第179話 ワタツミ王国との会談 2 海の幸

 武器のサンプルを見せるためにテントの外に出ると「ザバン!!! 」と大きな音が聞こえてくる。

 水飛沫みずしぶきが舞う中、すぐに私は全体に薄い物理防壁を張る。

 張り終えたあとすぐに海水が空から降って来た。


「コラ! 何をしている! 」

「エルゼリア! 採って来たぞぉぉぉ! 」

「待てと言っていただろうが! 」

「待てと言われて待つ我ではない! それに海の中を探知で探っていると丁度いい得物がいた。さぁ料理をするのである! 」


 周りの人達があんぐりと口を開ける中私はソウに一喝いっかつ入れる。

 皆驚くのも無理はない。

 なにせ巨大化したソウの腕の中には、巨大な魔魚まぎょがピチピチと逃げようとしているのだから。


「い、一角マグロ……」

「しかもあの大きさ。我々だと数十人で決死けっしの覚悟で当たらないと倒せないのに」

「……ソウが非常識なだけだ。気にしないでくれ」


 したたり落ちて来る海水が全て地面に落ちたことを確認して、防壁を解除する。


「シフォン公。彼らとサンプルを見ていてくれ」

「わ、わかった。しかしエルゼリア殿は? 」

「あのドでかいマグロをさばいてくる。ソウのこともあるが、海のさちは早く調理するに限るからな」


 そう言い残して私は彼らと別れた。


 ★


 調理している間、ソウに他の海の幸を採ってくるように伝える。

 せっかくだ。

 今回ナイス助言をしてくれたエルムンガルドに幾つかお土産を持って帰ろう。

 海の幸が欲しいと言っていたしね。


「採ってきたのである! 」

「今度は静かに上がって来たな」


 一角マグロを解体し火属性魔法で軽くあぶり終えた時、ソウがズドンズドンと足音を立てながら近寄ってきた。

 あの魔魚は巨大化したソウの腕で暴れる程の大きさだ。

 一匹でここにいる全員分はまかなえる。


「我とて学習するのである。我、偉い! 」

「はいはい。偉い偉い」

「……我の扱い、ぞんざいすぎやしないか? 」

「でその海の幸とやらは?」

「……流石にスルーは悲しいのである。が我、気にしない! 海の幸は異空間収納に仕舞しまっているのである」


 すでに異空間収納の中に仕舞っているのか。

 ソウにしては用意が良いな。


「ん? 待てソウ。どうやって食材を調達した? 」

「大量にいたから得物を異空間収納の中に閉じ込めたのである」

「まさか海ごとか?! 海の水ごとか?! 」

「そ、その通りであるが、何をそんなにすごむのだ?! 」

「異空間収納……。私の調理器具と一緒のスペースに入れてないよな?! 」

「さ、流石にそんなヘマはしないのである。そんなことをすればびてエルゼリアの美食を食べれなくなるのである」

「ならどうした! 」

「新しく作ったスペースに入れ込んだのである」


 体を小さくしたソウを見ながらホッとした。

 私の調理器具に海水を浴びせられたら錆びてしまう。

 だがこのままではいけない。

 ソウに異空間収納内の海水だけを抜くように指示をする。

 めんどくさいという声が聞こえるが、最終的にソウが折れた。


「出来上がりを。一角マグロをあぶった料理、——炙りマグロだ」

「「「おおおーーー」」」


 名前はそのままだが、と思いながらも興味津々でこちらを見てくる人達に、それぞれ配る。


「一角マグロを炙るとは」

「切り分ける事はあるが、基本生で食べるからなぁ」


 シグラスとシェロニダが感動したように言う。


「海底にある国は火を使った料理はしないのか? 」


 二人に配り聞いてみる。


「そうですね……。あまりしないかと」

「国によっては地上に空気が抜ける場所がある。そういう国は空気半円膜エアードームという特殊な魔法で国をおおい火を使い料理をする聞いたことがるが、我が国は辺り一面が海だからな。火は使えない」


