第158話 オリヴィア・スカイフォード、来訪 4 決闘

「……ライナー。何がどうなったら決闘騒ぎになるんだ? 」


 夜、騎士オリヴィア達が帰った後、私はライナーを尋問していた。

 尚決闘を吹っかけた本人騎士オリヴィアは帰り際に相当騎士エイミーに怒られていた。

 その時の彼女の姿はライナーに決闘を申し込んだ時とは打って変わって白くかすんで見えたから不思議だ。

 ペチュニアが騎士エイミーを「制御役」といっていたことがに落ちた。

 が――。


「話している時によ。アダルト・エレファントの話になってな」

「それで? 」

「近くにある魔境の中層にいるって教えたんだよ。するといきなり自分達も行きたいって言ってな。それを止めたら、これだ」


 やれやれと首を振るがあの様子だとそれだけじゃないと思うぞ?!

 そもそもそこからどうやったら決闘騒ぎに発展するんだっ!

 

「全くこっちは遊びで行っているわけじゃないのにな」


 いや結構ライナーは氏族の若い者を育てるとか言って、半分くらい遠足気分で行っている気がするんだが。

 がツッコミたい気分を抑えてライナーの様子を見る。


 私は事の経緯けいいは知らない。

 ライナーとかなりやりとりしたけど、これ以上何も出てこなさそうだ。

 出来れば穏便おんびんに話し合いで収まってくれると嬉しいのだが、相手が「貴族」で「決闘」になったのだ。それをくつがえすことは難しいだろ。

 ならば相手を傷つけない方向で対処しないと。


「決闘で力を抜く?! それは相手に失礼だろ! 」

「……ライナー。短い付き合いだがお前の力はよく知っている。ライナーが全力でやるとどうなるか簡単に想像ができる。ここは、抑えてくれ」

「だがよ……」

「決闘騒ぎを起こしたのは誰だ」


 ジト目でライナーを見ると気まずそうに目線を逸らされた。

 やって来た貴族を惨殺ざんさつ死体で国に返すわけにはいかない。

 本当に全力を出さないでくれよ、ライナー。


 ★


 種族王という存在は強大な力を持つ。

 それゆえ「王」なのである。

 力弱き種族王はあり得ない。力が弱くても何かしらの「力」にひいでていることが多いと聞く。

 つまり何が言いたいのかというと――。


「勝者、ライナー・ウルフィード」


 閃剣オリヴィアは一瞬にしてライナーに敗北した。


「大丈夫か? 」


 地にせている騎士オリヴィアに声をかける。

 これは大丈夫そうではないと思い、肩の上にのっかるソウに目配せする。

 軽く溜息が聞こえたと思うと、ソウが騎士オリヴィアの周りをくるりと回り回復魔法をかけた。


「?! 私は一体……」

「ライナーに瞬殺されたんだよ」


 死んではいないが、と付け加えて起き上がる騎士オリヴィアに教える。

 周りがシーンと鎮まっている中騎士オリヴィアは「そんなはずは」と呟きながらライナーを見る。

 ライナーは「どうしたもんか」とぶつぶつ言いながら頭を掻いていた。


 確かに彼女は速かった。

 流石「閃剣」の二つ名を持つ者だとおもう。

 けれどそれは常人の範囲内。

 彼女が木剣を手に取りライナーに突きをしようとした瞬間、ライナーはそれをはるかに上回る速さで彼女の腕を取りくるりと投げた。

 そしてそのまま気絶というわけなのだが、と周りを見渡す。


 この場にウルフィード氏族の人達はいない。

 見に来たいと言っていたけど仕事に行けとライナーに一喝されて渋々仕事に行ったからだ。

 それもあってか取り囲むのはオリヴィア騎士団の人達。

 全員唖然あぜんである。


「……どうやら足が滑ったようだ。武具は毎日欠かさず手入れをしていたつもりなのだが、やはり実践から遠のき過ぎたらしい」


 あ、認めない感じだ。


「もう一回、勝負だ!!! 」


 オリヴィアはライナーに木剣を突き立て再度勝負を挑んだ。


 そして負けた。


 何度も投げられては勝負を挑む。

