第155話 オリヴィア・スカイフォード、来訪 1 到着

 転移魔法でリアの町に戻る。

 最初に設定していたヴォルトのパン工房の中に転移成功したことを確認する。


「じゃ、また明日」

「明日もよろしくお願いします」

「クッキー! 我は早くクッキーが食べたいのである! 」


 食いしん坊な精霊様に私とヴォルトは苦笑して、別れる。

 まだ日が高い中裏口からレストランに入り約束のクッキーを作ろうキッチンに向かう。

 けれども――。


「エルゼリアさん! エルゼリアさんはいらっしゃいませんか! 」


 聞き覚えのある声が玄関先から聞こえてきた。


 ★


 リア町長とコルバーを中に入れて食堂に誘導する。

 一息ついてもらい話を聞くことに。


「先日、このような手紙が」


 とリア町長が震える手で手紙を渡してくる。

 中を見ていいのかとコルバーに目配せして確認をとるが、どちらともいえないような表情。

 ま、このまま放置しても話は先に進まないなと思いそれを受け取り中身を読んだ。


「へぇ。正式にオリヴィア・スカイフォード騎士爵がやってくるのか」

「……慌ててませんね? 」

「そりゃぁな」


 手紙を返して今日聞いた話をリア町長に伝える。

 すると頭を抱えて机に突っ伏した。


「何で……。何で私の知らない所で公爵領に行ってるんですか」

「お嬢様。それだとお嬢様が理不尽な存在に聞こえますよ? 」

「だってぇぇぇじい。何でいつの間にか砂糖がくるようになったと思えばエルゼリアさん関係じゃないですかぁぁぁ! 嬉しいですけどっ! 嬉しいですけどぉぉぉぉ!!! 」

「気持ちは分かります。しかしエルゼリアさんの理不尽さは今に始まったことではありません。それに物事は良い方向に捉えないと胃が持ちませんよ? 」

「軽くコルバーにけなされた気がするが……、コルバーの言う通りだ。それに手紙を読む限りだとある程度この町に泊まって周りの賊を討伐してくれるみたいじゃないか。どこに不満がある? 」

「社交界でも恐れられるスカイフォード卿ですよぉぉぉぉ!!! 不穏分子として私の首を取りに来たと言われても納得しますよぉぉぉ!!! 」


 そんなに恐れられているんだと思いながらも、まだ見ぬオリヴィア・スカイフォードなる人物に顔を真っ青にしているリア町長から目を離す。


 良くも悪くもこのリアの町は急激に発展した。

 食べ物が無く治安は最低の状態から様々な物が行きかうようになった。

 けれどもそうなってくると問題になるのが街道に出る賊の問題だ。


 この町の中は比較的安全だ。

 ヴォルト達種族王が三人いるしこの町の衛兵も頑張っている。

 けれども町の外になると話が変わって来るわけで。

 聞くところによると魔境を通る道以外の街道は中々物騒になっているようだ。


「私としては無償で見回ってくれる騎士団の派遣はありがたいんだがね」

「最近様々な物が値上がりしましたからねぇ」

「だなコルバー。ま、これは冒険者を護衛に雇う商人が増えたからなんだけど……、有名な騎士団が町に駐屯ちゅうとんし巡回してくれるだけで商人が盗賊に狙われる危険性は極端に減る。護衛の需要が高まって喜んでいる冒険者達には悪いが、私達からすれば物価が上がるのは好ましくない」

「種族王のお三方がいるとはいえ、それを知らない賊の方が多い。なのでこうした賊が出てくるのは自然な事なのですが、町としてはそれを受け入れる訳にはいきません。ここはお嬢様の胃を犠牲にしてでもオリヴィア騎士団の方々に頑張っていただかないと」

「はは。最近コルバーはリア町長に厳しくなったな」

「そうならざるを得ないので」


 出会った時ならばきっとコルバーは「休んでください」とか「代わりに私が出向きましょう」とか言っただろう。

 けれどもリア町長が各方面に奮闘した結果、彼女の力というのは代えがたいものとなってしまった。

 それにリア町長をしたう住民は多い。

 それもあってかどうしてもリア町長が先陣をきってこの町を導いていかないといけないのだけれども、彼女の胃は持つのだろうか。


「決めました! 」


 いきなりリア町長が顔を上げてキリッとした目でこちらを見る。

 嫌な予感しかない。

 本能が彼女の提案を断れと言っている。


「エルゼリアさんやヴォルトさん達にも一緒に同席してもらいましょう! コルバー! 」


 私が拒否をする前に彼女は出て行ってしまった。

 ポカーンと口を開ける中、机の上のソウが首をこちらに向けた。


「……我のクッキー」


 ★


「コルナット殿。案内助かった。礼を言おう」

「いえこちらこそ助かりました」


 コルナット達とオリヴィア騎士団がリアの町に到着した。

 今も元気なオリヴィア騎士団とは打って変わってコルナット達は少し疲れた様子だ。


「まさかあそこまで賊が蔓延はびこっていたとは」

「町と町を繋ぐ街道に巡回騎士を置かないとこうなる典型例だな。聞くに最近急激に成長した町との事。余裕がないのは分かるが、リア町長に会う時さりげなく進言してみよう」

「よろしくお願いします」

「可能ならばロイモンド伯爵が率先して騎士を派遣した方が良いのだろうが、彼女の多忙さはよく知っている。やはり、リア町長が先陣をきるのが一番だろう」


 コルナットが軽く頭を下げるとオリヴィアは町の方を見る。

 多くの人が行きかう中、白いマントをはためかせている彼女はとても注目を浴びているが気にした様子はない。

 鈍感なのか、それとも気にしないようにしているのか。


 ともあれ彼女達が軍馬を引き連れて、道中盗賊を薙ぎ払って行ったおかげで、他の賊達への牽制にはなった。

 放置するとまたき出るように賊が出てくるだろうが、それまでにロイモンド伯爵かリア町長が手を打てばいいだけの話である。


「賑わってますね。オリヴィア団長」


 オリヴィア達はコルナットの提案で、コルナットが持つ馬小屋に軍馬を置いて、ルミナス先導の下リア町長の館に向かっている。

 コルナットとは、彼が馬の様子を見るということで、一旦別れた。

 オリヴィアは小さな案内人に顔をほころばせながらも発展途上の町並みを見た。


 (とても発展途上とは思えないな。どこまで発展するのか先が見えない。流石の手腕。このまま発展したらこの国の重要拠点になりそうだ)


 本人の知らない所でオリヴィアのリア町長に対する株が上がっていた。


 リアの町はほんのわずか前とは異なり、様々な建物が出来、行きかう商人の数もかなり多くなった。

 が同時に足りないものも多くあり、馬小屋もその一つ。

 それを見抜きつつオリヴィアはコルナットの提案をありがたく思っていた。


「着きました。こちらになります」

「ああ。ありがとう。ルミナス君」


 案内を終えたルミナスはオリヴィア達と別れて店に戻る。

 そしてオリヴィアは門番に顔を向けて堂々と名乗りを上げた。


「私はオリヴィア・スカイフォード騎士爵である。陛下の命により参った。リア町長に面会を申し込みたいのだが、如何いかがかな? 」


 とても目立った。


 そして後でエイミーに怒られた。

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