第173話 海底国家とワタツミ王国と武器事情
スターチス・シフォン公爵はリア町長の館に泊るらしい。
よってスターチスにいつでも面会が出来るように手続きをした。
情報収集・情報交換を行う上で得た情報を使ってすぐに動けるようにするのは必要な事だ。
特に今回みたいに緊急時は。
「む? 魚人族かの」
「これまた珍しい種族と」
ということで竜の巫女に戻って談笑していたエルムンガルドとヴォルトに直接話を聞くことにした。
「魚人族は珍しいのか? 」
椅子を引き二人の前に座りながら聞く。
「ああ、言い方が悪かったですね。数が少ないというわけではありません」
「地上に出てくるのが珍しいという話じゃ」
「なるほどね」
「で、その魚人族がどうされたので? 」
「あぁ、実は——」
と事情を話す。
この二人が知らなかったら出たとこ勝負になるんだが……。
そう言えば——。
「魚人王? とかいうのはいないのか? 」
「魚人王はいませんね」
「あやつは
「海王か。随分と強そうじゃないか」
「強さは……、確かに強いですねぇ」
「しかしあいつは今どこで何をしているのやら」
エルムンガルドが思い出すかのように遠くを見る。
けれども少し気になる言い回しだな。
「その海王がワタツミ王国を治めているんじゃないのか? 」
「それは違う」
「エルゼリア殿。深海の国、というよりも海底には多くの国があります」
「へぇ」
「それこそ地上の国よりも多いかと」
地上の国よりも多い?!
それまた凄いな。
皇国「ヤマト」にいた時に海を見たことがあるが、まさに海は広しと言った感じだった。
まさかとは思うがあの海の下に多くの魚人族達の国が広がっているのだろうか。
「そして海王「ウ = オウ」はそのどの国も治めておりません」
「奴は自由気ままじゃからの。今も世界の海をただひたすら泳いでいるじゃろ。それこそ気分のままに、の」
エルムンガルドが笑いながら言う。
……変なやつだな。
いや種族王全員どこかずれている気はするが。
いやこれは今重要じゃない。
「じゃぁ魚人族について何か知っている事はないか? 」
「そうですね。確か独特な自己紹介の仕方がありましたねぇ」
「ワタツミじゃったかのぉ。「
「おおお。確かそうでしたな。ワタツミでしたね」
挨拶の仕方も聞いたことないやり方だな。
文化の違いがあると予想していたけれど、聞かなかったらわからなかった。
挨拶はもちろんだがちょっとした文化の違いで揉めて話がご破算、なんてことになったら目も当てられないからね。
全ては砂糖の為に。
「おお。そうじゃ。ワタツミに限らんが海底国家は鍛冶が苦手じゃ」
「鍛冶? 」
「うむ。想像してみるが良い。海の中で火が使えるかの? 」
「……出来ないな」
「金属が採れないというわけでは無い。むしろ多い。しかし火が使えんからの。金属を加工するために魔導錬金を使っておるみたいじゃ」
「魔導錬金で作ったものは基本的に
「……ん~。こっちから持っていったとして
「あちらで加工してもらえば良いかと。それに水圧に負けないよう独自の刻印魔法を使っていると思うので、下手にこちらで刻印魔法を
それは良い事を聞いた。
ならばこの案も入れてスターチスに報告するとしよう。
国交樹立がされると、砂糖の事も含めて私としても嬉しいし、努力は
もしかするとワタツミ王国とやらが国交を結びたいと手紙を送ってきたのは、案外武器類の事が関係しているのかもしれないね。
海の中にも魔物はいる。
ヤマトでは船が襲われたりと大変だったからな。
海の中に住む者にとって魔物の脅威は海の上よりも高いだろうし。
「土産は海の
「……採ってこいと? 」
「ソウの異空間収納があれば可能じゃろ? 」
「可能だがそんな暇ないと思うぞ? 」
「カカ。期待せずに待っておくとするかのぉ」
暗に採ってこいというエルムンガルドに苦笑いで返す。
そしてそのまま公爵に面会を求めた。
★
「武器類か。それは盲点だった」
シフォン公爵が腕を組んで考える。
ここはいつもの応接室。
けれどもこの館の主、リア町長はいない。
「どうする? 作って持っていくか、次の課題にしておくか」
聞くと「ん~」とさらに
まぁ実際悩ましいだろうね。
武器類と言っても様々だ。相手が剣を求めているのか槍を求めているのかわからない。
魔導錬金で素材を変形させて武器を作るという習慣があるのなら、もしかしたら私達の知らない形状や効果を持った武器が存在するのかもしれない。
わからないこと
代わらないけど。
「……話しを聞く限りだと、持っていかないよりかは持っていった方が良いだろう」
「続けてくれ」
「国交樹立に向けた話し合いをする手前下手な物を出すことは出来ない。話だけ持ちかけて次の課題にしておくという手も良い手だ。けれどもそれだと相手が次の会談までにこちらの武器や防具の品質や種類を把握することは困難だ。加えるのならば相手が緊急の課題を解決しないといけないのなら、どのような武器にどのような刻印魔法を刻むのか早く決めておきたいだろう。それらを踏まえると、出来れば幾つかサンプルを持っていきたい」
「なら調達しに行くか? 」
「しかし……私は鍛冶の事はよくわからないが間に合うのだろうか? まだ時間があるとはいえ迫っているのは事実だ」
一本だけならいけるかもしれない。
けれどもスターチスの言う通りサンプルとして出す武器の種類を考えると、時間が足りないかもだね。
幾つかに
「……流石に外交専用に作った方が良いか」
「武器を集めてそれを渡すというのも確かに一つの手だが、それだと国民にこれから何かあるのではないかと疑われてしまうかもしれない。いや武器を作るだけでも目立つが……」
「複数種類少数を作ってもらうのが一番か」
「エルゼリア殿の言う通りだね」
「ん~、私も鍛冶に詳しくないが、装飾なしで行くと間に合うか? 」
「海の魔物との海戦を想定しているのなら、むしろ実用性が重要になるだろうから……、よし。それで行こう」
公爵も考えをまとめたようだ。
ふぅ、と息を吐いて一息つく。
「で……どこの工房に頼むんだ? 」
聞くと空気が一瞬で張りつめた。
話し合いの再会だ。
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