第170話 深海の国「ワタツミ王国」との国交樹立に向けて

 マリアル・ロイモンド伯爵はリアの町での仕事を終えた後町を出た。

 今回の彼女の目的は、妹のように可愛がっているアリア・リア男爵の様子を見る事と噂のエルゼリアの人柄などを調べる事。そして種族王三人に再度挨拶することであった。


 マリアルは伯爵になってから休みという休みが取れなかった。

 その影響か本来報酬を与えるべき人物に会えることすらできず、またアリアの様子を見る事が出来なかった。


 ――今もマリアルの仕事量は変わっていない。


 けれどもある理由からリアの町を訪れる必要が出て、積み重なっていたやるべき事をすることができたのであった。


 (さて。騎士オリヴィアもこちら側に引き込めそうですし……、あとは議案を詰めなければ)


 カタコトと馬車が揺れる中、軽くカーテンを開けて外を走る軍馬を見る。

 軍馬に乗るのはオリヴィア騎士団。

 マリアルは騎士オリヴィアと共に町を出たのであった。


 これにはマリアルがもってきた手紙にある。

 そこに書かれていたのはオリヴィア騎士団がマリアル・ロイモンド伯爵を護衛しながら一時的に王都に戻る事。

 よってこうしてシフォン公爵領経由で一緒に王都エンジミルへ向かっていた。


 (さて。どの程度あのたぬきの影響力をげるかですが……、プリンの為にも頑張ってみましょう)


 リアの町で食べた甘く美味しいプリンを思い出しながら、マリアル達は王都へ向かった。


 ★


 王都エンジミルにある王城の会議室。

 そこには多くの貴族が座り会議を行っている。

 中でも異彩を放つのは、やはり国王サノ・エンジミル。次に目立っているのは隣で静かに金のティアラを被っているるエルフ族の女性だろう。


 ――モナ・エンジミル。


 この国の王妃である。

 長く薄い金髪とんだ青い瞳を持つ、少し冷たい雰囲気を漂わせる彼女がここにいるのは珍しい。

 基本的に彼女は会議のような場所にはでないからだ。


 見渡すと、いつもより異種族領主の出席者が多い。

 彼らは今回多様な知識が必要だということで王命により強制的に集められた。

 これらから異常事態であることは明白。

 けれども白熱した議論に終止符を打てるものはいなかった。


「入れ」


 急に会議室に響いたノックにサノが応じる。

 挨拶をし扉から入ってきたのはこの王城の騎士であった。


「マリアル・ロイモンド伯爵、並びに騎士オリヴィア・スカイフォードが到着しました」


 騎士が敬礼をして伝えると、会議室がどよめいた。

 遅れてきたことをとがめる者、来たことに忌々しく思う者、はたまたサノのように希望が見えたと言わんばかりに瞳に光をともす者等々。

 ともあれマリアル達は会議室へ足を踏み入れた。


「任務、ご苦労であった」


 その言葉にマリアルとオリヴィアを咎めていた者達が口を閉じる。

 雑音を気にせず二人は王に任務の完了と成果を伝えて自分の席に着く。


「さてこれで全員揃ったな。先程まで議論していたがここ一週間答えは出ておらん」


 サノの咎めるような言葉に空気が重くなる。

 けれど気にせず続けた。


「二人も着いた。よって議題のおさらいと行こうか。宰相さいしょう

「はい。今回の議題は「深海の国「ワタツミ王国」より申し出のあった国交樹立に関して」でございます。しかし問題はこれではありません」

「そうだな。国交樹立だけならば問題はなかった。いや教会勢力の介入が予想されるため問題がないことはないのだが……」

「ええ。本質的な問題は「ワタツミ王国が友好の証として贈るという「糖樹とうじゅ」という樹」についてでございます」


 宰相の言葉に空気が更に重くなる。


「再度聞きましょう。だれか「糖樹」という樹に関して知識のあるものは? 」


 宰相の言葉に誰も手を上げない。

 先ほどまで白熱した無駄な会議を繰り広げていた熱量はどこかへ行ってしまっていたようだ。

 過去最大といえるほどに各地の貴族を集めたのは、糖樹という未知の樹についての情報を得るためであた。

 けれども誰も知らない。違う名前で呼ばれている可能性もあり調べてみるものの、会議が進むにつれて樹の存在をすら疑われ、違う話に移ってしまっていたのだ。


 が、そこでマリアルが手を上げる。

 サノが発現を許可すると周りの者達がマリアルに注目した。


「世界各地を旅したという料理人「アドラの森のエルゼリア」殿いわく、その名の通り糖を成す樹とのこと。しかし――」

「馬鹿ばかしい! そんなものがあってたまるか! 」

「ネズ公爵!!! 発言を許可した覚えはない!!! 」

「~~~っ、失礼しました。陛下」

「今は少しでも情報が欲しい。ロイモンド伯。続けて説明を」

「はっ。では失礼して。この糖樹という樹でございますがとても希少な物であり、そして育成条件が厳しいとの事。外交に関する話まで踏み込むことが出来なかった為情報は以上になりますが、察するにまず人の手で育てるのは困難と考えられます」

「ならば魚人族の者達が糖樹を育成したのではなく、どこかでとったものを友好の証として渡してくる可能性があるということか? 」

「その可能性はいなめません。しかしこの場合国の品格ひんかくが疑われます。国交を結ぼうとしている国が率先してそのようなことを行うでしょうか? なので何かしら付加価値は付け加えていると思われます」

「……困ったな」


 サノは腕を組み額に手をやった。

 重い沈黙が会議室に広がっていく。


 彼らが困っているのは「返礼へんれい品」だ。

 贈り物として糖樹が贈られるのに対してそれと等価以上のものを送らなければならない。

 義務ではないが、そうしなければ国として格下と見られる可能性があるからだ。


「彼らは深海に住むと聞く。ならば深海で採れないような物が良い、か」


 再度サノが悩む。

 深海で採れないもの。これもまた彼を苦しめていた。ここにいる全員が魚人族に会ったことがなく、深海に、いや海にすら行ったことがない。よって何を贈ったら良いのかさっぱりであった。

 座る貴族の誰かが「貴金属が良い」や「同じく食料を贈るのはどうか」などと安直あんちょくな案を出す。

 どれもその領地を治める人物の特産品である。

 これ以上の案がなかったため結果として地上で採れる超高級品ということで宝石に収まったのだが、次は誰を代表で送るか議論になった。

 が、そこでマリアルが提案する。


「エルゼリア殿を外交官の補佐としてつけるのは如何いかがでしょうか? 」

「な?! 」

「何を馬鹿なことを」

「鎮まれ! 」


 一斉に騒ぎ出す貴族達をサノが一喝する。

 静まり返った所でサノが理由を聞いた。


「彼女は様々な知識を有しております。わたしも直接お会いしましたが、その知識量は計り知れませんでした」

「小娘が無知なだけであろう」

「……ネズ公爵。三度目はないぞ? 」

「……」

「……続けます。彼女は多くの種族、異形種と呼ばれる者達とも交流があります。彼女を補佐につけることにより、より円滑えんかつな外交が出来るかと」


 マリアルの提案に対して多くの外交関係の者達が反論した。

 けれどもマリアルとオリヴィア、そしてスターチス・シフォンによって封殺ふうさつされる。


 結果として本人の知らない所でエルゼリアは外交官補佐に着いた。

 がマリアル達は断片的な情報のみで見誤っていた。


 糖樹の本当の価値というものを。


———

 後書き


 こここまで読んでいただきありがとうございます!!!

 第七章も終了となりました。

 次話より第八章へ突入するのでよろしくお願いいたします!


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