第151話 チョココルネ・リア・ヴォルト

 この前出張レストランに行ったことで私の仕事はかなり多くなった。


 理由の一つはレストランに来る客が多くなったことだろう。

 けれどこれは一過性のものだろうと考えている。

 来てくれているお客さんの中にまた来てくれる人が増えると嬉しいなとは思う。

 一方で今までの経験だと、この町まで足を運んでまで何度も来てくれるお客さんは多くないとも思う。

 これは仕方ない。

 一番近い町で隣のレアの町かカブの町だ。

 例え隣町とはいえ距離がある。この町に定住するならともかく、日々仕事がある人がわざわざリアの町まで来るとは思えない。

 だからこの波を乗り越えたら余裕が出てくると考えている。


 もう一つはお菓子の開発だ。

 シフォン公爵一家はゆっくりでいいと言っていたけれど、一つ目は早く出したい。

 定期的に砂糖やカカオを送って来てくれているが成果を出さないと打ち切られる可能性もある。

 まぁあの様子だとそんなことは無いと思うが、今後砂糖やカカオの安定供給をしてもらうためにも頑張り所。

 出来れば砂糖の比率を抑えたチョコを開発したいのだが、さて。


「ん。出来たかな」

「それが噂のチョコとやらですか? 」

「そうだ。一つ食べてみるか? 」

「やったーーー!!! 」


 出来上がりを見てラビがぴょんと大きく跳ねる。

 すぐさま置いてあるチョコを一つ手に取って「カリッ」と良い音を出して目を輝かせた。


「ふわぁぁぁぁぁ! 甘い! 甘いですよぉぉぉ! 」


 口にしたラビが狂気狂乱してキッチンの中を暴れている。

 微笑ましく見ながらも「だろ? 」と言いつつ彼女に解説。


「砂糖の比率を抑えながらミルクをふんだんに使った。新鮮なミルクも高いが、砂糖ほどじゃない」

「ならお砂糖をいっぱい入れたらもっと美味しくなるのですか! 」

「さぁ? こっちの方が好みという人もいれば砂糖が多い方が良いという人もいればだな。中には砂糖を入れない方が良いという人もいるし、なんとも」

「でもでもっ! きっとお砂糖をいっぱい入れたら美味しいですよ」


 ラビは暗に私に作れと言っているようだ。

 けれども出来るはずがない。

 私からすればどうやって砂糖を使わずに良い味を出すのかが課題なのだからね。

 砂糖は、高すぎるんだよ。ラビ。


「ラビが給料を貯めて砂糖を買えるようになったら作ってやるよ」

「やったーーー! 因みにどのくらいですか? 」

「今の価格だとスプーン一杯の砂糖が金貨一枚だそうだ」

「………………え? 」


 言った瞬間、ラビが動きを止めた。

 抜け落ちた表情で何度も確認してくるが値段は変わらない。

 食べたものがそんなに高価だとは思わなかったのだろうね。

 まぁドラゴンスープを飲んでいる時点で、気にする程ではないと思うが。


「さ。次を作らないとな」


 と独りちて素材に向かう。

 ここは一つ、ヴォルトと共同開発といこうじゃないか。


 ★


 ヴォルトに幾つかチョコを渡して数日が経った。

 そしてヴォルトに「出来た」と連絡を貰ってソウと一緒に支度をしている所だ。


「早く行くのである! 」

「まぁそんなに急ぐな。パンは逃げない」

「いやヴォルトが味見といって全て食べてしまうかもしれないのである! 早く行くのである! 」


 ソウの言葉に「はいはい」と返して服を着替える。

 ヴォルトに共同研究を持ち掛けた時の彼の驚きようを思い出しながら部屋を出て、ヴォルトのパン工房へ向かった。


「よくぞいらっしゃいました。エルゼリア殿、ソウ殿」

「ああ。今日は楽しみにしているよ」

「早く! 早く我に新作パンを寄越すのだ! 甘い……甘い匂いが部屋に満ちているぅぅぅ! 」

「こら暴れるな。全く……。しかしソウじゃないが早く見たくはある」

「ははは。ではあまり待たせてはいけませんね。ではこちらを」


 ヴォルトが私に背中を向けてパンを取りに行く。

 その足取りはいつもより軽やかだ。

 新しい物を作った時、早くお披露目したい気分はよくわかる。


「「おぉぉぉーーー!!! 」」


 私達の前まで持って来てくれたのは二つのパン。

 チョコの甘い匂いが鼻腔びくうをくすぐる。

 まるで脳を溶かすような匂いだ。


「パウダー状のものを中で溶けるように仕込みました」

「これは面白い形をしているな。角笛つのぶえのようだ」

「ええ。ですので名前をチョココルネと名付けました」

「なら、最初に作られたこれは「チョココルネ・リア・ヴォルト」だな」

「自分の名前を入れられると少し恥ずかしいですねぇ」


 ヴォルトが頬を掻きながらチョココルネを手に取る。

 その顔はどこか嬉しそう。

 恥ずかしさはあるが、商品には自信があるといった所か。


「では、恵みに感謝を」

「「恵みに感謝を」」


 ゆっくりと口の中に入れて、サクッと噛む。

 柔らかい歯応えに、チョコの甘さが口の中にぶわっと広がる。


「パンが良いのかチョコが良く引き立てられてるな」

「むむ! これは新境地なのである! パンとチョコ。ケーキとはまた違うのである!!! 」

「楽しんでいただけて何よりです。しかしケーキとな? 」

「あぁ~、あれは砂糖をかなり使うから作れないんだよ。生クリームにも大量に砂糖を使うし」

「ほぉ。興味深い。いずれ作ってみたいですねぇ」

「そこは食べてみたい、じゃないんだ」


 どこまでの研究者肌のヴォルトに親近感を覚える。

 苦笑しているとソウが慌てて零れるチョコを抑えながらチョココルネを食べている。

 少し手についているがそれもなめとっている。

 顔には「満足」と書いてあった。


「しかし早かったな」


 多めにあったチョココルネを食べ終わりヴォルトに聞く。

 幾ら彼に睡眠が必要ないとはいえ話を持ち掛けてから開発まで早すぎる。


「実の所話をうかがう前から「チョコを使えたらどんなパンを作ろうか」と考えていたのです」

「なるほど。パンもそれから? 」

「パンは以前から素案そあんがありました。えてこの形にするメリットをあまり感じなかったので放置していましたが、こうして役に立つとは。本当に何が役に立つか分かりませんね」

「確かに」

「しかしチョコを渡された時驚きましたよ? 」

「ならドッキリ大成功といった所か」

「ええ。まさか棒状・板状のチョコのみならず粉末状のチョコも持ってくるとは恐れ入りました」

「いやまぁあれは粉末状のチョコとじゃなくてそのもとみたいなものなんだ。これだけ揃えたらどれをどんなふうに作るか興味があってね」


 チョコを作らないヴォルトに一通り説明する。


「実は棒状と板状のチョコはシフォン公爵に新開発商品として出そうと考えているんだ」

「これを、ですか? 確かに姿形は違いますが……」

「考えていることはわかるよ。もちろん二つとも通るとは考えていない。けれど継続的な支援を受けるには「やっている」という姿勢が必要なんだ」

「確かに音沙汰おとさたなしでは打ち切られる可能性がありますからねぇ」

「その通り」


 返事をして、ヴォルトに聞く。


「ヴォルトのチョココルネも一緒に出すか? 」

「ん~、そうですねぇ。出したくはありますが……冷めると味が」

「そこは我らが精霊様「ソウ」の転移魔法の出番だろ? 」

「む? 新しいチョコパンの話か?! 」

「何をどう聞いたらそう言う話になる」


 ぺろぺろと口周りを舌で舐めているソウがふざけたことを言う。

 しかしチョコパンか。


「これは「チョコ」の括りじゃなくて、「チョコパン」という新ジャンルのくくりとして出した方が良さそうかもな」

「確かに新ジャンルですねぇ」

「他人事みたいだがその開拓者はヴォルトだからな」

「誇らしい気分です」

「……私は一歩前を歩かれた気分だよ」

「ははは。すぐに追いつかれそうで怖いですが……、我々はこれで一矢報いる事は出来たでしょうか? 」

「もちろんだとも。我々はルミナスに一矢報いることができた。むしろイーブンだ! 」

「……本当に大人げない大人なのである」


 ソウの溜息が聞こえてくるが気にしない。

 我々開発研究者からすれば、重要なことなのだよ。


 ともあれ私達は話を纏める。

 ヴォルトも一緒にシフォン公爵の所へ行くことになり、あとで手紙を書くことになった。


———

 後書き


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