第8章:アドラの森のエルゼリア
第171話 口は災いの元 1
ロイモンド伯爵がリアの町を出た。
何やら帰りはオリヴィア騎士団に護衛してもらうらしく、騎士オリヴィア達も一緒に出て行った。
最後に騎士オリヴィアがライナーに向けて「首を洗って待ってろ! 」と言ったのが微笑ましい。
ま、緊張の日々が終わりを告げたわけだ。
「おおっ。水が出てる! 」
「
「出来た」
「「「くま?! 」」」
竜の巫女の日常は落ち着きを見せて来た。
忙しいのは忙しいのだけれど休憩時間はゆっくりできるくらいにはなっている。
そこでヴォルトに魔法を教えてもらっているアデル達に魔法を見せてもらったのだけれど、意外な才能を見せたのはロデだった。
「……負けた」
「これは悔しいですね」
「……やった」
「なんでくまの形をした水球が……。というよりもこれは
アデルとジフが地面に手をつき落ち込んでいる中、私はロデの顔くらあるくまの水球を眺めて言う。
通常形状を維持しなくていい
ロデ。君は天才なのか?
「すごいな。いつの間に覚えたんだ」
「ん。見せるため」
「見せるため? 」
「彼女の為か! 」
「それは頑張らないといけませんね」
「ん」
彼女の為に頑張ったのか。
獣人族は総じて魔法が苦手とされている。彼はそれを乗り越えてこのくまの水球を作ったと思うとぐっとくるね。
「ならジフも頑張らないとな」
「え?! 」
アデルの言葉にジフが驚く。アデルの隣で精霊のジルーナもうんうんと頷いて頑張るように促している。
「彼女の為、彼女の為。ならジフもオレの為に頑張らないと」
「な、な、な……」
「~~~♪ 」
口は災いの元と「ヤマト」でいっていたが、まさにこの事だろうね。
顔を真っ赤にするジフを眺めながらもディナータイムの支度に戻った。
★
「エルゼリアさんは精霊魔法を使わないのか? 」
そう聞かれたのはロデのくま水球を見た翌日のこと。
いつものようにランチタイムの準備をしていた時、可愛い精霊を肩に乗せたアデルが聞いた。
「……見せたことなかったっけ? 」
「オレはないな」
「思えば私も見たことがありませんね」
「俺もないな」
レストランの皆がアデルの言葉にうなずいた。
そっか。なかったか。
いや思えば最近使っていない気がする。
「まぁ必要性を感じなかったからな」
「料理の時は使わないので? 」
「普通の魔法で
「魔境に行く時は使わないのですか? 」
「普通の魔法でどうにかなるし……、ソウがいるからな」
「どんな強敵も我にかかれば
「……本当に消し炭にしそうだから私が仕留めているがな」
「ド、ドラゴンの時は頑張っているのである」
ソウが
けどまぁソウがいるから魔境に入れるのはある。
恐ろしい所ではあるが、ソウが隣にいるかいないかで安心度は違う。
けれどその強すぎる力の庇護下にあるせいか、本来強いとされている精霊魔法を使う機会がないのも事実。
使わないに越したことは無いのだけれど、持て余しているのも確かだ。
「精霊魔法ってどんなんなんだ? 」
アデルがジルーナを肩に乗せて聞いてくる。
「あぁ~、エルムンガルドに聞かなかったのか」
「ああそうなんだ。あの時は他の事で頭がいっぱいだったから」
「なら仕方ないな。なら簡単に説明しようか」
とアデルに微笑みかける。
精霊魔法とはその名の通り精霊を介して使う魔法だ。
その威力は強大で、一般的に魔法と呼ばれている者とは一線を
精霊を介するといってもそこらへんにいる精霊では行えない。
きちんと精霊契約をした契約精霊を絆を通してでなければ使えない。
これは私の場合はソウ、アデルの場合はジルーナになるだろうね。
「使える魔法は精霊の種類によるからアデルなら火と水だろうね」
「複数契約している人はいるのか? 」
「いるぞ。私はソウだけだが、中には全種類と契約している人もいれば、同じ種類の精霊と複数契約している人もいれば」
アデルが「へぇ」と興味深そうにするとポコポコとジルーナがアデルを叩き始めた。
もう嫉妬するのか。
中々に成長の速い精霊だ。
「けど全体的に見るとそんなにはいないだろうね。というよりも複数契約できる人は少ない」
「そうなのか……」
「しかしそれだとエルゼリアさんが複数精霊と契約していないのは少し不自然ですね」
ウルル、鋭い。
「エルゼリアの契約など我一人で十分なのだ!!! 」
「という風にこいつが嫉妬して他の精霊が逃げていったんだよ」
「に、逃げてはおらん! 」
「最上位に位置する竜型の精霊獣に威嚇されたら堪ったもんじゃないよな」
「確かにそうですね」
「ウ、ウルル?! 我はそんなにも恐ろしい存在じゃないぞ?! 」
「アドラの森で他の精霊が近寄ってくれるようになるまで何十年必要になったのか、覚えていないのか? 」
「そ、そんな事実は記録にも記憶にもないのである! 」
「ならば私の記憶投影で見せてやろうか? 」
「や、やめるのである! 我の威厳が無くなるのである! 」
「そんなものとっくの昔に無くなってるよ」
がーん、と口を開けて落ち込むソウ。
少し可哀想だけど本当の事だからしかたない。
「精霊魔法を使うにはどうしたらいいんだ? 」
「精霊魔法を使えるようになるには、精霊との相性やコミュニケーションが必要だ。そして小精霊という……、他の魔法でいう所の魔力に当たる力を使い慣れないと使えない。だからアデルが精霊魔法を使えるようになるのはちょっと先かな」
軽く微笑みながらもアデルに「急がなくても出来るようになるさ」と元気づける。
ジルーナもいつの間にかアデルを叩くのをやめて「元気出して」と言わんばかりに気遣っている。
アデルもそんなジルーナの
これは思ったよりも早く精霊魔法が使えるようになりそうだ。
仲の良い二人のやり取りを見て、そう思った。
★
ランチタイムと昼食を終える。
片付けを行っている途中、ふと玄関の方から人の気配がした。
「どうしたんだ? 」
アデルが聞くと遅れてノックの音がした。
嫌な予感がする。トラブルの予感だ。
チラリとソウの方を見る。けれどソウは危険を感知していないかポリポリとジャガジャガを食べていた。
「出ないといけないよな」
独り
そこにはリア町長の館で働いているメイドがいた。
「お忙しい中申し訳ありません。リア町長が早急に来てほしいとの事で、館に来ていただきたいのですが」
……ほら厄介事だ。
———
後書き
第八章の開始となります!
続きが気になる方は是非とも「フォロー」を
面白く感じていただければエピソード下もしくは目次下部にある「★評価」を
ぽちっとよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます