第157話 オリヴィア・スカイフォード、来訪 3 ディナータイム

 何故か私のレストランでオリヴィア騎士団をもてなすことになった。


「いやこの町で竜の巫女ほど人をもてなすことにてきした場所はないとおもうがのぉ」


 レストランの食堂でエルムンガルドが言う。

 それに同意するかのように他の面々も頷いた。


「いやリア町長の館でもてなすのが普通だろ? 」

「エルゼリアはこういう時の為にバーを作ったのではないか? 」

「確かにそうだが早すぎる。それにいきなりもてなせと言われても……」

「急な注文はこれが初めてじゃないのである。エルゼリア以上の適材てきざいはいないのである」

「うぐ……。しかしソウは今日、やたら褒めるな」

「国からの使者となると相応そうおうの料理を出さないといけなくなる。よって一緒に美食が食べられるかもしれないのである! 」


 ブレないなぁ~。


 溜息をつきながら椅子の背もたれに体重をのせる。


 確かに客観的に見れば私の他に適任者はいないだろう。

 というよりも普通の町に貴族をもてなす設備がある所の方が少ないと思う。

 本来ならリア町長がそう言った事態に備えてコックなりを館で雇っておくべきなのだろうけれど、そのコックが「エルゼリアさん以外に適任者はいません」とさじを投げてしまった。

 呆れながらも引き受けてしまったのが運の尽きか。


「何を出すべきか」

「やっぱりアダルト・エレファントの肉だろ」

「それはライナーが食べたいだけでは? 」

「バレたか」


 ライナーが笑うとエルムンガルドが提案する。


「ならば新鮮なフルーツはどうじゃ? 」

「それは良いな」

「ワインも欠かせないでしょうね」


 ヴォルトも案を出してくれる。


 次々に出て来る案に頼もしく思いながらも纏めて行く。

 結局の所アダルト・エレファントの肉も出すことになった。

 今の所魔境で採れる上位の肉。

 ライナーの私欲はおいても、喜ばれるに違いない。

 だが問題は数だ。

 町長の館から帰る時、オリヴィア騎士団とやらをみたがかなりの人数。

 果たしてバーに全員入れることができるか。


「全員入れる必要はないでしょう」

「そうか? 」

「今日は貸し切りにする予定なのでしょう? ならば普通の団員には第一と第二食堂で食べてもらい、騎士団の上位者には第三食堂で食べてもらうのがいいかと。バーはその後騎士オリヴィア側と町長側の会談の場を作る意味で開くのがいいかと」

「流石ヴォルト。冴えてるな」

「お役にたてたようでなによりです」


 方針は決定した。

 あとは仕込みをして料理を振る舞うのみ。

 気合いを入れて行こうか!


 ★


 夜。レストラン「竜の巫女」はいつもと異なった雰囲気を出していた。

 いつもの竜の巫女は大衆食堂のように騒がしい。

 あちこちで黄色い声が聞こえてくるが、雰囲気はかなり落ち着いていた。


「美味ですねぇ」

「時にはこういった落ち着いた雰囲気もいいのじゃ」

「俺は豪快に行きたいがな」


 骸骨姿のヴォルトは貴族を思わせるような所作しょさで、エルムンガルドはゆっくりと、そしてライナーが大声で笑いながら食べている。


「お口に合いましたか? 」


 私がオリヴィアに聞くと音を鳴らさず食器を置く。

 軽く口元をくとゆっくりと私を見上げた。


「素晴らしい、の一言に尽きます」

「肉とは思えない芳醇ほうじゅんかおりに噛んだ感触の無い程に柔らかい肉。口の中に広がる肉汁も素晴らしく……、正直食べたことがありません」

「肉はアダルト・エレファント。正直エルダー・エレファントがいないか探していたんだが、残念だったぜ」


 ライナーの言葉にオリヴィアとエイミーがピクリと眉を動かし、肉を見た。

 そこには普通のブル系の魔物とかわらないように加工されたアダルト・エレファントがいるのだけれど、正体に気付いて顔を引くつかせている。


「失礼だがアダルト・エレファントと聞こえたのだが」

「……間違いありません」

「聞き間違いではなかったか」

「エレファント種は筋肉質で調理できるものがいるとは聞いたことがないのですが」

「エレファント種は確かに筋肉質です。しかし絶妙な温度で焼くことにより一気に柔らかく甘みを出す肉へと変貌いたします。今食べているもののように」

秘匿ひとく技術では? 」

「いえ少なくとも私は秘匿しておりません。調理できるものがいないというのは恐らくしんまで届かせるほどの火力を保てるものがいないだけかと」


 質問をしてくるエイミーに答えて微笑む。

 できるものならやってみろ。

 ソウのブレスレベルの火力を、満遍まんべんなく均一にエレファント種に放てる魔法使いを見たことがない。


「この地で採れたアダルト・エレファントを外に輸出することは? 」

「それはご勘弁いただけたらと。可能ならばこの地で研鑽けんさんを積んで欲しく思います」


 リア町長がエイミーにはっきりという。

 エイミーも本気でなかったのか特に気にした様子はない。


 まぁ入荷できても調理できる人はあまりいないだろう。

 それにさっきの言葉には入荷が難しいアダルト・エレファントを外に出したくないという、リアの町の本音も含まれている気がする。

 もし注文があったらウルフィード氏族の連中が悲鳴をあげるだろう。


「ご馳走様でした」

「美味しい料理をありがとうございます。シェフ・エルゼリアに感謝を」


 食べ終わった二人の食器をウルフィード氏族の二人が下げていく。

 そして私とリア町長はエイミーと共にBAR「竜の巫女」へ向かった。


 騎士オリヴィアは「え、私は? 」といった表情をしているが、交渉事は冷静な人の方が良いんだよ。


 ★


「改めましてお礼を」

「ここへ来る途中に討伐しただけなのでお気になさらず」


 政治的な話をしている二人の元へ注文を届ける。

 少し目を見開いてエイミーが私を見上げた。


「バーテンダーも出来るのですね」

「経験があるだけですよ」

「……非常に気になりますが、今はおいておきましょう」

「ご配慮はいりょ感謝いたします」


 ニコリと口元を緩めてカウンターに戻る。


「やはり騎士団の設立が必要ですか」

「この町が発展しているのはよくわかります。しかし同時に盗賊の良いまとになっているのも事実。何故かはわかりませんが、町の治安は護られている印象でした。が街道となると――」


 どうやらリア町長に騎士団を設立しないかという話らしい。

 私としては賛成だ。

 騎士の街道の巡回は、この町のみならず他の町にもいい影響を及ぼすだろう。

 幸い町の発展に伴って資金は潤沢じゅんたくにあるはず。

 設立するのならば今しかない気がするが……、こういうのは町長の領分りょうぶんだな。

 考えても、私が口出しすることではない。


「話しは終わりました。戻りましょう」

「私もオリヴィア団長が気になりますので戻ります」


 そう言い席を立つ二人について行く。

 扉を閉めて、第三食堂を開けると何やら大声が聞こえてくる。


「この粗暴なやからめ!!! 決闘だ!!! 」


 騎士オリヴィアがライナーに喧嘩を吹っかけていた。


 ……何やってるんだよ。


———

 後書き


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