第169話 女傑マリアル・ロイモンド伯爵の来訪 3 ヤマトプディング

 竜の巫女に戻ると笑い声が聞こえてくる。


「食堂の方か? 少し見ても? 」

「わたしの事はお気になさらず」


 お気になさらずと言われてもロイモンド伯爵は高位貴族。

 気にしない方が無理というもの。

 しかし了解は得た。

 食堂の方へ向かい扉を開けると、そこではヴォルトとエルムンガルド、そしてライナーが談笑していた。


「エルゼリアさん! 」

「お。アデル。これはどんな状況だ? 」


 三人から少し外れて様子をうかがっていたアデルに聞く。

 彼女は私の後ろに目線をやると少し目を見開いたけど、何も言わずに答えてくれる。


「お茶会みたい」

「いつものか」

「おお。世話になっとるぞ」

「……エルゼリア殿申し訳ない。エルゼリア殿をおうかがいしたのですが不在でして。なので途中見かけたアデル殿に入れていただいたのです」

「わりぃが中で話し合っていた所だ」

「話し合い? 」

「単なるお茶会のような、近況報告会のようなものですよ」

「じゃな。いつもは違う場所でやるのじゃが最近は竜の巫女でやっとる」

「俺達種族王が集まって駄弁だべるだけだ。ま、生存報告もねているが」


 普通は種族王が集まるってそれだけでも脅威なのだが?!

 けどまぁこの三人の仲の良さを考えると、こうして定期的に会っていたのも頷ける。

 確かライナーはヴォルトを頼って来たんだっけ?

 ならこのお茶会とやらも出席するだけでも有意義なのだろう。


「なにか出したい所なんだが……、悪い。今日は客人を連れてきているんだ」

「ほぉ。客人とな」

「珍しいですね。エルゼリア殿が客人を連れて来るとは」

「いつもは「連れて来る」じゃなくて「やって来る」だからな」


 ライナーが「ははは」と口を大きく開けて笑う。

 その声が聞こえたのか後ろからそっと彼らに挨拶をしたいとロイモンド伯爵が言う。

 振り返るとリア町長も軽く頷いていたので、私も彼女に頷いた。


談笑だんしょう中申し訳ありません」


 ロイモンド伯爵が前に出ると三人の目が彼女に向く。

 そしてロイモンド伯爵が挨拶を始めた。


「おお。久しぶりじゃの」

「お久しぶりです。マリアル殿」

「お久しぶりです。エルムンガルド様、ヴォルト様。そしてそちらの方は初めまして。わたしは――」


 思い返せばロイモンド伯爵はエルムンガルドとヴォルトと面識はあったな。

 確かあれは暗殺者を引き渡した時だな。

 その時ライナーはリアの町を守ってくれていたからあったことが無かったのか。改めて自己紹介をしている。

 

 彼女達ロイモンド伯爵家 (旧子爵家)がこの領地を運営していなければこの町がここまで発展することは無かっただろう。

 この領地の特色として様々な種族を受け入れている、という所がある。

 種族差別を領令で禁止しなければ、エルムンガルドやウルフィード氏族の人達がこの地に住むことは難しかったかもしれない。

 そう考えるとこの領地が発展したのは必然なのかもしれないね。

 流石に種族王が三人住むようになるとは思ってなかったとは思うけど。


「これからよろしくな! 」

「よろしくお願いしますね。エルゼリアさん。このあとお食事の予定でしたよね? 」

「あぁ。そうだが」

「ライナー様達とも親睦しんぼくを深めたいと思います。こちらでご一緒させていただいてもよろしいでしょうか? 」


 聞かれてチラリと三人を見る。


わらわは構わぬぞ」

ワタクシもでございます」

「俺も構わねぇ! 」

「……ライナーが不敬を働くかもしれん。私が見張っておきましょう」

「本当に正直じゃありませんね。ならば私はライナーさんを見張るオリヴィア団長を見張りましょう」


 それに軽く笑いながらオッケーを出す。

 そして私はスイーツを作りにキッチンへ向かった。


 ★


「黄色い……菓子かしのようなものかの? 」

「柔らかそうですね」

「美味そうだが……、強烈に甘い匂いがするな」

「いらないのなら私が食べるぞ」

「いらないなんて言ってねぇ」


 お盆に載せた黄色い菓子をアデルと一緒に置いて行く。

 ライナーが鼻をひくつかせると、騎士オリヴィアが突っかかり、それを呆れた様子で騎士エイミーが見ている。

 その様子を珍しいものを見るような目線でロイモンド伯爵が見てクスリと笑う。

 そんな彼女の前にも一つ置く。


「初めて見るものですね」

「確かに甘い香りがします」

「これは何というお菓子でしょう? 」

「これはプディング……、私はプリンと呼んでいる。元は皇国「ヤマト」の船乗りが作っていたものでな。それを改良した」

「知識が広いのですね」

「おかげであちこちに振り回されるのである」

「どちらかというと振り回されているのは私だが? それにソウはプリン、いらないのか? 」

「もちろん美味しくいただくのである!!! 」


 早く寄越せと言わんばかりに席に着くソウ。

 仕方なく彼の前にもプリンを出して全員を見渡す。


「では頂きましょう」

「「「恵みに感謝を」」」


 全員が口を合わせて食前の言葉を。


「ぷるぷるですね! 」

「しかし弾力がありますね」


 ロイモンド伯爵とリア町長がプリンをすくい持ち上げる。

 そしてパクリと食べて目を輝かせた。


「甘い! 今まで食べたことのない味です! 」

「ぷるっとした食感もまた心地いいですね」

「しかしこのずっしりとした感じ」

「黄金のお菓子と言われても納得がいきます」


 二人が一口食べると次々に口に運ぶ。

 本当の姉妹のように仲良く食べている様子は中々に新しい。

 これで二人の疲労が吹き飛んでくれればと思うが……、他の人はっと。


「カカ。これは美味い」

「ええ。しかし他にも何か手を加える余地がありそうですね」

「マジか、ヴォルトの旦那! これで未完成なのか?! 」

「いえこれはこれで完成形でしょう。しかしここからまだ発展の余地があると」

「くぅ~、食ってみてぇ」


 さ、流石研究肌のヴォルト。

 黙々と食べているエルムンガルドとは違って分析を始めている。

 正直ヴォルトの言う通りケーキを作る時の生クリームがあれば付け加えたりすることが出来る。

 けどそんなに砂糖は使えないんだよな。


「これは美味ですね」

「このようなものを食べたら他の甘い物を食べる事が出来なくなってしまう」


 騎士二人は感動ゆえか少しまぶたを閉じて涙を流していた。

 涙を流すほどではないとは思うけど、感動を覚える美味しさであるのは間違いない。


「おかわりが欲しいのである! 」

「もうないぞ? 」

「な……」


 そう言うとソウが絶望したような表情を浮かべた。

 大量に作れるはずがないだろ? と心の中で思いながらも食事会は進んでいく。

 結果的にロイモンド伯爵は三日間の滞在を終えて、リアの町を出て行った。

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