第152話 エルゼリアはアルモンドの町へ様子を見に行く

 スターチス・シフォン公爵あてに手紙を出した。

 流石に公爵相手の手紙だ。きちんと書かなければならないので少し緊張。

 手紙には定型文の前書きとヴォルトと一緒に新商品を持っていくこと、そして移動手段としてソウに乗っていくことを書いて伝えた。

 ソウの事は一応説明している。

 けれどもあの巨体で公爵邸に乗り込むわけにはいかない。

 よってどこか着地地点を見つけつつ行かないと、と思っていると一週間が経った。


「まだ来ないではないか」

「相手は公爵だぞ? 返信が来ないのは忙しいからだろうね」

「我は暇である! 何か寄越よこすのである! 」


 駄々だだをこねるソウにいつもの野菜スティックを差し出すとポリポリと食べ始める。

 公爵といえば大貴族。

 領地経営に加えて国家運営にも関わっているだろうね。

 下手をすると一年以上返事が返ってこない可能性がある。

 この前も忙しいとか言ってたし、こればかりは気長きながに待つしかない。

 けれどもソウじゃないが、待ち遠しいのは確かだ。

 返事を催促さいそくするわけにはいかないし……。


「そうだ。アルモンドの町に行かないか? 」

「アルモンドの町? 」

「香辛料を送ってもらっている所だよ。それにアルモンド騎士爵の顔も見てみたいし」

「……また古い名前が出てきたのである」

「古くはないと思うけど」


 確かにかなり時間が経った気がするけど、その実第一回エレメンタル・フェスティバル・リアの時に襲撃してきた時からそんなに経っていない。

 ま、それだけ濃厚な毎日を送っているということになるのだが……。


「さて誰を連れて行こうか」

「連れていく必要はあるのか? 」


 言われて少し首を捻る。


 ――無いな。


 ちょっと町まで行って顔を見て、軽く市場を見て帰るくらいだから、特にないな。

 子供達を連れて行くのも一つかもしれないけれど最近連れまわし過ぎな気がする。

 時には親子や友達とのんびりと過ごすのも良いだろう。


「護衛だけやとってアルモンドの町に行くか」

「……用心ようじんしすぎなのである」


 ソウの呆れる声を無視しながら予定を組む。

 そしてアルモンドの町に行く日が決まった。


 ★


「いやぁ忘れられているんじゃないかと思ってたぜ」

「そんなことないよ。リットン」

「お世辞でも嬉しいねぇ。さ、アルモンドの町を案内しようか」


 当日。

 私はリットンを護衛にしてアルモンドの町へ来ていた。

 最初はいつもお馴染みテレサ達のパーティーを雇おうと考えていたのだけど、彼女達は今依頼でいないらしい。

 誰か都合のつく人がいないか考えていると見知った顔——リットンが冒険者ギルドにいたので彼にアルモンドの町に行ったことがあるか聞いてみた。

 するとあるとのことだったので護衛兼案内役として雇ったわけである。


「知ってるとは思うがこの町はグランデ伯爵領だった時から香辛料で成り立っている。けどちょっと特殊だ」

「特殊? 」

「この町の香辛料は、ダンジョンから採れているんだ」

「へぇダンジョン。ダンジョン産業か」


 アルモンド町長の所へ行きながらリットンと話す。


 ダンジョン産業。

 その名の通りダンジョンを利用した産業である。

 ダンジョンは放置すれば大規模災害につながる危険物。

 けれどうまくコントロール出来れば大金を動かすことができる金なる木だ。

 そこで採れるものは様々。

 シフォン公爵領のようにアラクネという魔物を住まわせて糸を生産させたり、ここアルモンドの町のように食材や調味料を育てたりと。

 けれどもそれを軌道に乗せるのは難しい。

 考えているよりもアルモンド町長はやり手なのかもしれない。


「ダンジョンのランクは六段階の内、もっとも下のF。食えない冒険者が出入りするのには丁度いい」

「リットンは行ったことがあるのか? 」

「ないな。俺は生まれも育ちもレアの町だからな。アルモンドの町に行ったのもロイモンド子爵領がグランデ伯爵領に吸収されてからだ……、って着いたぜ」


 リットンが顔を上げて私に教える。

 つられるように顔を上げると一階建ての少し大きな建物があった。

 そのまま見上げているのも不自然だ。

 早速門番に用件を伝えて中に通してもらう。

 かなりすんなりと通してもらったが、聞くとどうやら襲撃の時に食料を分けた人の一人だったようで。

 あの時の事を感謝されながらも廊下を行く。

 一つの部屋に通されるとそこには机に向かうアルモンド町長がいた。


「エルゼリアさん?! 」

「やぁ久しぶり。アルモンド町長」

「お久しぶりです! いきなりどうされたので? 」


 私に気付きアルモンド町長が心底驚いた様子で立ち上がる。

 握手を交わしていつも買っている香辛料を見に来たと伝えた。因みに「暇だから」とは伝えていない。


「それは嬉しい! 因みにですがいつもはどのようなものを使ってらっしゃるので? 」

「ハーブ系は重宝しているな。あとは胡椒こしょうか」

「なるほど、なるほど」


 ソファーに誘導されて三人が座る。ソウは定位置である私の肩。

 どれも料理には欠かせないものだ。高くつくけどこの町の香辛料は比較的安い。

 ま、ダンジョンで採れるのならそれを専門にしている人がいるだろうし、いないのなら低ランク冒険者に依頼として出しているだろうしね。


「ならば少しお分けしましょう」

「良いのか? 」

「私達が罪を犯した時処罰をせず町に戻してくれた、ささやかなお礼と思ってください」

「そんな大袈裟な。結局の所あれは暴走したグランデ伯爵とやらが悪かったんだから」

「それでも抵抗するという選択肢はあったはず。立場は違いますが、これがスカイフォード卿ならば伯爵に切りかかっていたでしょうし」

「スカイフォード卿? 」


 私の言葉に大きく頷くアルモンド町長。


「『閃剣』オリヴィア・スカイフォード。私は直接お会いしたことありませんが、オリヴィア騎士団という超人が集まった騎士団を纏めていた領主です」

「そんな騎士団があったんだな」

「ええ……。まぁ聞くところによるとスカイフォード卿が拝領はいりょうした時に解散したらしいですが……。ま、一町長がわかる程度なんて知れています。お会いすることもないでしょうしその話はおいておきましょう」


 とアルモンド町長が香辛料を用意してくれる。

 本当は市場で買おうと考えていたのだけれど嬉しい誤算。

 香辛料をありがたく受け取り私は町長と別れてリアの町に戻った。


 最後リットンに「また依頼、待ってますぜ」と言われたけど、次がいつになるのかわからないなと心の中で申し訳なく思いながらも、レストランに足を向けた。

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