 ワタツミ王国では完全に使えないという訳か。

 だけどそうなると不自然だな。


「なんで地上の国、エンジミル王国と国交を結ぼうと考えたんだ? 」

「幾つか理由はある」

「ええ。まず火を使える国があるといっても鍛冶は専門外ということ」

「あとは海王様のすすめもあったのも大きいな」


 自由気ままに海を泳いでいると聞いたけどワタツミ王国に頻繁に出没するな。海王。

 ハチャメチャな存在と理解していたけど、もしかしたら親切な人なのかもしれない。


「武器の件も大枠を決める事はできた。陛下に進言し判断をあおがなければならないが、まず大丈夫だろうね」


 スターチスの所へ行くと、結果を聞かされる。


「……早くないか? 」

「邪魔者が口を出さなかったからね。その分スムーズだったよ。流石の彼も自分が完全にわからない領域は口を出せないらしい」


 スターチスはチラッと私の後ろに目をやる。

 背中に刺さる視線が痛いが、気にしていないふりをして、そのままスターチスの話を聞く。


「事前に準備していたのもよかった。武器類の交易を始めることになったら、レアの町に話を持っていこうと考えている」

「……それ私が聞いていいやつなのか? 」

「エルゼリア殿なら聞かなくても気付くのではないのか? 後から気付くよりかは先に教えていた方が、君の心象しんしょうが良いと判断しただけだ」

「単なる一介の料理人になに気を配っているのか」


 苦笑しながらも話を終える。

 オリヴィア騎士団の団員達にもそれぞれ渡して、貴族派閥一派にむく。

 けれども断固として食べないぞ、という雰囲気を受けた。

 というよりも自分達で料理をしている。気配が薄すぎて全くわからなかったが。


 貴族派閥一派も流石に自分達だけ会食の場にいないのはまずいと思ったのだろう。

 調理を終え自分達の料理を手に持ち集まる。

 ソウも水抜きを終えたソウもやって来てそれぞれ食事の準備を完了した。


「今日は色々とあったが両国の更なる発展を祈ろう」

「では……。恵みに感謝を」

「「「恵みに感謝を」」」

「「「大海の命に感謝を込めて」」」


 スターチスが音頭おんどをとり炙りマグロを口にする。


「......美味い」

「ブル系統の肉にも負けない肉厚。素晴らしいな。」

「噛みしめるごとに脂が出てきます」

「陸地の肉もそうだが一角マグロも部位によって味が違う。それぞれ楽しんでくれ」


 と言いつつ私も一口。


 ん~~~! 久しぶりのマグロは美味い!!!


 オリヴィアじゃないがぷりっとしたマグロにこの肉厚。

 さて次はと……。


 こっちのあっさり系も良いっっっ!!!


 脂控えめの部位だけど海の荒波に揉まれた一角マグロの雄々しさが堪らない!!!

 これなら大根おろしも添えた方がよかったな。


「エルゼリア殿。これは定期的に卸すことは出来ないのだろうか? 」

「……騎士オリヴィア。美味しいからな。まぁ食べたい気持ちは分かるが、そうだな。何人か氷属性魔法を使える人材を雇ってここから仕入れる方法はあるが……」


 チラリとワタツミ王国の面々を見る。


「正直あの大きさの一角マグロはワタツミ王国の戦士が命がけで仕留めないと捕獲ほかくするのは不可能でしょう」

「だがシグラス。大型でなく小型なら行けると思うが」

「……後で陛下と相談ですね。小型なら捕獲する難易度は低い。陛下に進言してみましょう」

「ありがたい。よろしく頼む」


 騎士オリヴィアがペコリと頭を下げる。

 諸々もろもろの交易の話はスターチスに任せるとしよう。


 ともあれ私達は第一回目の会談を終えた。

 嫉妬しっとに塗れた目線を浴びながらだが、私達は成果を持って帰ることができて、一安心だ。

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