第177話 海へ 3

 馬車を走らせて半日。

 最初の休憩時間となった。


「スターチス。敵対貴族とはいえ打ち合わせた方がいいんじゃないのか? 」

「会談のこと……、いや文化の違いについてか」


 馬車から降りる時になってふと気が付く。

 スターチスに相談すると眉をひそめられた。


「今回の目的は会談の成功だ」

「だがファラット子爵がそれに沿うとは限らないと思うが」

「最悪沿わなくても良い。要はこちらから事前に話を持ちかかて情報共有をしたという事実がいるだけ。会談が上手くいかなかった場合の逃げ口は作っておくべきだろ? 」

「そうだな。エルゼリア殿の言う通りだ。しかしエルゼリア殿。本当に外交初心者か? 」

「この通りどこにでもいるような一般的な料理人で外交初心者だよ。じゃぁ打ち合わせをする方向で話を進めようか」


 このグループの責任者でおさであるスターチスに一応言っておく。

 余計なお世話だったかなと思いながらも外に出る。

 見慣れた人達——オリヴィア騎士団の人達を発見すると、あとからスターチスが降りてくる。


「総員。敬礼! 」


 バッと音を鳴らして敬礼をする。

 どうやらスターチスを待っていたみたいだ。

 スターチスが慣れた様子で彼女達に敬礼を解くように伝えるとこれから昼食とのこと。

 何人かのコックが奥に見えるが少し挙動不審。

 彼らの、どこか負の感情を思わせるような表情に首をかしげていると騎士エイミーがスタスタとこちらに寄って来る。


「エルゼリアさん。少しお願いがあるのですが」

「ん? なんだ? 」

「この先の料理をお頼みしてもよろしいでしょうか? 」


 その言葉で察した。

 奥にいるコック達は、それを知って負の感情をこちらに向けていたのか。

 それでプライドがズタボロというところだろう。

 彼らがどこで勤務しているのか詳しい事はわからないが、恐らく王城か貴族の館か。

 そう言った所で働くコックは総じてプライドが高い。


「私は構わないが……。奥にいるコック達はどうするんだ? せっかくついて来たのに」

「放置で良いでしょう。ネズミが寄越したコックが作る料理など怖くて食べれないので」

「ネズミ? 」

「ネズ公爵のことだ」


 意味が分からず聞き返すと返事が返ってきた。

 振り向くとスターチスが苦笑いで近寄ってきている。

 スターチスが苦笑しているところから恐らく皆そう呼んでいるのだろうね。

 けれど仮にも公爵相手に蔑称べっしょうともとれる愛称をつけて堂々と言うとは。

 騎士エイミーの精神がぶといのか、それともそのネズ公爵とやらがそれほどまでにやらかしているのか。


「元グランデ伯爵の失脚で表に出て来た貴族派閥の今の長の事だ」

「……それが何でネズミと? 」

「いつも裏でこそこそと貴族派閥を操るように動いていたからさ。ま、その話はおいておいて、この旅程りょていではエルゼリア殿が料理を作ってくれるのかな? 私は彼女のお菓子しか食べたことがないからね。気になる所だ」


 公爵が大きめな声でいっているせいかコック達から熱烈な視線を感じる。

 が、私が気にすることではない。


「構わないよ。馬車で移動しているから……軽いものの方がいいか。何が食べたい? 」


 私の料理を食べたことのあるオリヴィア騎士団員がそれぞれ注文を口にする。

 それぞれ取りまとめて私はソウを連れて準備に入った。


 出張レストラン「竜の巫女」、第二弾である。


 ★


「ん~~~! 黄金が体中を巡るようです! 」


 彼女が言わんとしていることはわかるが……どんな比喩ひゆだよ。


「飲めば飲むほど体に力がいてくる! 」

「これヴォルトさんのパンですよね?! 流石異空間収納」

「我のおかげでなのである! 」


 ソウが「キュィ」と機嫌良く鳴き尻尾をふりふりしながらパンを食べている。

 ヴォルトのパンも好評なようだ。

 今日の注文はオニオンスープ……と見せかけたドラゴンスープにヴォルト製の白パン。そしてフレッシュサラダとかなり軽い。

 私達の朝食と同じメニューだ。

 重い物を食べて大惨事を起こしたくないからな。

 オリヴィア騎士団は大丈夫だと思うがスターチスはわからない。


「香ばしい匂いが食欲をそそるな。それにコッテリしていてとても美味しい。これならいくらでも飲めそうだ。彼女達の言葉じゃないが体中から力が湧いてくるようだ」

「好評なようで何よりだ」

「エルゼリア殿は本当に腕の良い料理人だね」

「褒めても何も出ないぞ? 」

「ふふ。料理が出てくるかもしれないじゃないかい」

「それはあるかも。しかしあれ、良いのか? 」

「良いも何も最初こちらは一緒に食事を共にしないかと提案した。けれどあちらが拒否をしたんだ。恨まれる筋合いはないよ」


 フォークとナイフを握りしめ恨めしそうにこちらを見ているファラット子爵とやらを見てスターチスに聞く。

 因みにだがその隣に控えているコック達の表情もけわしい。

 スターチスの言う通りなんだが、向こう側からのプレッシャーを受ける私の身にもなって欲しいわけで。

 本当に貴族というものは厄介だなと思いながらもスターチス達の食器を片付けた。


 ★


「ファラット子爵。少し良いかね? 」


 食事を終えた後、私とスターチスはファラット子爵の所へ向かった。

 彼の外見は私が見て来たエンジミル王国の人族の特徴そのものの人だ。

 短く揃えられた茶色い髪に黒い瞳。身長は私よりも少し高いくらいで特筆筋肉質という程でもない。

 一般貴族と同じ雰囲気を纏っているが今はかなりピリピリとしている。


「……なんでしょうか。公爵閣下」

「会談に向けて打ち合わせをしたい」

「事前に話すことは決まっているでしょう? 必要ないと思われますが」

「我々とワタツミ王国は文化が違うのだ。それを踏まえた上でどのような行動をとるのがベストか話し合う必要があるだろ? 君も国に仕える者なら、派閥関係なく仕事は行うべきだと私は思うがね」


 立っている二人の間にバチっと火花がるのを幻視する。

 本当に仲が悪いんだな。

 というよりも公爵相手に、しかも今回は仮にも上司なのによくももあぁこんな態度をとれる。

 ある意味ファラット子爵君は大物かもね。


「必要ないでしょう」

「何故そう思う? 」

「文化が違う。確かにそうだ。けれども私達は相手の文化というものを知らない。対処のしようがなければ話し合うこともできないでしょう。では私はこれで」


 そう言い残してファラット子爵君は離れて行ってしまった。


「派閥の関係の悪さは爵位を超える、か」

「……何か良い解消方法はないかね? 」

「残念ながら私には思いつかないね。私の場合は同じ食卓に着いてもらえれば難しい」

「……リアの町の復興に貢献したエルゼリア殿が言っても信憑性に欠けるね」


 はぁ、と軽く溜息をついて私達は馬車に戻る。

 そして数日の旅程を終えて会談の場である海辺に着いた。


———

 後書き


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