第167話 女傑マリアル・ロイモンド伯爵の来訪 1 移動
「そろそろだ……」
朝。いつものようにアデルに料理を教えている。
今日は蒸したジャガで作る家庭料理のようなもの。
アデルはレシピ通りに木で作った針で出来ているか確認している。
どうやら出来上がったようだ。
「出来た! 」
「ああ。あとは火傷をしないように皮をむくんだ」
「うん! 」
言うと小さなコックさんは大きく頷き早速皮をむき始めた。
この前ジフと付き合い始めたアデルだが、このままコック見習いを続けるのかどうか聞いてみた。
彼女はこのまま順当に行けば家庭に入るだろう。
そう思って聞いたのだけれど、それはそれらしい。
出来れば食堂でもやりたいとのことだったので今も弟子を継続中。
けれど将来役に立つように教える内容に時々家庭料理を混ぜている。
「お、
出来具合を確認。
これなら
コルナットの店で買った塩を軽く振りかけて、他の野菜の上に載せると出来上がりだ。
「さ、皆が待ってる。持っていこうか」
「はい! 」
そして私達は食堂へ向かった。
★
昼が過ぎ、ゆっくりと今日のディナータイムの事を考えていると玄関からノックの音が聞こえてきた。
「ノック? 」
「……厄介事の予感なのである」
「ソウと同じ意見なのが少し
バサバサッとソウが私の肩に乗り席を立って食堂を出る。
再度聞こえてくるノックに返事を返して扉を開けるとそこには見知った顔があった。
「ご
「リア町長の所の……」
文官だ。名前は知らないが。
「少しゆっくりとしたい気分なのですが……」
「なにか用事か? 」
「ええ。リア男爵閣下がお呼びでございます」
それを聞き少し
リア町長が呼んでいる。
いやそれはいいのだけれど彼女自身がこないということは忙しいのか他の理由か。
どちらにせよ最初の予想通り厄介事のようだ。
「わかった。今すぐ行く。けど時間かかるか? 」
「どの程度時間がかかるか私は把握しておりません。申し訳ございませんが……」
「となると行ってみないとわからないか」
「恐らく竜の巫女のディナータイムには間に合うかと」
「一応仕込みとかもいるんだがその時間もとれそうか? 」
「……わかりかねます」
これは店を閉めた方が良さそうだ。
文官君にちょっと待つように伝えて店の中へ行く。
今も準備をしている従業員達に今日は臨時休業にすることを伝えてラビに町の人に伝えるようにお願いする。
準備を整えて鍵を閉めた所で、文官君と一緒にリア町長の館へ向かった。
「おや。エルゼリアさんじゃないですか」
「ん? 騎士エイミーと騎士オリヴィアか。こんな所で
リア町長の館へ向かう道中、オリヴィア騎士団の二人に出会った。
けれど人数は二人ではない。
彼女達から一歩引いた所にいるリア町長の館で働いているメイドを含めて三人だ。
「二人もリア町長に呼ばれたのか? 」
「ああ。そうだ」
「なにやら紹介したい人がいるとかで」
「そうなのか? 」
歩きながら文官君に聞くとコクリと頷いた。
紹介したい人か。
なんで目的を教えてくれなかったのか気になる所ではあるが、この感じだとこの二人も詳細は知らないようだ。
何か厄介事なのか、それとも何か仕掛けているのか。
気になるが、行ったらわかるか。
歩きながら二人と話ながら館へ向かう。
聞くと魔境から帰ったあとはオリヴィア騎士団も時々魔境で
やる気に火が付くのは良いけど騎士エイミーが
これは相当魔境の洗礼を受けているな。
「いくらライナーさんと一緒に中層デートに行きたいからといって私達を巻き込まないでください」
「何を言っている?!
「皆分かっているのですよ。ライナーさんと中層で一緒に魔物狩りをやりたいって。だから私達を修錬という名目で魔境で腕を
「何勘違いしているんだ?! 本当に! 」
「隠さなくても良いんですよ。団長にもやっと春が来たと団員一同微笑ましく思っていますので」
「くっ……エイミーがいつも以上に話を聞かない」
「しかし出来ればもう少し行く頻度を下げていただければと。私達は団長のような超人ではないので」
「……十分に超人の領域に足を踏み入れているエイミーが言っても説得力がないな」
中層デート……。
なんだその嫌なデートは。
騎士オリヴィアはそんなものを考えていたのか?
魔境という場所は旅行するところでもデートをするところでもないぞ、騎士オリヴィア。
しかし……頭がぶっとんでいるな。
もしかしなくても騎士オリヴィアは脳筋というやつなのだろうか?
可能性はある。
むしろ、でなければ中層デートなんて思いつかない。
けれども恋に積極的なのは良いのかもしれない。
まぁ……私には縁のない話だが。
「お疲れさまです」
話していると館に着いた。
門番達が挨拶をして私達も答える。
いつものように中と連絡をとるのかと思ったが、館の職員二人がいるおかげで、今日はそのまま通してくれた。
文官とメイドに誘導される形で私達は館を歩く。
けれどいつもと違ってどこかピリッとした雰囲気だ。
一体誰を紹介するつもりなんだ?
私も少し緊張しながら応接室へ向かう。
メイドが部屋の扉を開けると中で待っていたのは笑顔のリア町長と、その隣に長く茶色い髪をもつ女性。
誰だ? と首を傾げながらも促されるままに二人の前に位置をとる。
「エルゼリアさん。急なお呼び出し、申し訳ありません」
「いや構わないが何か困りごとか? 」
「いえ実は今日、このリアの町にこられたおねえ……、コホン、マリアル・ロイモンド伯爵様を紹介したくお呼びいたしました」
マリアル・ロイモンド伯爵。
前にリア町長が言っていたこの地の領主か!
それに気づいて顔を上げる。
身長は平均的で服装も貴族というよりかは町の人を思わせるもの。
おっとりとしたイメージを受ける彼女が一歩前に出て口を開く。
「先ほどリア男爵から紹介のあったマリアル・ロイモンドと申します。爵位は伯爵ですがどうか
イメージ通りおっとりとした口調で自己紹介を行う彼女の姿は、どこか疲れた様子だった。
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