。是非見てくれ」
スターチスの言葉が意外だったのか、シグラスとシェロニダが目をぱちくりとさせた。
因みに話についていけていないファラット子爵君は空気となっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます