第159話 オリヴィア騎士団がいる日常

 騎士オリヴィアとライナーの喧嘩は一旦収まった。

 けれども騎士オリヴィアはライナーを異様に敵視するようになり、ライナーも彼女に突っかかるようになった。

 最初は彼女の部下達が止めていた。

 けれども何度も続くと、気のせいか温かいものを見るような目で二人を見ている気がする。


「今日もスクランブルエッグトーストが美味しいですね」

「この町を満喫まんきつしてくれているようでなによりだ」

「エルゼリアさん。今度料理を教えてくれませんか? 私結婚するんです。それで……」

「あぁ申し訳ないが今はこの子で手がいっぱいなんだ」


 騎士オリヴィアとライナーが喧嘩する声が外から聞こえる中、私はアデルの頭にポンと手を置いた。

 アデルを紹介するとオリヴィア騎士団の人もすんなりと諦めてくれた。

 アデルを見ると少し顔を赤らめているけれど、どこか誇らしそうな顔をしている。


「こちらのフルーツも素晴らしいですね」

「とても甘々です」

「噛むと果汁が弾けます! 」

「しかしこのお値段で大丈夫なのでしょうか? 」

「一つの果実を分けて出して価格を抑えているから大丈夫だ」

「何故そのようなことを? 」

「出すならより多くの人が食べれた方が良いだろ? 」

「単に加工されて出されていただけとばかり……」

「少し恥ずかしくなりますね」


 オリヴィア騎士団の団員がデザートを口に頬張りながら聞いてくる。

 ま、ちょっとした一手間だ。

 この一手間のおかげで彼女達の幸せそうな顔が見れるのならば手間をかけた甲斐かいがあるというもの。


「さて。私達はそろそろ団長を連れて帰りますね」

「もう帰るのか? 騎士エイミー」

「ええ。明日の事もありますし」

「明日? 」

「私達はシフォン公爵領の方面から来ました。その時に賊を討伐したのですが、今度はレアの町方面も行ってみようかと思いまして」

「賊を討伐してくれるのか? 」

「いればの話ですが」


 騎士エイミーが不愛想ぶあいそうな表情でいう。

 レアの町方面もやってくれるのか。

 それはありがたいな。


 盗賊の討伐依頼で最もメジャーなのは冒険者ギルドに依頼することで、次が騎士による巡回。

 町長が冒険者ギルドに依頼を出すとなると高額になるが、今回彼女達は王命で町周辺の賊の討伐を行っている。

 彼女達の生活費もだが、賊討伐にかかる費用は国から出るみたいだから、この町にとってありがたいこの上ない。


 オリヴィアがライナーに負けたことを除くと、今の所彼女達は負けなし。

 負傷者一人すら出さずに十数の盗賊団を潰している。

 一見すると学生のような姿の彼女達だがその実力は本物だったということだ。


「ま、よろしく頼むよ」

「頼まれました」

「美味しいお昼、ありがとうございました! 」

「デザートも美味しかったです! 」

「これで今日も頑張れそうです! 」

「ならよかった」

「ではお会計を」


 女子会を終わらせた騎士エイミーがお会計を済ませて彼女達が外に出ると、喧嘩する声が聞こえなくなった。


 本当にあの二人は相性が悪いな。


 ★


 オリヴィア騎士団の人達がこの町に来た目的は町の視察と周辺に潜伏している賊の討伐だ。

 けれど全員がそうであるというわけでは無い。

 聞くと町の視察を命じられているのは騎士オリヴィアと騎士エイミーのみ。

 他の皆は二人に呼ばれて集まっただけのようだ。


「この町は活気があっていいな」


 今私は騎士オリヴィアと町を歩きながら視察に同行している。

 同行といっても彼女の買い物について行っているだけ。

 彼女達が住んでいる宿から始まり今は市場にいる所だ。

 因みに騎士オリヴィアは幾つか可愛い系のガラス細工を買っていた。


「視察と聞いていたから緊張したが、こんな感じで良いのか? 」

「あぁ……。実の所視察というのは建前たてまえのようなものなんだ」

「建前? 」

「私が以前よりエンジミル国王陛下に成功を収めているこの町を見て回りたいと申請していてな。視察という名目めいもくになっているが、その実は私の勉強のための派遣といった所だ」

「それで他の団員達は自由に過ごしているという訳か」


 その通り、と騎士オリヴィアが答えて話を続ける。


「私はこれでも領地を預かっている領主だ。領地を発展させたい、そう考えるのは自然だろ」

「そうだな」

「ということで領地や町を活気つけるいい案があれば教えていただきたいのですが」

「それは聞く相手が違うんじゃないか? 騎士エイミー」


 騎士オリヴィアの隣から騎士エイミーが聞いてきた。


「リア町長にも話は聞きます。けれども町の人に聞く限りだと、エルゼリア殿がこの町が復活する起因となったのは明白です。どのようにしてこれほどの復活を成し遂げたのか、ここは一つヒントでも」

「と言われてもなぁ……。私は料理を振る舞っていただけだし」


 頭をがしがしとしながら質問の答えを考える。

 確かに私はこの町にとってイレギュラーな存在だっただろう。

 加えてそれが良い方向に向いて復活に至ったのも確かだ。

 けれども私一人の力ではない。

 この町の人達があってこその復活だ。

 

 それにこのパターンを彼女達に当てめても良いのかという問題もある。

 環境も異なれば治める領地に住む人の性質も違う。

 この二人を見る限り獣人族達のような異種族に偏見へんけんがあるようには見えない。けれどそれはこの二人を見ての感想で、領地の人がどうなのかはわからない。


「……いていうのならば色眼鏡で人を見ない事かな」

「私達はそのようなことをしている気はないのだが」

「それは知っている。けれど領民は違うかもしれないだろ? 」


 騎士オリヴィアに言うと「ぐっ」と言葉に詰まった。


「確かに私がこの町の復興の起爆剤になったかもしれない。けどそれはこの町の人達がお互いを尊重そんちょうしながら飢えに耐えたおかげだ。それを忘れてはいけない」

「ふむ」

「この町がいくら貧しくなっても町の人は出て行かなかった。それは歴代のリア町長の手腕だろうし人柄だろう。どんなことがあっても人が出て行かないような領地運営を目指せばいいんじゃないのか? 」


 言葉にして、それがどれだけ難しいのか再認した。


 振り返るようにオリヴィア達にいったが、これかなり難しいぞ?

 最初町に着て町の人に「何故この町から出て行かないのか」と聞いた時、「この町が住みやすいから」と言っていた気がするが、それだけでは飢えに勝てるとは思えない。

 やはりリア一家の存在が大きかったのだろうね。


「人を呼ぶのではなく人が出て行かないようにする、か」

「外から多くの人がやって来る魅力的な領地というのも良いと思う。けれど領地を盛り上げるには住む人の手が不可欠だろ? 」

「確かに」


 騎士オリヴィアが深く考える素振りを見せる。

 騎士エイミーは相も変わらず不愛想な顔をしているがどこか思う所があるみたいで。


 そんな二人を連れながら私達は町を散策した。

 ……因みに二人は多くの商品をお買い上げだ。

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