第156話 オリヴィア・スカイフォード、来訪 2 面会

 半ば強引に私達はリア町長に連れられて、館の応接室でオリヴィア・スカイフォードとやらを迎えていた。

 メンバーは私とソウと種族王三人。

 この強引さは町を導いていくのに必要だが、今発揮しなくてもと思う訳で。

 合理的に考えるとヴォルト達三人が無害であることを外にアピールするチャンスだからここにいるのは有意義だ。

 けれども何やら怯えた様子の赤い髪の女性と青い髪女性をみると、不憫ふびんでしかならない。

 逆に、私に泣きついてきた時の様子はどこへやら。

 今のリア町長には余裕がある。

 本当に、大物だ。


「コホン。では改めまして自己紹介を」


 リア町長が軽く咳払いをすると緊張が走る。


「私はエンジミル国王陛下よりこの町を任されておりますアリア・リアと申します。スカイフォード卿の御高名はかねがねうかがっております。短い期間ではございますが、よろしくお願いします」


 リア町長、なんか成長してる!

 いや色んな事があったから成長はするだろうけど、私と最初会った時とは大違いの挨拶だ。


 が彼女の本心を知っている私としては内心「嘘をつけ」とも思う訳で。

 リア町長の茶色い髪を見下ろしながら、そう思った。


 ジト目を送っていると彼女の自己紹介に促される形で直立している二人が自己紹介をする。

 長身で赤く長い髪と豊満な胸を持つのがオリヴィア・スカイフォード騎士爵で、逆に低い背丈せたけで短く青い髪を持つぺったんこがエイミー・ウォード騎士爵か。

 終わるとリア町長が少しずれて私達に振り向いた。


「こちらの方々はこの町の復興に貢献こうけんしてくださった方々で、ご紹介できればと思い同席させました。構いませんよね? 」

「か、構わない」

「異論は御座いません」


 騎士オリヴィアは感情を隠すのが苦手なのか動揺が声に出ている。

 一方で騎士エイミーは上手いみたいで顔から一切の表情が読めない。


「では自己紹介を」

「え? 私達もやるの? 」

「はい! 」


 物凄く良い笑顔だ。


「我は精霊獣、ソウである!!! 平伏ひれふすがいい!!! 」

「いやどんな自己紹介だよ! 」


 いきなりのソウの暴走に怒鳴りつける。


「私の契約精霊が申し訳ない。こいつは見ての通り精霊獣の「ソウ」で、私はレストラン「竜の巫女」でシェフをしているエルゼリアだ。よろしく」


 取りつくろいながらも自己紹介をする。


ワタクシはパン工房を営んでいる不死族のヴォルトと申します。以後お見知りおきを」

わらわは精霊族のエルムンガルドじゃ。よろしくの」

「俺は人狼族のライナーだ。よろしく頼むぜ」


 続いてヴォルト達が自己紹介。

 私が自己紹介をした流れに乗ったようだ。

 ちゃっかりしているな。


「挨拶も済みましたし今後の予定を確認させていただいても? 」


 ライナーの自己紹介が終わると止まることなくリア町長が話を続ける。

 オリヴィアはごくりと息をのんでふところに手をやり書類のような物を出す。

 リア町長に渡すと、リア町長はそれを読んでくるっと巻き、それを文官に渡した。


「確認しました」

「私は領地を運営している。だがまだまだ未熟で一つ上の段階に行くことが出来ないでいる。そこでこの町をここまで盛り上げた貴君の手腕を学ばせてほしい」

「ご存分に」

「ありがたい」

「なお我々が滞在する上での生活費等は国から出るようになっています。のちにご確認を」


 と政治的なやり取りを幾つかしている。

 これ私達いったか?

 そう思うような堂々としたやり取りだ。


 話は続き一区切りついた。

 そして夜、オリヴィア騎士団一行は竜の巫女に来ることとなった。


 ……なんでだ。


 ★


「……ぷふぁ! 何だあの化け物は」

「信じられない力ですね」

「見た瞬間死を覚悟したぞ」

「私としては団長が敵対的な行動に出なくて助かりましたが」

「教わりに行く立場で敵対的な行動に出られるものか。それに敵対したら一瞬で死ぬ」


 エルゼリア達と別れたオリヴィアとエイミーは部下を連れて、一旦リア町長の館を出て宿に向かっていた。

 オリヴィアとエイミーはオリヴィア騎士団でも一つや二つ頭が抜けた実力者である。

 中途半端だが人外の領域に足を踏み込んだ彼女達は、エルゼリアを含む膨大な力を持つ者達の力を感じとる事が出来ていた。


 そのせいかリア町長と話している時顔を青くし、冷や汗を垂れ流していた。

 まだ止まっていない。

 そんな二人を気遣うように部下の一人が声をかける。


「何かあったのですか? 」

「いやそんなことはない」

「今晩はレストランでディナーになります。美味しい所らしいので期待しましょう」


 エイミーが話題をずらし部下達は二人の心の内を知らずに歓喜の声を上げる。

 がオリヴィアは小さくエイミーに声をかけた。


「あそこは魔窟まくつか? 」

「ボケたのですか? あそこはリア町長の館ですよ。いえまぁ言いたいことは分かりますが」

「あの人外をまとめ上げているとは……。流石というべきか」


 またもやリア町長の知らない所で彼女の評価が上がっていた。


 オリヴィアとエイミーは異形種だからということでヴォルト達を忌諱きいしているわけでは無い。

 実力差。圧倒的なまでの実力差を肌で感じて警戒しているのだ。

 そしてその癖のある人物をまとめ上げているリア町長に畏敬いけいねんを抱いていた。


「レストランは、あのエルゼリアという銀髪エルフが運営しているらしいな」

「そのようですね。しかしどこかの国の魔導師団師団長でなく料理人ですか。料理されるのは私達かもしれませんね」

「こういう時にやめてくれ。冗談が冗談に聞こえない」

「……余程余裕がないのですね。珍しい」

「そういうエイミーだってまだ震えてるじゃないか」

「これはまだ見ぬ美食とやらに対する武者震いというものです。オリヴィア団長のように怯えているわけではありません」

「な?! 私が怯えているだと?! いつ、どこから! 」

「……リア町長の前で獅子の前に放り出された子犬のように怯えていたじゃないですか」

「そんなことはない! 前言撤回を要求する! 」

「なら堂々としていてください。貴方は私達の憧れなんですから」

「……こんな時だけ都合の良いことを言う。だがまぁ、そうだな。弱音を吐くわけにはいかない。エイミー達の為にも、そしてこの機会を与えてくださった陛下の為にも」

あいも変わらず陛下にぞっこんですね」

「それは違う。恩人として、うやまっているだけだ」


 そう言うと前を向き少し懐かしむようにオリヴィアは少し遠くを見た。

 けれど一瞬。

 そのまま団員を連れて宿泊施設へ向かった。


 もうオリヴィアは、震えていない。

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