 その繰り返しをしているとテクテクと青い髪の女性——騎士エイミーが向かって来る。

 私の隣まで来るとペコリと頭を下げて来た。


「申し訳ありません。勝負は決まっているのに」

「はは。まぁ……仕方ないよ。出来れば止めてほしいのだが」

「無理ですね。いつもは制御しやすいのですがここまで周りが見えない状態になると、私の言葉は届きません」


 厄介だな。


「後学の為に何をされているのか教えていただいても? 」

「あんな高速戦闘。料理人の私がわかるとでも? 」

「追えていますよね? 」


 すっと目を細めて聞いてくる。

 何やら私が見えている事を確証しているようだ。

 まぁ隠すほどのものでもない。なので彼女にライナーがやっていることを教えた。

 すると彼女はまた投げられている上司をみて「なるほど」と呟いた。


「やはり私の目では追いきれませんね。団長の動きは何とか追えるのですが気付くと地面にのされています」

「元々ハイスペックな人狼族だ。それに彼は種族王。気にする必要はないと思うのだが」

「種族王?! 」


 表情変化にとぼしかった騎士エイミーの表情に驚きが見える。

 あれ、昨日言わなかったけ?


「人狼族としか……」

「これは失敗したな。けど昨日リア町長が言った通り彼らはこの町を盛り上げた人の一員だ」

「そこに関しては疑っていませんが」

「ん? そうなのか? 」

「事前に陛下より種族王お三方に失礼のないようにと通達つうたつがありましたので」


 言いながら騎士エイミーはまた投げられているオリヴィアを見る。


「めっちゃ失礼しているな」

「……申し訳ありません。因みに確認させていただきたいのですが、ヴォルト殿やエルムンガルド殿も……」

「ああ。不死王に精霊女王だ」

「やはり、ですか。これは総出でストップをかけないといけませんね」


 言うと周りを囲んでいる騎士達に向く。

 手を後ろで組んで、「すーーーー」っと大きく息を吸う。

 そして声を、放った。


「総員! オリヴィア騎士団長を止めよ! そのお方は陛下より失礼のないよう厳命されていた人狼王様だ! 」


 大きな声が庭に響く。

 試合を見届けていた団員達が一瞬戸惑ったように見えたが、すぐに返事をする。

 そして今も飛びかかっているオリヴィアを抑えに行った。


 ★


「大変申し訳ない」

「いや気にするなって」

「この罪は我が命で」

「ちょ、やめっ! 」


 王命違反で自決じけつしようとするオリヴィアをライナーが止める。

 けれど彼女は気が済まないのか平謝り状態である。


「オリヴィア団長は陛下に恩義おんぎを感じておりますので、普通の貴族よりもエンジミル国王陛下の事になると過激になるのです」

「……過激すぎだろ」


 謝罪を繰り返すオリヴィアにどうしたらいいのかわからないライナーを見てそう思う。

 しかし、恩義を感じているか。

 恐らくライナーに対して謝っているというよりかは、自国の王に対して謝っているような感じだ。

 貴族として正しいのだけれど、どこかずれていると思ったりもする。

 が――。


「それは聞き捨てならん! もう一回言ってみろ! 」

「なんだこの直情女! ゼロと百しか覚えてねぇのかよ! 」

「貴様に言われたくないわ! 」

「俺はお前と違って加減が出来る! さっきだってかなり加減したんだぞ! 」


 あ、これはまずい。


「き、き、き……」

「き? 」

「貴様もう一回勝負だ! 我が剣で泣かせてやるわ! 」


 オリヴィアがライナーに木剣を突き立てた。

 あ~、また振り出しか。

 全くもって相性の悪い二人だな。


「「はぁ……」」


 私が溜息をすると、隣から溜息が聞こえてくる。

 私と騎士エイミーの心はきっと同じだっただろう。

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